欧州連合の地球温暖化防止政策

 12 May 2003

「政策空間」vol.2掲載

 西澤真理子(PhD):テクノロジー・アセスメントセンター バーデン・ヴュルテンベルク・リサーチ・アソシエイト (ドイツ シュテュットガルト市在住)

 

 「京都議定書はどうしようもないくらい根本的に間違っている。」

2年前、温暖化ガス最大の排出国アメリカのブッシュ大統領は過度の経済負担を理由に他国間協定を一方的に離脱、世界の批判を浴びた。

 特に反発したのが欧州連合(EU)である。EUは温暖化ガス排出抑制を取り決める京都議定書策定の音頭を取り、1997年に議定書調印までこぎつけた。アメリカ7%、EU8%、日本6%と、2008年から2012年の間、1990年時点での温暖化ガスの排出量の法的拘束性を伴う排出抑制が合意されたのである。

 アメリカの離脱の中、昨年EUは域内で議定書批准を成し遂げた。引き続く日本の批准、カナダ、ロシアの議定書への参加表明は、世界での京都ルールの早期発効が悲願のEUをわかせた。

EUがなぜ京都議定書にこだわるのか。大きくは、環境問題での世界のリーダーの地位を確立するため。しかも自身の経済にはさほど痛手が出ない、というシナリオに裏付けられている。

 EUEU加盟国全体として温暖化ガス排出削減を目指している。最近の京都目標達成度は、アメリカ14%、カナダとオーストラリアは20%近い超過。日本は8%で、EU以外は軒並み90年レベル超過の水準未達成であった。

 なぜEUだけが達成可能か。ひとつにはドイツとイギリスのエネルギー事情がある。EUでのCO排出減の大半はドイツとイギリスが担っている。両国はエネルギー総供給に占める石炭の割合が過去高かったが、最近、相次いで天然ガスへ転換を図ったことでCOの排出を減少させた。またドイツでは、東西ドイツ統合で、旧東ドイツの環境排出「劣等生」の工場が相次いで閉鎖された。90年から94年の間のドイツの排出大幅減は、旧東独の産業構造転換によるもので、経済活動の中心の旧西ドイツ地域だけを見ると、排出減の成績は決して良くない。事実、EU全体としての排出量の削減目標は、EU加盟国固有の経済事情を考慮しており、ポルトガルなどには、30%以上の排出増加を容認している。

 環境意識が強い北欧、ドイツの世論が強いこと。また欧州では、BSEGMO問題をきっかけにより注意深いリスク政策が求められており、地球温暖化政策も含め、「疑わしき物には警戒措置を」と、EUの予防原則の推進に拍車をかけていることは確かである。しかし、経済に痛手を受けず、環境政策で世界のリーダーの地位を確立する意図がEUの地球温暖化政策の最も強い動機と見られる。 

 一方日本政府は昨年に議定書を批准した。しかし省エネ対策が進んでいる日本では(GDP比のCO2排出量が先進国で最小)、さらに国内排出を削減するためにEU15倍、アメリカの2倍のコストを支払わないとならない。多大なコスト負担に対し産業界は反発している。

 最近、ある学者が、「議長国として京都会議を成功させるため、日本はEUとアメリカに振り回され、あまりにも無理な案を呑んだ。アメリカや途上国なども参加できるような、日本にとっても公平な目標を次回の交渉で追求する必要がある、京都を繰り返すな」、と、外交の失敗を嘆いていた。

 人類の活動が地球温暖化の要因である事実は十分科学的に証明されている。先進国を中心にその対策を図るのが急務であるのは言うまでもない。アメリカの一方的な議定書の死文化宣言は大きな問題である。しかし、無理な高い目標を掲げ、健全な経済成長と環境保護の両者のバランスを崩すようなやり方も賢明ではないだろう。

 


(C) 2003 Policy Research & Analysis Network All Rights Reserved 無断転載を禁じます。