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PRANJ(政策海外ネットワーク)リポート
ワシントン発 月刊論座2003年8月号掲載

「情報の自由の侵害とメディア」

中村美千代:ジャーナリスト

 

民主政治を支える重要な役割を果たしてきた
アメリカのメディアが大きく変質している。
代わって権力への監視役を担っているのはNPOだ。

 

「今や真実を知ろうと思えば、ワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズではなく、エコノミスト誌のような英国のメディア、もしくは情報の自由(FOI:Freedom of Information)侵害を常時監視しているNPOのウエブサイトを見るべきだ」。米国によるイラク攻撃が行われる前の三月に開かれたフリーダム・フォーラムのFOI会議での講演で、元ロサンゼルス・タイムズのワシントン支局長のジャック・ネルソン氏は、米国メディアを痛烈に批判した。現在、イラク攻撃の報道をめぐって検証が行われているが、筆者がメディア関係者自身からこれほど強いメディア批判を聞いたのは初めてであった。二〇〇一年九月十一日のテロ以降のFOI侵害に鈍感な主要メディアの状況と、そのメディアに代わって監視グループとして重要な役割を果たしているNPOを紹介したい。

 バージニア州アーリントンにあるフリーダム・フォーラムは、報道の自由や表現の自由を守るために一九九一年に設立された。FOI会議はメディアや政府関係者、学者、NPOなどが参加して毎年開かれている。米国政府はほかの国の政府と比べると情報公開に積極的で、そのため自国政府に情報へのアクセスを拒否された外国の学者やジャーナリストが、米国の公文書館で自国の情報を発見した、というケースは珍しくない。しかし米国の誇るべき情報の自由が、9・11以降侵害されている。そのためこのFOI会議も最近特に関心を呼んでおり、今回はThe Reporters Committee for Freedom of the Press(RCFP)やCommon CauseなどFOI侵害の監視活動や民主主義を追求するNPOが数多く参加していた。

 ネルソン氏は、地方紙を経てロサンゼルス・タイムズに移り、一九七五〜九七年まで同紙のワシントン支局長を務めた。アトランタの地方紙Atlanta Constitution時代にはピュリツァー賞を受賞している。Atlanta Constitutionの調査報道記者として、ジョージア州のある郡の委員会に出席しようとした際に、一人の委員から「委員会の活動の中には、一般の人々が知るべきではないこともあるのだよ」と言われて参加を断わられたのを鮮明に覚えている、と講演で語った。ネルソン氏はさまざまな地方で、同じような言葉を何度も聞き、最近はワシントンで「一般大衆は知るべきではない」という言葉をよく聞くという。

政府と闘わないメディア

 ネルソン氏は「ブッシュ大統領はテロとの戦いの名の下に力を結集して秘密の保持に努めている。私はリチャード・ニクソン大統領以降の政権を記者として取材してきたが、これほど秘密主義の大統領を見たことがない」と語った。また「どんな政権であっても、メディアは常に、知る権利を拒む政府の秘密主義と闘わなければならないが、今日メディアは特に重要な使命を持っている」と述べた。その理由に、

・現在、大統領、議会(上下両院)、司法(最高裁判事)と三つの権力が共和党に押さえられている

・野党である民主党が非常に弱体化して、意見も分裂してまとまりがない

 などの点をあげている。

 しかしながら、ほとんどの新聞やテレビは秘密主義と積極的に闘おうとせず、政府の方針に対する批判的な意見を出さない、とネルソン氏は述べた。そして「今日、政府の秘密を本当に知りたいと思えば、新聞やテレビではなく、OMB WatchやRCFPなど政府を監視しているNPOのウエブサイトを見るべきだ。市民の自由や権利に対する政府の侵害を知りたければエコノミスト誌のような英国のメディアを読むべきだ」と言い放った。当時エコノミスト誌は米国のイラク攻撃を支持していたが、米国政府の行き過ぎた秘密主義と、特に移民に対する自由や権利の侵害に対して警鐘を鳴らしていた。ネルソン氏は「『愛国的でない』というレッテルを貼られるのを恐れているのか、米国の主要メディアはほとんど政府の秘密主義に対して闘おうとしていない」と述べている。

 9・11以降、米国政府はテロリズムや国家の安全保障とは関係がない、公共政策に重要なウエブサイトまで大量に削除している。OMB(行政管理予算局)の活動を追跡調査して政府の説明責任を追及しているOMB Watchは、ウエブサイト(http://www.ombwatch.org/)に、過剰反応した政府により削除されてしまった情報の例を載せている。

