*この記事は朝日新聞社の了解を得て転載しています。無断で転載、送信するなど朝日新聞社及びPRANJの権利を侵害する一切の行為を禁止します。

PRANJ(政策海外ネットワーク)リポート
ワシントン発 月刊論座2003年3月号掲載

「米国のIT選挙運動の実情」

池原麻里子 ジャーナリスト

日本では法律で禁止されているインターネットの選挙活用。
メディアを積極的に利用してきた米国では、当選の
必須手段であり、若者と政治をつなぐ役割を担っている。

 日本では総務省の「IT時代の選挙運動に関する研究会」(座長:蒲島郁夫東大教授)がインターネットによる選挙運動について検討し、二〇〇二年八月に各種選挙で幅広く活用することを認める報告書を発表した。記者会見で蒲島座長は「若い層が選挙から離れている今、インターネットを排除した形では二十一世紀の民主主義は考えられない。また、お金をかけずに候補者の情報を有権者に知らせることができるという利点もある」と述べた。この報告書に基づき、片山虎之助総務相が公職選挙法改正案作りを命じたので、第一五六国会で審議されるであろう。

 日本のインターネット普及率は四四%で世界十六位だが、その利用者数は五千五百九十三万人と世界第二位である。それではインターネットの普及率が六〇%以上で利用者数が世界第一位、有権者の八〇%がアクセスしているアメリカでインターネットは選挙運動にどのように使われているのだろうか。

インターネット選挙運動の動向
 一九九二年に民主党大統領予備選でジェリー・ブラウン元カリフォルニア州知事が初めて電子メールによる選挙運動を展開した。九四年中間選挙ではエドワード・ケネディ上院議員(民主・マサチューセッツ)とダイアン・ファインスタイン上院議員(民主・カリフォルニア)が初めて、候補としてウエブサイトを作った。これは上院議員としての連邦予算で作られている公式のウエブサイトとは別に選挙予算で作ったものである。ミネソタ州は連邦上院議員候補、および州知事候補の討論会を初めてインターネットでも放送した。

 二〇〇〇年の選挙では連邦議員候補、州知事候補の約六〇%がウエブサイトを作り、履歴、政策などの基本情報のほか、スピーチのビデオやオーディオをオン・デマンドで提供したり、電子メール・ニュース配信希望者やボランティアの登録を受け付けたり、献金集めをするようになった。同年の大統領選挙ではインターネットで数多くの「初めて」の出来事が起きた。詳細は後に記すが、各候補のインターネットの活用方法が洗練された。アリゾナ州は民主党大統領予備選挙で初めてオンラインで法的拘束力がある投票を実施した。

 二〇〇二年には、インターネットによる選挙運動はもう目新しいものではなく、不可欠なものになった。同年の中間選挙では連邦議員候補、州知事候補の七〇%がウエブサイトを作った。そして五五%以上がそこで献金を集めた。これは二〇〇〇年には二五%以下だったのに比べ倍以上で、集めた額も倍増した。電子メールによる選挙ニュースもほぼ無料というコスト・ベネフィットが重視されている。またどこからでもアクセスできるので、対抗候補の批判やメディアの質問にただちに対応するようになった。二〇〇二年の新しい傾向はインターネット上に選挙広告が出現したことだった。たとえばアメリカ・オンラインは二十人の上院議員候補と州知事候補の広告を載せた。またワイヤレス通信の活用も始まった。選挙本部が支持者のPDAに情報を送ったり、候補が有権者の携帯電話に投票を促す短いメッセージを送ったりするようになったのである。

インターネットのJFK:ジェシー・ベンチュラ
 インターネットを最大限に駆使して全米の注目を浴びたのは九八年にミネソタ州で州知事に当選したジェシー・ベンチュラである。同知事選における二大政党の候補は、民主党はヒューバート・ハンフリー元副大統領の息子で州司法長官のヒューバート・ハンフリー三世、共和党はセントポールの市長、ノーム・コールマンだった。改革党候補として出馬した元プロレスラーのベンチュラは組織も選挙資金もなく、泡沫候補と見られていた。しかし、ベテラン選挙ウオッチャーたちの予想に反して、ベンチュラは投票したミネソタ州民六〇・四五%の三七%に相当する七十六万七千四百九十二票を獲得して見事に当選したのだった。

「ミネソタEデモクラシー」という中立の市民インターネット・プロジェクトの創始者であるスティーブン・クリフトは「ベンチュラはインターネットによるキャンペーンで二〜三%の票を稼いでいる。これは次点候補との票差に相当する」と分析している。ちなみに次点のコールマンの得票数は三四%、七十一万二千七百六票だった。コールマンもハンフリーもウエブサイトは作ったが、十分に活用しなかったのである。

