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経済界 ワシントン発ポトマック河畔に吹く風 「自民党総裁選の勝利と内閣改造で支持率を上げた小泉首相に対して米国は期待と不安が入り混じる」 (2003年10月23日号掲載) CSIS戦略国際問題研究所日本部上級研究員 渡部恒雄
小泉首相の自民党総裁への再選とそれを受けた小泉政権の内閣改造が、ワシントンではどう見られているのだろうか、というのが今回のテーマである。アメリカという極めて多様な意見が並立する社会では、その意見の最大公約数を求めるのは難しく、しかも日本人が想像する以上に、一般のアメリカ人は、日本や他国にそれほど大きな関心を抱いていない。 したがって、アメリカの対日観を探る際には、ワシントンの政策コミュニティーに属する人々の反応を見るのが早道である。政府、議会の日本担当者、それからシンクタンク、大学、民間企業で日本の動きを見ている人達である。具体的な数字を掴むことは不可能であるが、例えば、国務省で日本関係のキャリアを長年勤めてきたブリアーCSIS日本部長は、日本の政策を恒常的に追いかけ、政府の政策に影響を与えている人間というのは、ワシントンではおおよそ60人ぐらいの規模ではないかと語っている。この小規模の専門家のサークルが、アメリカの対日政策に大いなる影響を与えるのであるから、人数が少ないからといって侮れないのである。 本題に入ろう。彼らは小泉再選と内閣改造をどう見ているのか。ここ数年の日本の政局の混迷と経済の停滞を目の当たりにし、彼らの日本政治への反応や期待は、決して単純なものではない。それは小泉政権の経済構造改革の実際の進展の遅さに対する失望と、変貌を遂げつつある日本政治がもたらすであろう今後への期待の両者が入り混じったものだからだ。 小泉再選は大方が予想していたことだったが、多くの人の関心を集めたのは、自民党総裁選の過程で、過去30年間、自民党を動かしてきた最大派閥の橋本派が分裂し、影響力が弱まってきたことである。 筆者は、小泉再選の翌日に、「日本政治のベルリンの壁・小泉が橋本派の崩壊を誘導した」(The Berlin Wall of Japanese Politics: The Koizumi-Induced Collapse of the Hashimoto Faction http://www.csis.org)という論評をCSISから発表したが、多くの専門家から予想を超えた反響と賛同があった。 その内容は、細川政権での小選挙区制(比例代表区との並立制)導入、政党への公的資金導入、政治資金の規正強化を柱とする政治改革が、結果的に自民党の派閥の力を弱めてきて、今回の橋本派の弱体化に至ったという構造的な分析と、小泉首相自身が巧みに橋本派を切り崩し、実際の分裂を誘ったというものである。そして、この結果は、旧ソ連のゴルバチョフ書記長によるペレストロイカのように本人の意図を超えて、自民党政治の基盤を大きく揺るがす構造的な意味を持つと予想し、次の総選挙における小泉首相のジレンマを指摘した。それは、小泉首相にとって、抵抗勢力を弱めることは自己の人気を上げ、自己の政策の遂行能力を高めるが、同時に伝統的な自民党の支持基盤を弱め、自民党選挙の足腰を弱体化させる危険も孕んでいる、というものである。 同時期に、アメリカの代表的週刊誌ニューズウィーク(9月22日号)も、小泉首相の本質をその「世論重視」姿勢に求め、自民党の抵抗勢力と野党との複雑な構造を指摘している。小泉再選の原因は、民主党が徐々に力をつけ世論の支持を得てきているゆえに、自民党の議員達は、小泉を降ろすことが自らの選挙の敗北と考えて支持したと指摘している。そして、このような政治構造の矛盾の行き着く先として、小泉の自民党に対する政策的緊張が、最終的には日本に二大政党制をもたらすと予測している。 雑誌「エコノミスト」のインテリジェンスユニットによる分析(9月22日)はイギリス発のものだが、ワシントンでの一部の見方とも共通している。その短期的な予想はニューズウィークよりも現実的で悲観的だ。小泉首相は、有権者の人気を維持するための貴重な財産として尊重されるが、小泉内閣の目新しいスター達も、選挙が過去のものになるにつれ下降線をたどり、経済改革もこれまでと変わらず、自民党内の静かな抵抗により阻止されるだろう、というものである。 今回の内閣改造人事の目玉は、世界の最も大きな関心である日本の景気回復にかかわる経済閣僚であり、自民党内の反発から留任はないと予想されていた竹中平蔵氏が、財政と金融の両方の担当に留任したこと、また若手のホープ、安倍晋三氏が幹事長に就任したことは驚きをもって受け止められた。この新鮮な人事は日本人一般には好印象を与え、内閣支持率を総裁選前よりも10%引き上げ、60%前後としたわけだが、ワシントン、ロンドンは距離がある分だけ、一般の日本人よりも冷静に政治構造が見えている。 次の総選挙でも、みえみえの自民党の仕掛けに二度もだまされるようだと、日本の有権者自身が国際的な信用を失いかねないだろう。 © 2003 Policy Research & Analysis Network All Rights Reserved 無断転載を禁じます。 |