| 「業績測定」について Performance Measurement: Getting Results Harry Hatry, 1999, Washington D.C.: The Urban Institute アーバン・インスティテュート研究員 上野真城子 一昨年、アーバン・インスティテュートの研究者ハリー・ハトリーによる「パフォーマンス・メジャーメント:ゲッティング リザルト」が出版された。これはある意味でシンクタンクの社会への貢献の確固とした成果アウトプットであるのが、今、日本で多くの関心が集まっている「評価」に関することなので、その内容を紹介し日本での理解に役立てたい。(原文は雑誌「地域開発」1999年12月号の本紹介欄に掲載)
結果(アウトカム)志向業績測定ということ。 もしあなたがどこに行こうとしているのかを知らなければ、どうやってそこに着いたとわかりようがあるだろうか。あなたが何処にいたのか知らなければ、どこに向かいつつあるのかをどう知ることが出来ようか。 ハトリーの仕事を支えてきたアーバン・インスティテュートの所長であるウィリアム・ゴーラムは前書きに次のように書いている。 「公正、質、そしてアカウンタビリティーは公共へのサービスの供給において良き政府が認証の印である。これらでの政府の業績の改善は良きマネージャーにとっての到達目標である。しかしサービスを配る公共も民間の機関ももしその業績の改善に成功しようとするなら、まずもってそれを測る客観的手段を持たなければならない。機関のアウトプット、すなわちその活動と物理的な生産物を測るのは容易である。事実、機関はその生産物については何10年も追いかけている。しかしこれは真に業績を測ったものとはいえない。アウトカムはそれである。アウトカムは、機関の使命ミッションを根本とし、顧客とより広範な市民、パブリックがサービスから得る本当の利益のことである。たとえば、州の精神病院で手当てを受けて退院する患者の数はアウトプットである。そこで自立して生きられるようになった退院患者の率はアウトカムである。アウトプットをアウトカムと混乱すると達成のための行動を誤らせる。業績測定はマネージャーに日常的にサービスやプログラムの効率とアウトカムを測定する特有の指標を定め、使うことが出来るようにする。こうした情報はマネージャーに予算の開発とそれの事由付けをし、使える資源を最善に活かすことが出来る。このプロセスでマネージャーはまた事業プログラムの公正さ(フェアネス)、それこそが政府への信頼を築く最も重要なものなのだが、その事業の公正さを測りかつそれを立証することが出来るのである。 この本「業績測定:結果を得ること」は業績測定の開発を辿り、マネージャーがこれから合理的に何を得られるかを説明し、実際的にどうこうしたシステムを作り、使えばよいか、そしてさらには関連する領域すなわち、情報の品質管理、政治的配慮、そして人材の研修訓練などに言及する。これはプログラム評価と業績測定の分野において第一人者であるアーバン・インスティテュートのハリー・ハトリーの約30年にわたる研究と、経験と思考を極めたものである。このハトリーの仕事は、アーバン・インスティテュートが、政府がそのサービスの質とアウトカムを改善するのを助けようとする、長い関与を具体的に現すものである。 この年月を通じて、実際どんな公共サービスも−−警察、交通、教育、社会サービス、環境保護、経済開発、などなど、−−それが政府機関によってでも民間、ノンプロフィットによって配布されるものであっても、業績測定にもとずいて吟味されてきた。さらには業績測定は貧しい途上国にも豊かな先進国にも使える。事実、ハトリーが書いているように、アウトカムへ焦点を絞ることは今や世界的に確実に受け入れられているといえる。 だが業績測定は万能薬ではない。それは何故その結果が出てきたのかを説明しはしないし、それはすべてのアウトカムを測ることは出来ない、そしてそれは良き判断を助ける道具であり、判断に置き換わるものではない。しかしその市民に対して政府によるサービスのアウトカムの規則的な測定は−−そしてアウトカムの改良にこれらの測定を使いつつ−−それが今世紀にもそうであったように、次の世紀にも価値ある達成目標である。」
業績測定への展開−序言から この本の業績測定評価の考え方の起源は1960年代、ランド研究所がシステム分析(費用対効果分析ともよばれるが)を国防省に導入した時に溯る。ランドは特に未来兵器システムの費用と効果の比較をする研究を行ったがこれを率いたヒッチが、マクナマラのもとで国防省の会計検査官となり、この費用効果の概念を計画に導入し、分析にあたって必要な高度な技術者を投入した。これによって計画事業予算システム(プランニング・プログラミング・バジェティング・システム;PPBS)が国防省の中で開拓され、それが1960年代の終りにジョンソン大統領によって国防外の連邦機関の計画に導入されることになった。州と地方自治体もまたこのテクニックを使いつつ実験を始めたが、しかしPPBSは国防外の領域、すなわち直接公共のサービスを受ける多種多様な顧客市民がいて、その存在こそが重要であるようなサービス領域に適用することは困難なことがすぐにわかった。 