 ベンチュラはミネソタ州が全米でもインターネットの普及率が高いことに注目し、低コストで済むインターネット上の選挙活動を展開した。彼のウエブマスターを務めたのはフィル・マドセンという当時四十六歳の男性だった。九二年のロス・ペローの大統領選挙に関与した後、出身地のミネソタ州に独立党を設立し、九八年にベンチュラのウエブマスターとしてボランティアや寄付、支持者を集めた。同年二月に誕生したベンチュラのウエブサイトは決して洗練されたものではなかったが、選挙活動に最大限に活用された。インターネット・チームはインターネット、携帯、ファクスで電話をとりあい、バーチャルなインターネット本部を設立した。非公開のウエブページのメッセージボードでチームメンバーはあらゆる問題について常時、連絡し合った。七十二時間におよぶ遊説ツアーもインターネットで準備したため、月曜に計画を立て、金曜には四台のキャンピングカーでツアーを始めるという即時なアクションが可能だった。各地での遊説の模様をボランティアがデジタルカメラで撮影し、即時、ウエブサイトにアップした。ツアーが終了するまでに百メガバイトのデジタル写真が撮影された。

 ベンチュラはインターネットを活用することで、政治に無関心と言われている二十歳代、いわゆるジェネレーションXも政治参加させた。州全体で投票率が高くなったのは初めて投票する人が増えたためで、そのほぼ全員がベンチュラに投票したのである。

 ベンチュラは単に履歴や連絡先を掲載するだけでなく、マルチメディアのコンテンツ、メッセージボード、チャットルームを通じて有権者たちとインターアクションすることで政治参加意識を高めた。電子メール・アドレスを集め、支持者を活性化することで僅差の勝利にこぎつけたのである。

 六〇年の大統領選でケネディ対ニクソンの討論がテレビ放送されたことで、選挙におけるテレビの存在が確立され、テレジェニックなケネディが選挙戦を有利に戦ったことは広く知られている。九八年にインターネットを活用することで当選したべンチュラは、「インターネットのJFK」とまで言われ、そのカラフルなキャラクターもあって全米の注目を浴びた。

二〇〇〇年大統領選挙
 スティーブ・フォーブスは共和党大統領予備選挙出馬を初めてインターネット上でも生放送で発表した。ジョン・マケイン(共和)はインターネットで一日に五十万ドル、一週間に二百万ドルの寄付を集めた。ビル・ブラッドリー(民主)はインターネットで一番初めに百万ドル以上の寄付を集めた候補として注目された。そしてインターネットで集めた寄付に対して、連邦の選挙助成金を申請し、承認された。アル・ゴアは初めてビデオ電子メールを使った。その他、新しい試みではないが、ブッシュやゴアのウエブサイトではカリフォルニア、テキサス、フロリダという大票田で重要度が増しているヒスパニック系をターゲットとしたスペイン語のページも充実させた。またブッシュのサイトでは各人がブッシュの税制案による個人所得減税額を計算できるフィーチャーもあった。各候補とも電子メールによるニュース配布にも熱心だった。

 なかでも予備選挙におけるマケインのインターネット戦略が注目を浴びた。マケインが二月一日にニューハンプシャー州の予備選で最有力視されていたブッシュに勝つと、ウエブサイトを通じて四十八時間で八十一万ドルの寄付が集まった。この献金者の四〇%が初めて政治献金した人たちだった。そして二月だけでも六万人がウエブサイトでボランティア登録した。マケインはニューハンプシャー州で勝利した直後、参加者一人当たり二百五十ドルのネット討論会も行った。マケインの選挙参謀のダン・シュナーはマケインにはブッシュのような組織も資金力もなかったが、たった一万ドル投資したウエブサイトによってこれを補足し、予備選挙中に総額六百万ドルの寄付を集めることができたと語っている。

 候補は米連邦選挙委員会に一人年間二百ドル以上の寄付は申告することになっているが、インターネットによる個人からの寄付は小口のものが多いため、各候補がインターネットを通じてどれだけ寄付を集めたかの正確な数字はない。ダイレクトメールや電話による寄付依頼は効率が悪いが、インターネットは少額の投資ですぐに反応があるという。ブッシュとゴアは投票日後もフロリダ州で大統領選の結果が混迷すると、ウエブと電子メールで再集計のための資金を献金せよ、と呼びかけたのも記憶に新しいことだ。

 ゴアのサイトは「ポリティックス・オンライン」というインターネットの政治専門ツール企業に二〇〇〇年の選挙サイトナンバーワンに選ばれた。ゴアのサイトを担当したのはマグロウヒルなど大企業を顧客に持つワシントン郊外のIDEVという会社で、選挙サイトの顧客としては、ゴアが初めてだったという。選挙スタッフと政策専門家たちが常時、サイトをアップデートできるようにすることで、ウエブマスターがボトルネックにならないようにしたり、ビジュアルなプレゼンテーションを心掛けた。ビジターが独自のウエブページを作って、他の人たちに送ることができる電子メール・マーケティングなど、他のサイトにはない特徴を持っていた。

