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「赤」と「緑」の不調和: エネルギーと先端医療をめぐるドイツ連立政権内の対立 西澤真理子(テクノロジー・アセスメントセンター リサーチ・アソシエイト) Last
revision: 30 Sep 03 ドイツの「赤」(社民党)と「緑」(緑の党)連立政権が誕生してから5年経った。連立政権の難しさは、異なる政策の違いや意見の対立をどう調整するかにあろう。このドイツの連立政権内でも、アフガニスタンやイラクへの介入などの外交問題の他にも、環境保全や公衆衛生の分野で連立政権内の対立が表面化してきている。そのひとつはエネルギー政策である。
1998年の連立政権誕生時、社民党(SPD)のゲーハルト・シュローダー(Schröder)を首相に担ぎ出しての連立政権誕生の大きな公約は、原発の停止。それは、社民党が保守政権のキリスト教民主同盟(CDU)から悲願の政権交代を果たすには60年代の学生運動、70年代の反原発運動を基盤に政治力を伸ばしてきた緑の党をパートナーにする交換条件であったのである。 ところがそのエネルギー政策をめぐり,「赤」と「緑」がもめている。緑の党出身の環境大臣ユルゲン・トリッティン(Trittin)は,火力発電からの脱却をさらに進め,風力発電を中心とした代替エネルギーへの転換を強く求めている。2003年8月27日付のDie Welt紙によると、緑の党は2010年までに、再生可能エネルギーを全エネルギー供給の12%まで増やすことを計画しているという。[1] それに対し,SPD出身の経済相ヴォルフガング・クレメント(Clement)は風力エネルギーを例に、緑の党が表明している大胆なプランに国が全面的に協力することは難しい。現在、ドイツの内地に、それもまったく風の吹かない所にも風力発電装置を設置してしまっている状態である、と、事実上、緑の党の方針に反対を表明し、今後も石炭への助成を続けるとした。はっきりとは触れていないが、石炭からの大きな脱却は、10%を超える失業率、リセッションから脱出できないドイツ経済を短期的にはさらに悪化させことを懸念しての労働党の立場であろう。この方針に対し緑の党は、石炭への国庫助成金の削減を強く求めている。
ドイツは歴史的に労働組合の力が強く、それをバックに成長したのが社民党SPDである。一方、70年代からのニューレフト運動を支持基盤に成長したのが緑の党なのである。よって、悪化する経済を改革しようとする中、労働者を守ることが必須であるSPDと、環境意識の強いドイツの中流階層を支持基盤にしている緑の党の環境政策をめぐる意見の違いに妥協を求めることは難しい。
9月から再び風力発電の長期計画をめぐり「緑」と「赤」の交渉が始まった。エネルギーをめぐっての政策決定をさらに難しくさせているのは環境保護や消費者保護のバランスである。強力なドイツの環境保護団体NABUとBUNDは緑の党の大きな支持団体であるが、風力発電所の設置による鳥の保護地と環境保護区への影響を懸念している。また、風力発電のコストはまだ高い。電力の値上げを行うことで、消費者の反対を浴びかねない。
赤と緑の対立が顕著になるもうひとつの政策分野は先端医療である。万能胚とよばれ、あらゆる臓器に分化させることが可能な、ヒトの胚(はい)性幹細胞(ES細胞)は現在、ドイツでは輸入のみが許されていて、国内で作成し研究を行うことは法で禁止されている。それは、ドイツのヒト胚保護法は、不妊治療以外にヒトの胚に手をつけることを禁止しているからによる。このES幹細胞の研究をめぐり、先端医療研究推進派の「赤」と、人の始まりに手をつけることは倫理的に許されるべきではないと主張する「緑」の対立が続いている。
ヒトの受精卵の着床前診断の論争では両党の対立が特に激しい。着床前診断というのは、体外受精による受精卵の細胞を一部取り出し分析し、正常であれば子宮内に移植し、以上があれば廃棄する技術である。80年代の後半にイギリスで初めての成功例を経、現在はヨーロッパとアメリカを中心に400人以上の子供が誕生している。ちなみに、日本ではケース・バイ・ケースで日本産婦人科学会が判断するという指針が数年前に出され、今年の9月に初めてのケースが学会に申請された。
この着床前診断技術は、やはりヒト胚保護法によりドイツでは法律で事実上禁止されている。しかし隣国に行ってこの技術を利用するドイツ人カップルが後を立たない。そこで着床前診断の合法化の論議が数年前からドイツ国内で盛んになってきた。「赤」のSPDは、首相のシュローダー始め、合法化については肯定的な姿勢をとっている。それに対し「緑」は、人間による生命の操作であるとこの技術に大反対である。着床前診断をめぐっては実際、教会をバックグラウンドとする、前政権の保守党CDU/CSUと緑の党が同調するという前例のない政治連立が起こっている。
環境問題は政治、経済問題といっても過言ではない。また先端医療は倫理的に問題になる側面が強い。その解決や対立する意見の調整は複雑で、一筋縄ではいかない。このように「赤」と「緑」からなる現ドイツの連立政権にとり、環境政策や先端医療政策は全く頭の痛い政策課題なのである。 [1] Clements Energiepolitik setzt SPD unter Strom: Bundeswirtschaftsminister verteitigt Kohlesubventionen – Bundesumweltminister und Fachpolitiker der Fraktion wollen Wind weiter fordern, Die Welt, 27 August 2003, 12. © 2003 Policy Research & Analysis Network All Rights Reserved 無断転載を禁じます。 |