「対テロ戦略の再考:日本は対テロ戦争から撤退し国内防衛強化を」

片桐範之防衛情報センター研究助手、Japan Today誌コラムニスト
yaponorry@hotmail.com 

愛知和男ポリシーペーパー2002年12月号掲載

 

1.                   テロ戦争対処のコスト

日本が対テロ戦争に参戦してからはや1年以上が経ち、自衛隊も今やインド洋及び関連地域で給油もしくは情報収集活動など前代未聞の展開をしている。今年の11月19日にも自衛隊派遣の6ヶ月間延期を正式決定したばかりだ。

 しかし対テロ戦争というが、日本は一体誰を相手に戦争をし、果たしてそれに勝てるのか。

 一般的にテロとはその対象を脅威の底に落とし込める事を目的とする非通常型の示威的殺戮もしくは威圧という行為を指す。テロ自体はいわゆる古典的な国家間 戦争の「敵」にはならない。

 従って敵はテロを手段として用いる人間(テロリスト)である。そして今回のテロリストはオサマ・ビン・ラディンを筆頭とするアルカイダなどの世界中に散らばる反米イスラム原理主義者の一部である。さらにここで注目すべき点は、少なくとも今の時点での彼らのターゲットはアメリカであるという事である。証拠は、ビン・ラディンは1998年に出したファトワ(宗教布告)の中で実際アメリカを敵と特定化しており、去年の九月十一日もアメリカの力と象徴を狙ったもので、日本が彼らの対象であるという証拠はまだない。

 今回のテロリストがアメリカを敵視する原因はと言えば、カーター政権元国家安全保障担当補佐官ブレジンスキー氏も認めるように、アメリカの中東にある軍事的存在であろう。つまり、在中東米軍が今までと同じように中東に駐留する限り、テロリストが人間である以上何人倒しても結局将来も出てくるのである。

 忘れてはならないのが、テロリストを相手にする場合、コストは得られる利益よりも格段に大きいという事だ。コストについては、2つの側面がある。まず、攻撃側にあるテロリストはその対象の複数ある弱点の内どれをいつでも選んで攻撃できるのに対し、防御側は一つのテロを防ぐ為に全ての弱点を守らなければならない。更にアルカイダの例から分かるように、攻撃側はその実体を特定化する必要がなく、防衛側にとってテロを用いての反撃は必ずしも有効ではない。この過程で必要な資源配分は、全体の費用対効果を考慮すると、攻撃側に圧倒的有利に働くのである。

 又一度テロが何らかの形で成功すると、経済的や精神的にもテロの波状効果が拡大する。メディアが乗っ取り、事件のビデオが繰り返し流され、対応策がまともに取れないまま恐怖心が社会全体に長期間充満するのである。未解決の去年アメリカの東海岸で起きた炭素菌事件を思い出して頂きたい。

 

2.                   日本の敵は誰か?

日本が対テロ戦争に加担する理由はアメリカと同盟国であるという政治的、もしくは国際社会の一部であるという外交的なものである。日本がテロリストのターゲットに含まれているという誤解に基づく軍事的な理由からではないのは明らかである。

 この様な理由で戦争をするという事はある意味で賞賛に値するが、ここで日本が注意しなければならないのは、上記の様に彼らテロリストを敵に回した時に、利益よりもかかるコストが大きいことだ。

 例えば反米感情の強い中東や、地政学的に不安定な南アジアでの軍事作戦にアメリカ同盟国の一つとして参加した場合、現地の日本人だけでなく日本本土へのテロという行為が将来反撃として使われる可能性がある。又物理攻撃でなくとも、石油の価格高騰などどいう経済的な負荷が重くなる。この様な背景では、レバノンやシリア、サウジアラビアなどのいわゆる風見鶏国家(政治の動向により行動を変える国家)さえも日本の国益を著しく損なうことができるのである。

 実際に兆候は既に現れており、テロリストからの脅威も地理的に日本に近づいてきている。もともとイスラムの影響が強く、日本の国益に重要に関わる東南アジア諸国などは、最近アルカイダ系勢力によるテロ活動が盛んになっている。最近のフィリピンや、現在アフガニスタンでアメリカを支援しているオーストラリア人が多く犠牲になったバリ島のテロ事件同様、テロリストの矛先がいつアメリカの同盟国、日本に向けられてもおかしくはない。

 これらのテロリストは日本にとって間接的にだが脅威なのは確かである。が、費用対効果を考慮した場合、今の時点で攻撃に参加して彼らを敵にする必要は無く、さらに長期的に勝てる相手ではない。現実的に考えて、アフガニスタンでの軍事作戦は未だに終わっていないし、近い将来終わる見込みさえない。日本の国益を考慮すると、対テロ戦争に参加すると言うことは戦略的コストの方が利益よりも遥かに上回るのだ。

 

3.                   日本の戦略:日本は 対テロ戦争から撤退し国内防衛強化へ

今回のテロリストはその活動の広さ、力、恒久性などから日本の現存の攻撃力を用いても、莫大なコストをかけずに勝てる相手ではない。又日本の防衛力でも、憲法上もしくは外交上の制約を考慮すると、絶大なリスクなしでテロリストから国家と国民を守ることはできないだろう。

 従って対テロ戦争には以下の様な措置が必要になる。

 まず防衛面では、国内の対テロ防衛体制の整備を最大限にする必要がある。在日米軍基地や他のターゲットになりやすいランドマーク近辺に警察のテロ対策能力を高める。又テロ事件が発生した場合に備えて自衛隊のテロ対応能力の充実を図り、又有事法制の見直しも必要になる。防衛の基本として有事を防ぐ為に情報収集能力の強化が求められ、さらに石油備蓄の充実を図り、その調達先の拡大も戦略的に重要である。

 その他国防を支える手段として、テロリストの資産の凍結の継続、テロ行為を国内かつ国際的に禁じる法案とその促進、国内外のイスラム社会との平和的対話もしくは交流などが求められる。

 次に攻撃面では、日本が反米イスラムの敵になる前にアメリカの対テロ攻勢とは一線を画し、用いる軍事力もしくは給油の量は最小限にすべきである。現在派遣した兵力は維持しておくが、期間が切れたら撤退すべきだ。防衛が無い限り第一敵でもない者に対して攻撃をする事は逆効果で、軍事力などの所謂ハードパワーを作戦地域から撤退し、対テロ戦争に使う費用を国内の防衛強化にできるだけ回し、文字通りの専守防衛を構築するべきである。 

 これらの提言に対する反論として、軍事貢献を無くすと結果として日米安保が危ぶまれ日本は東アジアの力の均衡の中で孤立し、ジャパンバッシングになるという論理がある。が、それで実際苦労するのは政治軍事面で在日米軍に頼るアメリカであり、経済面で日本との貿易に期待する東アジア諸国であり、双方の面で日本孤立化に対する抑止が成り立つ。実際、韓国を含むアメリカの国益に重要な国々の貢献は日本のより圧倒的に少ないのに東アジアでは均衡が続いている。又、「孤立」というが、実際は逆に独自の安全保障政策決定権を握ると言う意味で日本が国際社会に「普通の国」であるというアピールになるではないか。

 さらに、この様にテロに対し「間接的」な処置を取ることによって、日本は財政的もしくは戦略的な資源を節約でき、対中や北朝鮮問題など日本の安全保障に「直接」影響を与える分野に的を絞る事ができるのもプラスである。日本の軍事資源には当然の事ながら限りがある。それを無駄なく最も効果的に使う為には、その安全保障アジェンダでの優先順位を脅威のレベルに合わせて設定し履行するべきではないか。

         


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