 ネルソン氏が設立者の一人になっているRCFPはサイト(http://www.rcfp.org/)と冊子で9・11以降の政府の秘密主義政策について詳しく説明している。冊子の “Homefront Confidential" では、まず目次で、情報へのアクセスの危機レベルを黄、オレンジ、赤などの色によって紹介している。これは9・11以降米国政府がテロの危険レベルを色別で表したのを模倣したものだ。それによると、二〇〇一年十月に制定されたPatriot Act(反テロ愛国法)は黄レベル、戦争取材はオレンジ、FOIは赤になっている。FOIが最も危機レベルの高い赤色になった理由には、二〇〇一年十月にアシュクロフト司法長官が、情報公開にオープンだったリノ前司法長官のメモランダムを取り消して「健全な法律的な根拠がある場合はFOIA(情報自由法)による情報公開請求を拒否してよい」とするメモランダムを出したこと、反対派が「三十六年のFOIAの歴史上、最もFOIAを弱体化させることになる」と主張していたHomeland Security Act(国土安全保障法)が二〇〇二年十一月に制定されたことなどがある。 

 RCFPはまた、サイトと冊子でテロ以降のFOI侵害に関する出来事を、二〇〇一年九月から現在までの詳細な年表で紹介している。ネルソン氏は「新聞などのメディアはFOI侵害の出来事を単発的には出すが、時系列で網羅したものは出していない。その点でRCFPはメディアがやらない非常に貴重な仕事をやっている」と言う。

 実は、ブッシュ大統領は9・11のテロが起こる前から秘密主義だった。ブッシュが大統領になった最初の年度である二〇〇一年度のclassification action(情報を機密として公開しないと決定すること)の件数は史上最高に上り、前年度よりも四四%増えて三千三百二万件だった。しかしこのような情報もインターネット上でしか見られない。これはInformation Security Oversight Office(ISOO)のサイト(http://www.archives.gov/isoo/)にある。

ISOOはカーター政権時代に作られた政府機関で、情報を機密にする際の監視や、安全保障に対応した情報公開をできるだけ促進する重要な活動を行っているが、一般にはほとんど知られていない。カーターは情報公開に積極的な大統領で、一九七八年の大統領命令によって、政府官僚は初めて情報を機密情報にする際には一般大衆の知る権利を考慮するように、疑わしい時には最も低いクリアランス・レベルを使用するように指示された。

 インターネットでこのような情報を目にすることがない人々は、市民の権利が侵害され、重要な情報が機密としてどんどん隠されていることを知らず、政府の政策が良いものと思い込む、とネルソン氏は指摘する。米国の世論調査でも「メディアではなく政府の方に共感する」と答える人が多くなっている。そればかりではなく、トークショーや新聞への投稿を見ると、政府が秘密にしている戦略をメディアが暴露することに怒っている人が多い。「これは、政治的な理由や戦略から、政府が情報を意図的にリークしていることをメディアがほとんど指摘していないからである」とネルソン氏は言う。「例えばドナルド・ラムズフェルド国防長官はリークした者に対して懲役刑を要求するほど激しく非難しているが、実は多くのリークは長官のいる国防総省から出ている」と指摘している。

 ネルソン氏は二〇〇二年秋にハーバード大学のジョーン・ショーレンスタイン・センター(メディアや政治、公共政策を研究する)のフェローになり、「米国政府の秘密主義とリークに対する最近の取り締まり」と題するワーキング・ペーパーを書いた。それによると、二〇〇二年十月二十日に、当時上院の情報委員会の委員長だったフロリダ州選出のボブ・グラハム上院議員が、ブッシュ政権を、国家の安全保障問題よりも政治的な問題に対応した機密情報を選択的に暴露している、と言って非難している。二〇〇二年十一月十七日付のニューヨーク・タイムズは、米国内に住むイラク人をテロリストの可能性があるとして監視しているというリポートを官僚が認めたのは、明らかに、米国のインテリジェンスがテロ防止に役立っていないという議会などの昨今の不満に反証しようとするものだ、と報告している。

利用されたウッドワード

 機密情報の暴露やリークは、ニュース報道の形成やスピンに使われる。役人の中には、リークを、政治的な遺恨を晴らすために使用したり、彼らが「利用できる」と考える記者に取り入るために使用することもある。最近ワシントン・ポストのボブ・ウッドワード氏が『ブッシュの戦争』と題する本を出版した。ほかの記者が知り得ない独占情報を駆使して、9・11のテロから百日間のブッシュ政権の動きを詳しく描いていることが話題になっている。しかしネルソン氏は「ウッドワードはある意味、ブッシュ政権のプロパガンダに使われた」と見ている。筆者とのインタビューで「『ブッシュの戦争』には政権に対する批判的な見方がほとんどない。ウッドワードは、政府が報道してほしいと考えている情報にアクセスを与えられたにすぎない」と答えている。筆者が「かつてウォーターゲート・スキャンダルを暴いたウッドワードはジャーナリストとしての気質を変えてしまったのか」と問うと、「そうだ。名声を遂げて、真実を追求する熱意を失ってしまったと私は見ている」と答えた。「ウッドワードはまさにブッシュ政権にとって『利用できる』記者と見なされている」とネルソン氏は言う。

