ワシントン発ポトマック河畔に吹く風  経済界 2003年12月23日号 

自衛隊派遣問題で揺れる日本は、イラクの復興支援に、主体性を持って臨むべきである。

  CSIS戦略国際問題研究所 渡部恒雄

 

11月13日のイラク南部での自爆テロで、イタリア軍警察に多数

の死傷者が出た事件は、自衛隊派遣の時期を慎重に検討している日本政

府に、大きな打撃を与えた。この件に関して、福田官房長官の発言が欧

米メディアで一人歩きし、日本があたかも派遣を中止するような報道が

流れた。ウォルフォウィッツ国防副長官の「日本にはじめから大きな期

待をしていない」という反応を見る限り(後に発言を訂正したが)、日本

の躊躇に関してブッシュ政権の不満と不安は大きい。だからといって、

アメリカの顔色をうかがうだけの小泉首相の説明では、国内の支持は得

られないだろう。

 

このような難しい状況の中であるからこそ、日本のイラク復興に

対する方向感覚が問われる。日本人が最初に考えるべきは、日本の国益

に死活的な二つの問題に、日本が主体的にどう取り組むかである。一つ

は、日本の生命線であるエネルギー供給先の中東、湾岸地域の安定をど

う図るか。二つめは、世界の安全と繁栄への深刻な脅威である国際テロ

リズムをどのように封じ込めていくか。

 

そしてリスクを承知で自衛隊を派遣するのであれば、イラクの治

安状況と今後の見通しは死活的に重要である。しかし、日本のメディア

を見ている限り、政治的立場ぬきの客観的で具体的な分析や提言にはあ

まりお目にかからないのが現状だ。

 

我CSISでは、イラクと軍事問題の専門家であるアンソニー・

コーデスマンが、アメリカ政府の招聘で、11月はじめからの12日間の

イラク現地調査をし、イラクの現状と今後の見通しを元に客観的な政策

提言を行っている。彼の見方は日本にも参考になるだろう。(Iraq Policy

Critique: Trip Reports http://www.csis.org)

コーデスマンによれば、一般にイラクの現状を見る立場は、「成

功間違いなし」か、「失敗は不可避」という両極端に分かれる傾向にあり、

しかもイラク戦争自体への賛否という政治的な立場から判断を下してい

る傾向がある。しかし、実際のイラクの状況は成功にも失敗にも、どち

らにも転ぶ極めて流動的な状況である。

 

コーデスマンは同時に、責任のあるアメリカ政府には、イラクの

宗教がからむ複雑な政治状況は、扱いを間違えると必ず爆発する時限爆

弾であると警告し、イラク戦争前にアメリカの「ネオコン」が考えてい

たような中東のモデルになるような単純なイラクの民主化と近代化など

はあり得ないと釘を刺す。しかも、自立した民主イラクがある程度まで

反米になることは覚悟しろとまでいっている。しかし、アメリカのイラ

ク政策のゴールをより謙虚で現実的な目標に設定すれば、目標達成は可

能であるとする。

 

コーデスマンは、次の9つのファクターが、イラク戦後復興の成

否を左右するとしている。

1暴力とゲリラ戦争を鎮圧、予防する過程 2イラクの国家建設

における暫定統治当局とアメリカ政府の政治的努力 3現在のイラク統

治評議会からイラク憲法の制定と国民選挙への移行過程 4宗派と民族

の対立と協力のレベル 5アメリカと国際社会の援助努力の影響と質 

6イラク経済の回復、近代化、改革の能力 7イラク人心を掴むための

情報戦略 8近隣諸国の役割 9イラク人への主権委譲の質とその後の

イラク政権の統治能力

 

それから、日本の自衛隊派遣にとって、最も気になる現地の治安

状況であるが、コーデスマンは決して楽観しておらず、現在のような戦

闘状況が、来年の2月以前までに改善することはあり得ない。しかも来

年の大統領選挙の最中に、大きな犠牲がでることもあり得るとしている。

イラクでの復興の鍵は、上記のファクターを押さえる大戦略の遂行であ

るが、それはアメリカの戦争遂行の政治に左右される。この点で、ブッ

シュ政権は厳しい決断を迫られるだろうとしている。

前述の9つのファクターで、日本が直接関与できることは、自衛

隊の後方支援活動による1と5の達成であろう。そしてヨルダンやサウ

ジなどの近隣の中東諸国と多額の援助を通じて良好な関係を持っている

日本は、8にも多大な影響力を持つ。

 

総選挙で過半数を維持した小泉政権のこれからの大きな課題は、

自衛隊を危険なイラクに派遣する現実から目を背けずに、自衛隊員と国

民に向け、どのような目的を達成するために自衛隊を送るのか、それが

日本、そしてイラク、国際社会にどのような利益、そして国際社会の非

協力がイラクと世界にどのような悲劇をもたらすかを説明することだ。

最後にワシントンで日本人として活動をしてきた中で、アメリカ

の信頼できる友人から聞かされているメッセージを紹介して、2年にわ

たる連載を終了したい。関係各位に深く御礼申し上げる。

 

「日本人は、自分の利益のために、何をしたいのかを自ら考え、

明らかにしてほしい。そのほうが、むしろアメリカと真の友人になれる。」

 

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