時事通信「世界週報」2004年4月6日号掲載

「日本と世界の安全保障:米国財政赤字の国防予算への影響」

■渡部恒雄:CSIS戦略国際問題研究所日本部上級研究員

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<レーガン軍拡以来の財政赤字>

アメリカでは本稿執筆の時点で、2005年度予算審議がヤマ場を迎えている。
活発な民主党の予備選での反ブッシュキャンペーンの効果もあり、アメリカの
膨大な財政赤字が注目の的だ。議会予算局によれば04年度予算は4,780億ドル
の赤字、05年度は3580億ドルの赤字となると試算されている。

米国の財政赤字の主要因は、ブッシュ政権の大型減税とイラク戦争
および復興費用を含む軍事支出の増大である。特に軍事支出は、
その後のアメリカの経済低迷の要因となった経常収支と財政の双子
の赤字をつくりだした1980年前半のレーガン軍拡以来の大きな数字となっている。

ワシントンポスト紙は3月8日付けで、「軍事支出への警告」
(Military Spending Sparks Warnings)という興味深い記事を一面に掲載した。
軍事支出を大幅に削減し財政赤字を解消したクリントン政権で、
会計監査担当国防次官と国防副長官をつとめたジョンハムレCSIS所長は、
同紙のインタビューに答えて、現在の軍事支出の膨張を「1985年に戻った
ような感じ」と答え、「この財政赤字と国防予算は、ショッキングなほど膨大で、
政治的にも支えきれないもの」とコメントしている。

05年度の政府から議会への国防予算要求は4290億ドルで、
2004年度の4330億ドルからやや減少しているように見える。しかし、
これらの予算にはイラク・アフガニスタンでの活動費用が入っていない。

昨年、補正予算として870億ドルが計上されたことを考慮すれば、
2005年度の軍事支出も年間5000億ドルを超えると予想されて
いる。ちなみに、イラク・アフガニスタンでの活動費用が計上されて
いないのは、大統領選挙対策のために、ブッシュ政権が、意図的
に先延ばししているためとみられている。

今年の大統領選挙で再選を目指すブッシュ大統領にとっては、
膨らむ財政赤字に対して、民主党のライバルだけではなく、党内
の「小さな政府」主義者からの批判にも対処しなくてはならない。
とはいえ、共和党の存在意義ともいえる減税策を、特に選挙前
に撤回するわけにはいかない。そうなると支出削減しか手段はない。
実際、ホワイトハウスは、赤字削減策として、09年度までに歳出
抑制で財政赤字を年間2310億ドルまでに削減すると発表せざるを得なかった。

<軍事支出への削減圧力と抵抗>

当然ながら、この歳出抑制圧力は軍事費にも及ぶ可能性がある。
上院の予算委員会では、ブッシュ政権の要求する国防予算
のうち70億ドルを削る予算決議が通ったばかりだ。

陸軍は2月に、無人偵察機の発達で必要性が疑問視されている
総額390億ドルを超えるコマンチ武装偵察ヘリコプターの導入計画
を断念した。削減対象としては、さらに、冷戦期に開発が決定されて、
現在までに導入に至っていない装備、空軍のF-22次期主力戦闘機、
F-35統合攻撃戦闘機、普天間基地問題とも関連する海兵隊の
V-22垂直離着陸機、海軍のバージニア級攻撃潜水艦などが、話題に上っている。

しかし、イラクでの米軍駐留が進行中の現在、国防予算削減の難しさは、
冷戦下だったレーガン時代の比ではない。「我々の軍隊が敵と対峙して
いる戦時下にあって軍事費を削るのは間違いだ」と発言するダンカン・ハンター
下院軍事委員長(共和党)は、他の共和党議員とともに軍事予算削減に
反対する手紙を共和党のナッスル下院予算委員長に送っている。

イラクでの軍の死者が600人を数え、今後も劇的な治安の回復は
期待できない状況を考えると政治的にも軍の要求を無碍には
できないだろう。特に軍人への報酬には手をつけることは難しい。

ワシントンポストによれば、ブッシュの国防費の膨張内容で、
レーガン時代と異なるところは、費用の増加が軍の装備の拡大に
よるものよりも、軍人の給与の上昇、医療費や年金などの
福利厚生費の上昇による点だと指摘している。陸軍の担当者に
よれば、陸軍将校の平均年収は、1990年の6万8千ドルから、
現在11万5千ドルに跳ね上がっているという。  

<構造的な軍事費増大要因> 

さらに軍事費の増大には、同時多発テロやイラク戦争以前からの
長期的な構造的要素もある。1990年後半の時点で、軍事費を
飛躍的に増やさない限り、米軍の要求されるミッションは達成できない
という悲観的なシナリオがワシントンでは議論されていた。その一例が、
1995 年および1999年に発表されたCSISレポートによる「国防の頓挫」
(Defense Train Wreck)という警告である。

当時、国防費がミッション達成に不十分な根拠として、以下のような
理由が挙げられていた。米国の安全に対する脅威が冷戦後も存在
しているという状況の中、70年代と80年代に導入された兵器が20年
を経過し、老朽化していること。軍事技術革命(RMA)に伴う新世代
の装備が必要であること。世界でも最も巨大な官庁の一つである
国防総省の運営コストが上昇していること。軍の再編が一朝一夕には
進まないことである。この分析が正しいとすれば、同時多発テロやイラク
戦争などの目に見えるアメリカへの脅威が、それまでの軍の構造的な
問題を解消するような予算増を生んだという見方もできる。

いずれにせよ、上記のような事情と、イラク復興の難しさを考慮すると、
短期的には、ブッシュ、ケリーのどちらが大統領になっても、アメリカの
軍事支出の劇的な削減は難しいだろう。それゆえに、累積赤字がより
深刻になっていく中・長期的には、軍事費の支出抑制が、より重要な
政治課題として定期的に浮上していくであろうことは想像に難くない。

ミサイル防衛の共同開発・配備や在日米軍の整理・削減などの
重要課題を米国との間で交渉していく日本にとって、このような米国の
国防予算のトレンドと政治的事情は、よく観察しておくべき点である。

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