インターネット選挙運動戦略
 候補者のウエブサイトは情報を二十四時間提供できるという利点はあるが、有権者に直接接することも重要である。二〇〇〇年大統領選挙は各候補がインターネットを活用し始めたという意味で大統領選におけるインターネット元年といえる。インターネット・コンサルタントのパム・フィールディングはインターネットの選挙運動では次の点が重要だと指摘している。

(1)中身を充実させること。候補のウエブサイトにアクセスする有権者の多くがその候補の政策的な立場に関心を持っているので、これを明記すべきである。またビジターを候補の支援者にすることが重要で、そのためには電子メール・ニュース受信に登録したり、寄付したり、ボランティア登録したり、知人にメールできる機能を作るべきである。ジャーナリストも情報を求めるのでメディア専門のページを作り、プレスリリース、基本データ、報道官コンタクト情報などを記載することが重要である。

(2)有効なインターネット戦略とはそれ以外の選挙運動と融合させたものである。例えばポスターや選挙カー、名刺にウエブサイトのアドレスを載せる。選挙スタッフは遊説先やパーティーなどあらゆるチャンスを利用して有権者の電子メール・アドレスを集める。これを地理的に区別しておけば、各地でのイベントの連絡に活用できる。

(3)しかるべき投資をすること。常時アップデートしてちゃんとメンテナンスしていないウエブサイトは逆効果になる。ウエブサイトは有権者と対抗候補に常時、注目されているから、古かったり、間違った情報を放置しておくことは支持者を失い、対抗馬に攻撃される原因となる。

 それでは実際に有権者は、候補者のウエブサイトに何を、そしてどんな情報を求めているのだろうか。二〇〇〇年の選挙におけるインターネット活用度について調査したペンシルべニア大学アネンバーグ公共政策センターの調査によると、インターネットで政治情報にアクセスしているウエブ活用者の八一%が候補のサイトで、その候補の履歴や政策ポジションを求めていた。これに対して候補の八九%が履歴、七五%が政策ポジションを明示していた。しかし、六〇%が他の候補とのポジションの比較を求めていたのに対して、候補者の一二%しかこの情報を提供していなかった。また、三六%が誰が献金したかという情報を求めていたのに対して、候補者の三%しかこの情報を記載していなかった。一方で、候補者の六〇%がオンラインで寄付できる機能を設けていた。寄付はもらっておきながら、誰からもらったかという情報は公開していないのである。このように有権者が求めている情報と候補者のウエブサイトの間には、まだギャップがあることがわかる。

法規制
 連邦選挙委員会は連邦選挙活動法上のインターネットの扱いについて規制案を九九年十一月に提案し、パブリック・コメントを求め、二〇〇〇年八月にガイドラインを発表した。インターネット上で従来の選挙活動を行った場合にも、ほぼ同じ法が適用されることになった。ガイドラインでは一年に二百ドル以上献金した支持者の身元確認に最善の努力をして、連邦選挙委員会に報告すること、企業、労組、外国人からの寄付は受領できないことをサイトに明記することが規定されている。クレジットカードで寄付をオンラインで受領してもよく、連邦資金をもらう資格がある大統領候補はオンラインで集めた寄付に対しても「マッチング・ファンド」という選挙助成金を申請できる。なお、現職議員の選挙候補としてのウエブサイトは連邦予算で賄われている議員の公式サイトとは別に、選挙資金で作ることが義務づけられている。そして上院議員は選挙の六十日前、下院議員は九十日前から公式サイトをアップデートしてはいけないことになっている。

 昨年のいわゆるマケイン・ファインゴールド法とよばれる選挙資金改正法が成立し、ソフトマネーという,企業、団体、個人からの政党への献金が禁止された。その結果,この十二億ドルあまりのソフトマネーのかなりがインターネットに流れることになり、オンライン活動費が最低三〇〇%から五〇〇%増えると予想されている。

今後の展望
 アメリカでは〇四年には有権者の四〇%が自宅でブロードバンドにアクセスするようになると予想されているが、ブロードバンドの普及で双方向のコミュニケーションが活性化するだろう。〇八年にはブロードバンドの普及によって、テレビとインターネットが融合し、二つの媒体の区別は無意味になっているかもしれない。インターネットは選挙活動ツールとして今後、ますます不可欠となっていき、利用方法も洗練されるだろう。予想されるインターネットの今後の普及とブロードバンド化に伴って、アメリカの選挙におけるさらに本格的なインターネット革命が、〇四年か〇八年の選挙で起こるものと考えられる。

 情報を求める有権者に、多くの情報を安く提供できるインターネットを利用した選挙活動は、日本でも大いに活用されるべきである。日本のインターネットの普及率から考えると、そのための法整備はむしろ遅すぎた感がある。


© 2003 Policy Research & Analysis Network All Rights Reserved 無断転載・部分転載を禁じます。