同じ頃に、プログラム・エバリュエーション(事業評価)として知られるようになるものが、ことに国防外の連邦政府機関に、PPBSによってはずみを付けられて広がり始めた。会計検査院(GAO)ではスターツのもとで、類似の考えを適用して事業結果の会計監査、これはカナダや英国といった国ではバリュー・フォー・マネー監査(価値費用会計監査)とよばれるものを採用した。システム分析や費用効果分析は基本的には将来志向の予測分析手法である。これに対して事業評価や価値費用監査システムは本来、過去を振り返るものである。(しかしこれらの最終の適用は将来に向けたより良い決定を助けるためではあるのだが。) アーバン・インスティテュートは、ジョンソン大統領の指示を受け、マクナマラの主導のもとに1968年に設立されたが、その後すぐに、プログラム・バジェッティング(事業予算)とプログラム・エバリュエーション(事業評価)の二つを、連邦政府、州政府、そして地方レベルにおいて始めた。費用効果とシステム分析をその事業やサービスに使おうとしてすぐにわかったことは州や地方の機関がそのサービスの質や結果(outcomes)に関わる情報をほとんどもっていないことであった。幾つかの機関はサービスの結果のデータ(例えば、犯罪率、交通事故率、健康統計、そして教育テスト・スコア点数)は定期的に集めていても、データはサービスを評価するようにはシステマティックに用いられていなかった。その後の20年ほどインスティテュートは州や地方の機関があくまでも常に市民−顧客を中心に置いての「結果」と「サービスの質」を明らかにし追跡するために使える手法とプロセスを明らかにするために働いて来た。こらが後に結果中心業績測定システム(outcome focused performance measurement system) として知られるようになった。そして事業プログラムと機関の業績をモニターする方法の一部として用いられるようになる。 さらにインスティテュートは比較的新しい手法、例えば顧客調査と訓練観察者格付け手法等、それらが州や地方機関で実際的実用に合うものとわかったので、これらの使用を試しかつ広めてきた。 1970年代の関心は薄く、わずかな市が定常的に業績測定を行ったに過ぎない。一方その間、顧客とサービスの質志向はウォーターマンやデミングの仕事などにおいて強調された。これらはもともとは民間ビジネス・セクターに焦点を当てていたが、遂には公共セクターに浸透した。オズボーンとゲーブラーによる政府の再発明(Reinventing Government )はことに業績測定とマネージング・フォー・リザルト(結果志向経営)を主張して、連邦、州、地方政府に相当の影響を持った。 画期的なことは超党派で、議会と行政府が1993年の政府業績と結果に関する法(Government Performance and Results Act of 1993、 P.L.103ー62) を通過させ立法化したことである。これはすべての連邦機関とその主要な事業が、業績測定を真剣に扱うように強いることになった。業績測定において重要な努力が民間のノンプロフィット・セクター、ことにユナイテド・ウェイに始まっている。同じ時期に同様の努力が合衆国外の英国、ニュージーランド、オーストラリア、そしてカナダなどの英語圏で始まった。 この本はこれらインスティテュートが連邦、州、地方、NPO機関と行った1971年から1998年までの膨大な数のプロジェクトから生まれたものである。実務的、詳細な材料、それらが業績測定して、サービスを改善しようとする機関に提供しようとするインスティテュートの、警察、ごみ収集、交通、社会サービス、初等、中等教育、矯正、環境保護、そして経済開発プログラムにまで及ぶ過去25年の仕事をまとめたものである。広範な公共サービスのための測定の手順の開発に焦点を当てているが、結果基盤予算(results-based budgeting)といった、他の業績情報の主要な使用、そして業績測定の質と有効性をモニターする方法の必要をも論じている。 業績測定にはいろいろな意味があるがここではそれをサービスやプログラムの結果(アウトカム)と効率についての規則だった定常的な測定として定義しておく。 この定義の新しい要素は規則だった定常的な測定ということにある。特定のアウトカムにむかって進歩の定常的測定はマネージング・フォー・リザルト、顧客志向の過程それが便益を最大化し、サービスとプログラムの顧客にとっての不利益を最小化することを目指すどんな努力においても最も重要な要素である。この顧客はサービスを直截に受ける市民であったり、または間接に受ける市民やビジネスである。 しかし重要なポイントは、公共事業プログラムにとって最も重要なアウトカムの特徴として、これはしばしば業績測定の使用の議論で無視されることなのだが、それは公正(equity)の問題である。良くデザインされた測定システムは機関のマネージャーにプログラムのフェアネス、公正さを問い、適切な調整をすることを可能にする。よい業績測定システムは役人が、一般の人々、パブリック、と政策形成者に、サービスが公正に配られていることを明らかにすることを助けるものでそれこそが信頼を築くのである。
