|
経済界 ワシントン発ポトマック河畔に吹く風 「アーノルド・シュワルツェネッガー出馬で盛り上がるカリフォルニア州知事選挙の光と影」 (2003年9月9日号掲載) CSIS戦略国際問題研究所 上級研究員 渡部恒雄
10月7日に投票されるカリフォルニア州知事の特別選挙が今や世界中の注目を浴びている。世界の人気俳優、アーナルド・シュワルツェネッガーの出馬がその理由であることは言うまでもない。しかも、シュワルツェネッガーだけではなく、アダルト向けの雑誌「ハスラー」の名物発行人ラリー・フリント、前回敗れた共和党候補で裕福な実業家のビル・サイモン、ロス五輪の組織委員長を務めたピーター・ユベロスら、125人以上が候補者として届け出し、ちょっとしたお祭り騒ぎとなっている。 なぜこのような事態になったのか。それは現職のデービス知事が、ITバブルがはじけたツケとして溜まっている382億ドルという巨額の財政赤字に責任があり、それに対する知事の無策と愚策に対して、住民の不満が蓄積しているところに端を発している。この382億ドルという赤字額は、他のどの州の年間の予算額よりも巨額である。 カリフォルニアの経済は全米最大であり、他の国家と競争しても、イギリス経済よりは小さいが、フランス経済よりも大きいという、世界第5位の規模を誇っている。しかも、今回二期目となるデービス知事は、一期目には電力市場での行き過ぎた規制緩和により電力危機を引き起こし、その対応が拙劣で不信をかっているところに加え、今回の財政危機に関しても、財政悪化の内容を知事が住民に十分に説明してこなかったところに、増税や学校の授業料の引き上げという対策を打ち出し、大きな不満を買っている。 共和党だけでなく、民主党にも不人気なデービス知事の無能に対して、共和党のダリル・アイサ下院議員が私費170万ドル(約2億円)を投じてリコール運動を展開した。そして住民投票の実施に必要な約90万人分を大幅に上回る160万の署名が集まり、リコール投票が設定された。したがって、今回は、デービス知事のリコール投票と知事選挙が同時に行われ、もしデービス支持のリコールが過半数で成立すれば、選挙で最大得票を得たものが知事に選出されるという特殊な状況になったわけである。 しかし、デービス知事がいかに無能で不人気であるとはいえ、法律違反やスキャンダルではなく、失政を理由にこのようなリコールが起こることは珍しく、アメリカの歴史上でも二度目の出来事で、カリフォルニアで史上初の出来事だ。 実のところ、このようなリコールのあり方は多くの批判を浴びている。たとえば、民主党からデービス知事に代わって、州知事候補に押されていた、人気の高い女性上院議員ダイアン・ファインスタインは、8月10日に選挙民に向け、現在の「サーカス」を終了させるために、デービス候補のリコールに反対するように呼びかけており、民主党は今回のリコールに反対票を投じることと、現職のデービスを支持することで一致した。 民主主義の手続きに問題を残す今回のようなリコールが、カリフォルニアで行われているのは、ひとつには、カリフォルニアの反「政治」と直接民主主義を望む伝統が背景にあるようだ。 19世紀の前半のカリフォルニアでは、州の政治と経済は、ユニオンパシフィック鉄道という巨大な企業に牛耳られ、必要ならば議員の買収も厭わない巨大資本の脅威は、労働者や中小企業の権利や利益を損なっていた。 したがってカリフォルニアでは、既存の民主的ルールに従っていたのでは住民の権利を守れないという危機感が広がり、直接民主主義的な改革が行われ、単に住民が気に入らない議員や知事をリコールにより拒絶できるようなルールが設定された。 現在他の州にくらべて、カリフォルニアはリコールに必要な署名数が少なく設定されている。リコールは、知事や議員の前回の選挙の得票数の12%の署名を集めれば成立するのである。しかもリコールの理由は何でもいい。日本ではリコールのためには有権者の3分の1以上の署名が必要であるから、カリフォルニアのリコールへの垣根がいかに低いかがわかるだろう。 またカリフォルニア州では、州の法律に対するリコールについては、州議会が修正をする余地がほとんどなく、過去に欠陥のある法律を作り出してきている。 民主党側が批判するように、このように低い垣根のリコールが乱発されれば、選挙の正統性を蝕むことにもなろう。今回、リコール運動を展開した共和党のアイサ下院議員は再選挙に出馬しているが、彼のように選挙の結果が気に入らなければ、巨額な資金を使い、時期を変えて選挙をやりなおせることになる。 日本との経済関係がもっとも深いカリフォルニア州知事に、親日家で共和党中道路線のシュワルツェネッガー氏が選出されれば、日本の国益にはプラスだと思われる。それと同時に、今回のリコールは、民主主義のあり方に一石を投じている意味深い選挙でもある。 © 2003 Policy Research & Analysis Network All Rights Reserved 無断転載を禁じます。 |