反リーク法

 情報の自由の危機に鈍感な米国メディアだが、「実は今に始まったことではない」とネルソン氏は講演で述べた。二〇〇〇年に米国史上初めて議会が、どんな機密であっても、公開しても害がないものであっても、また、機密にすることが不適切であったとしても、リークすると罰せられるという反リーク法を通過させた時にも、メディアは「昼寝をしていた」(ネルソン氏)。ネルソン氏はワーキング・ペーパーで、その経緯を詳しく紹介している。

 二〇〇〇年、共和党のリチャード・シェルビー上院議員が反リーク法を提案した。議会の討論が非公開で行われていたため、メディアはほとんど関心を払わなかった。唯一PBSテレビのニュース番組がこの問題を取り上げ、シェルビー議員と、調査報道ジャーナリストで政府の情報公開を積極的に求めているスコット・アームストロング氏とのディベートを放送した。アームストロング氏は「この法案は、ホイッスル・ブローワー(不正を告発して警鐘を鳴らす人)を萎縮させるだけだ」と主張した。シェルビー議員は、法案は国家の安全保障の悪化につながる機密情報の暴露を阻止するもので、政治家の不正を擁護するものではない、と主張した。

 アームストロング氏は「議会がこの法案を通過させることはまずないだろう」と、心配もせずに長期出張のためワシントンを離れた。そしてワシントンに帰ってきて「議会、リークを罰する法案通過」というワシントン・ポストの見出しを見て飛び上がった。その記事はAP通信をベースにした無署名の記事で、たった二百三十六語だった。ニューヨーク・タイムズも同じようにAPの記事を使った短い記事だった。ネルソン氏は「どちらの新聞も自前の取材さえしていなかった」と述べている。

 アームストロング氏は、クリントン大統領に法案に対して拒否権を発動させるキャンペーンを起こそうとして、元CIA相談役のジェフリー・スミス氏やメディア関係者に電話をかけまくった。メディア関係者の中にはワシントン・ポストの発行者のジョーンズ氏も含まれていた。ジョーンズ氏は後に「油断をしていた」と認めている。興味深いことに、拒否権発動キャンペーンにはメディア関係者だけでなく政府関係者も参加した。国防総省のスポークスマンのケネス・ベーコン氏らは、自分たちはしょっちゅう機密情報を使って記者にブリーフィングを行っており、反リーク法ができれば自分たちも訴追されることになる、とホワイトハウスに訴えた。この土壇場のキャンペーンによって、クリントン大統領は「大衆の知る権利は安全保障問題より重要」として拒否権発動を決めた。

「アームストロング氏がいなければ、反リーク法案は確実に法律になっていた」とネルソン氏は筆者とのインタビューで答えている。このように情報の自由に鈍感なメディアだが、ネルソン氏は絶望しているわけではない。

 9・11の数カ月後から、官僚とメディア関係者らが集まって、メディアの報道の権利を侵害せずに国家的な安全保障上の機密をどのように守るべきか、について話し合う「ダイアローグ」と呼ばれる会合を定期的に開いているからだ。ダイアローグは、反リーク法を制定しようとする動きが再び現れ、機密情報のリークに対して懲罰を科そうとする官僚の動きがあったため、これを牽制しようと、アームストロング氏とスミス氏が中心になって組織された。メンバーは政府官僚やメディア関係者ら三十五人である。ネルソン氏は「これでリークをめぐる政府とメディアの緊張関係のすべてが解消されるわけではないが、両者がお互いのことをよりよく理解するようになった。メディア側はどのような機密の公表に対して慎重にならなければいけないか、ということを理解するようになり、政府側はメディアが責任を持って政府を取材する際に、リークを使用する必要が時にはあるということを知るようになった」と話している。

 ダイアローグの最も大きな功績は、議会に再び反リーク法を通過させようとする動きを昨年阻止したことである。いくつかの政府機関にまたがる特別調査団がダイアローグの会合に参加して徹底的に話し合い、法案破棄につながった。

 最近、大量破壊兵器が見つからないことから、イラク戦争の開戦前に情報操作があったのではないか、という疑問の声が上がり始めている。国防総省の国防情報局(DIA)が昨秋、「イラクに化学兵器が存在する有力な証拠はない」という報告書をまとめていたことを、米国のメディアが報じている。またワシントン・ポストも最近、チェイニー副大統領がCIAを数度訪れて、イラクは大量破壊兵器を持っているというブッシュ大統領の政策に沿うような調査報告を出すように圧力をかけていた疑いがある、と報じている。近々行われるダイアローグで、このトピックが当然議題に上るだろう、とネルソン氏は話している。

 9・11以降、米国メディアは萎縮して自己規制している。しかしRCFPなどのNPOが既存メディアに代わるウオッチドッグとして機能している限り、またネルソン氏のように「政府の秘密主義」を追及している人たちがいる限り、米国の民主主義が傾くことはないだろう。


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