業績測定の限界 ハトリーはこの本の中で業績測定が持つ限界ということを繰り返し説いている。 その限界とは1)業績データはそれ自身では、何故そのアウトカムが起こったのかを告げるものではないこと、2)ある種のアウトカムは直接的には測れないものであること、3)業績測定によって備わる情報はマネージャーと選ばれた公務員が決定に必要な情報のまさに一部分でしかないこと、である。 また業績測定はもともと過去の情報をもたらすものであり、予算、戦略計画、政策分析は基本的に将来であって、向きが異なっている。勿論業績データは決定のためのベースラインを整え、将来起こり得ることとしての手がかりを与えるが、将来志向の過程には業績測定システムがそれ自身では与えることが出来ない、予測と判断のさらに高度な技術が必要である。 そしてアウトカムデータが伝えることについての誤解を減らすためには、次のようなことに注意を促している。 ○ 業績報告とともに説明する情報を付けること、それにはこの結果に影響を与える要因に関してのプログラム評価や他の研究からの結果などを含む。 ○ データの限界を必ず業績報告に脚注として記すこと。データは決してなぜを告げるものでないことをどの業績報告にも最初のページに書いて読み手に知らせること。 ○ それぞれのアウトカム指標をプログラムが及ぼす影響の度合いによって分類すること。 ○ データの限界について、より上位の役人、議員、記者、一般市民を教育することを始めること。
業績情報の使われ方
業績情報は次のように使うことができるものとして考えている。 1. 議員や公共パブリックのアカウンタビリィティーの要請にこたえる。 2. 予算形成とその理由づけを助ける。 3. 運営のための資源の配分決定と資金の増加調達を助ける。 4. 何故業績の問題(または成功)があり、それはどんな修正が必要とされるのかということについてのより深い検討考査への引き金とすること。 5. 職員が事業の改良をし続けようとする動機を助けること。 6. 契約者や助成金提供者(業績コントラクティング)の業績を定めてそれをモニターすること。 7. 特別な、より深いプログラム事業評価のためのデータを整えること。 8. 戦略計画、そして他の長期的計画作業を助けること(基礎となる情報を整えることとその後進捗を辿ることによって) 9. パブリック、人々の信頼を得るために、人々とのよりよい伝達コミュニケーションをすること。 10. なかんずく、よりよいサービスをより効率的に行なうことを助けることである。
個人的感想 私が最初にアメリカのシンクタンクについて書き始めたのは1987年4月と6月の「地域開発」においてだった。当時、アーバン・インスティテュートに入って間もなく、ここでの活動を通じて、アメリカの政策形成に投入されている人間、組織、情報、いわば「知力」のすごさに圧倒されたことがきっかけで、その一端をどうしても日本に伝えたいと考えて書いた報告であった。日本はその頃昇る陽であり、その経済発展はアメリカにとっての羨望になりつつあった。しかしその当時私にはまだこのアメリカの知力と産業の一部しか見えていなかったにも関わらず、これは大変なことだ、これは日本は負ける(勝ち負けというのは実はおかしいのだが)と直感的に思ったものだった。 先月11月4日にアーバン・インスティテュートは2000年2月からの新所長、元議会予算局長ライシャワーを発表した。彼は今、アメリカで最も尊敬される政策アナリストといってよいだろう。設立以来30年を率いたゴーラム所長は地味ながら民主主義に対する明瞭な信念、政治から離れて、厳密な科学研究を基盤として、しかし適切な使える政策情報を提供することに徹してきた。ジョンソン大統領はこの設立に「真実を求める孤独な研究者と、改革を求める政策決定者との間に橋をかけ」「知的自由と組織の独立という環境のもとに運営」することをもとめたのである。 アメリカは国家財政再建を目指してここ特に10年ほど努力を重ねてきた。その中で国家予算の黒字化を成し遂げた。福祉政策と行政改革を行ないつつ、国家意思として予算と財政を監理しコントロールしたといえる。このことの持つ意味は膨大である。それは単にいくつかの条件で説明できるものではない。ひとつひとつを見ればここ2、30年の、政策研究と実践の努力が膨大に積み重ねられ、編み込まれているのである。そしてそれはもっとも根源的には建国以来、この国の人々が造り続けてきた社会というものが達成したことなのだと思う。 この本はまさにその社会改良のための、公共を良くするためにの膨大な努力の中の一片(輝かしい一片)である。人々が出来ること、分かる言葉によって書かれているものである。こうした一片に、それが社会のひとつの細胞として歯車として有効性を発揮出来るアメリカ社会というものの持つ力、そして社会の中でのノンプロフィット・シンクタンクが果たせる役割の具体的な成果を見る思いである。 (C) 2001 Policy Research & Analysis Network All Rights Reserved 無断転載を禁じます。 |