経済界 ワシントン発ポトマック河畔に吹く風

「北朝鮮拉致被害者家族のワシントンDC訪問の成果」

(2003日号掲載)

 渡部恒雄   CSIS戦略国際問題研究所日本部 上級研究員

 

イラク攻撃間近の3月3日の週、「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」の代表者が、問題の解決を訴えにワシントンDCを訪れた。我がCSIS戦略国際問題研究所も日本大使館と共催で、「Abduction ,An Aspect of the North Korea Problem」(拉致・北朝鮮問題の一つの側面)というコンファレンスを行った。その席で、北朝鮮が拉致の事実を認め、死亡したとされる横田めぐみさんの両親、滋さんと早紀江さん、拉致被害者で昨年に日本に帰国した蓮池薫さんの兄の透さん、やはり死亡したとさ
れている増元るみ子さんの弟、増元照明さんが、それぞれの家族の拉致の経緯および米政府や民間のシンクタンク専門家への理解と支援を求めた。

会場の日本広報文化センターは、直前の案内にも関わらず、立ち見がでるほどの満席状態で、国務省の日本専門家や朝鮮半島専門家の顔も見かけた。帰国後の記者会見で、代表の横田滋さんが「想像以上の成果をあげられたた」と答えていたが、ワシントン在住の筆者の目から見ても、彼らの訪米は極めて効果だったと思う。

3月5日のワシントンポスト紙のDiplomatic Dispatch(外交界発)には、ワシントン市内のホテルで取材を受けた横田夫妻のインタビューが記事となった。紙上では、めぐみさん拉致の生々しい経緯が早紀江さんから語られ、「北朝鮮が(拉致という)テロリズムに関わっており、人々がその恐怖に支配されてきたという要素をアメリカでも関心を持ってほしい」、「拉致問題を将来の米朝交渉の中で議題に取り上げて欲しい」という彼らの明確なメッセージが掲載された。ワシントン在住の政府・議会要人が必ず目を通すワシントンポストへのこの記事の効果は大きいだろう。

このインタビューの中でも語られているが、この訪問は家族の会が日本でハワード・ベイカー駐日大使に面会した際に、大使の強い薦めでこのタイミングでワシントンを急遽訪れた。また米政府内に多数の友人を持つ加藤良三駐米大使も、彼らの訪米にかなり尽力したとのことである。

その甲斐もあって、イラク攻撃開戦前夜にもかかわらず、彼らが会った政府と議会の要人のリストは、豪華の一言に尽きる。大統領や副大統領にこそ面会しなかったが、北朝鮮問題に関わる重要人物にはほとんどあっている。政府では、アーミテージ国務副長官、ホワイトハウスの国家安全保障会議のモリアティー・アジア上級部長とグリーン日本・朝鮮部長などだ。特にアーミテージ氏が「今後、北朝鮮と接触する時には必ず拉致問題に言及したい」と直接約束したことは大きな成果だろう。

一般的に政府関係者に比べて、議会、特に大物議員は、政府高官に比べてむしろ面会がし難い。ところが、上院の最高実力者・フリスト共和党院内総務、下院の最高実力者・ハスタート下院議長、およびダッシュル民主党上院院内総務、ルガー上院外交委員長、等に面会した。そして、下院外交委員会では、ハイド委員長主催の非公式の意見交換会が、委員会のお昼休みを利用して行われたが、この日の午前中に「北朝鮮国内の人権侵害への対策を促す決議」の審議が行われるというタイミングのよさである。

この豪華スケジュールは、ワシントン詣でをする日本の国会議員にとっては垂涎の的となるようなものだ。よほどの大物国会議員でも、訪米中に上記の議員のうち、一人にでも会えればいいほうだろう。これは多くの議員達から尊敬を集める元上院議員のべーカー大使の力がいかに強いかという点と、米議会の北朝鮮問題に対する関心の強さを示している。

コンファレンスにおける家族の会のメンバーの発言で、印象的だったのは、北朝鮮をテロ支援国家指定の継続および、北朝鮮へのアメリカの食料援助の停止を求めた点だ。脱北者の話によれば、外からの食料援助が、結局本当に飢えている人には行き渡っていないためという理由であった。北朝鮮を封じ込めて圧力をかけ、一刻も早く問題を解決したいという家族の方の心情は理解できるが、単純な強硬姿勢は今後の解決にはむしろマイナスとなる要素もあることは注意すべき点だ。

現在、アメリカはイラク問題に集中している上に、政権内で強硬派と関与派のコンセンサスが得られていないため、対北朝鮮政策はほとんど進んでいない。このような状態が続けば、その隙に乗じて北朝鮮が核兵器を保持してしまうという警告を発する専門家は少なくない。そうなれば、北朝鮮の交渉力は格段に上がり、拉致問題の解決にはマイナスとなろう。

しかも、実際に北朝鮮と交渉していく中で、強硬派よりも、関与派のほうが拉致問題を解決する機会とマインドを持っているはずである。例えば、アーミテージ氏は関与派である。そのあたりのアメリカの事情に関して、家族の会の人達はどのくらい事前に説明を受けているのかは、気になる点ではある。
 

 

© 2003 Policy Research & Analysis Network All Rights Reserved 無断転載を禁じます。