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PRANJ(政策海外ネットワーク)リポート
ワシントン発 月刊論座2003年9月号掲載

「イラン核問題と日本の課題」

古川勝久:モントレー国際問題研究所主任研究員

 

「イラクの次か」と米国などが注目するイランの
核開発問題。中東の石油に依存する日本は、さまざまな
国家戦略を問われる事態になりかねないと警告する。

 

 イラン政府は、将来の人口増大に伴うエネルギー不足に対処するために、原子力政策を推進し、核燃料サイクルの確立を図っているとしている。だが、世界第二位の天然ガス埋蔵量、そして第五位の石油埋蔵量を有しているのに、なぜ原子力エネルギーなど必要なのか? なぜ経済合理性を無視した、自己完結型の核燃料サイクルを追求するのか? イランから説得力ある説明が提示されたことはない。それどころか、イランの核計画が軍事利用を志向し、それが着実に完成に近づいてゆく危険性への懸念が高まりつつある。アメリカやフランスなどの予測を上回るペースと規模で、イランの核計画は進展していた実態が判明してきた。

 例えば、今年五月にフランス政府がまとめた報告書は、イランは従来の予想以上に速いペースで兵器級の濃縮ウランまたはプルトニウムを製造できるようになり、数年以内に核兵器開発に成功するものと予測している。ナタンズ(Natanz)にある施設では、国連査察官は、ウラン濃縮用の遠心分離機百六十四台と、組み立て中の千台分の機材を発見した。今年八月四日付のロサンゼルス・タイムズ紙の報道によれば、六月に国連査察官がテスト・サンプルとして持ち帰った濃縮ウランは兵器として使用されうると判断された。また同月、亡命イラン人グループの告発を受けた後、イラン政府は、一九九一年に中国からひそかに一・八トンのウランを輸入していたことを認めた。

 さらにイラン政府は、テヘラン近郊のカラエ社(Kalaye Electric Co.)の工場で、ウラン濃縮用の遠心分離機を秘密裏に組み立ててきたことも認めた。国連査察官は、同工場敷地内の二つの大部屋への立ち入りも、サンプル・テストも拒否されている。ハシュゲルド(Hashtgerd)にある、核兵器研究施設との疑惑が持たれている施設にも、国連査察官は立ち入りを拒否された。

ジャブル・イブン・ハヤン(Jabr ibn Hayan)にある実験施設では、中国から輸入した化学物質を保管。イラン政府は、それらを用いてウラン金属(uranium metal)を製造したことをも認めた。ウラン金属は民間用途がほとんどなく、通常、核兵器製造に用いられる。アラク(Arak)には重水製造施設がほぼ完成しており、重水型原子炉も建設予定(または建設中)である。このタイプの原子炉であれば、使用済み核燃料棒の再処理という、複雑な過程を省略して、天然酸化ウランから直接、兵器級プルトニウムを製造することができる。さらに、ブシェール(Bushehr)では、ロシアの支援を受けて、イランで最初の“民間用”原子炉が来年初めに完成予定である。エスファハーン(Esfahan)にあるウラン転換施設でも軍事用の実験が進められているのではと疑われている。

 現在の核不拡散条約(NPT)は、加盟国が国際原子力機関(IAEA)に申告して査察を受け入れる限り、ウラン濃縮等を違法としないため、イランが抜き打ち査察を認めるIAEA追加議定書に調印しても、逆にIAEAがイランの核開発計画を容認するはめになりかねない。核開発を継続した後、もしイランが北朝鮮のようにNPT脱退を宣言しようものならば、中東の核危機のはじまりとなる。

 加えて、イランは、北朝鮮の支援の下、イスラエルを射程におく中距離弾道ミサイル・シャハブ3を実戦配備、より射程の長いシャハブ4をも開発中である。このままイランが核開発を進めて核弾頭開発に成功すれば、将来の中東紛争が核戦争に発展する危険性も高まろう。また、イランはヒズボラ、ハマス、パレスチナ系イスラム・ジハード団などのテロ組織を支援しており、イランが核兵器を持つようになれば、テロ組織への支援を強化し、核兵器か放射性物質さえをも提供する事態も想定しなければならない。

 さらに、イランの核開発が既成事実となれば、かねて核開発の懸念を抱かれてきたアルジェリアやリビア、または近隣のトルコ、サウジアラビア、エジプトなどのいずれかが核開発に追随する危険性が指摘される。そうなれば、ただでさえ不安定な中東で核不拡散体制が崩壊しかねない。中東は、世界の石油埋蔵量の三分の二を占めており、不確実性の増大は、世界経済に甚大な影響を与えよう。

「悪の枢軸」――イランと北朝鮮の関係

 あるブッシュ政権高官が指摘する通り、「悪の枢軸」は単なるレトリックではなく、実体として存在する。一九九〇年代から、イランと北朝鮮とのミサイル開発計画を巡る協力関係が指摘されてきた。現在も、イランは北朝鮮の主なミサイル輸出先の一つであり、北にとって重要な外貨獲得先だ。今年八月の産経新聞によれば、北はテポドン2号をイランに輸出し、イランと共同で核弾頭を開発中で、ロサンゼルス・タイムズ紙によれば、現在もイラン国内で多数の北朝鮮科学者がミサイル・核開発計画に携わっているとされる。

 現在、日米豪欧の十一カ国は、大量破壊兵器(WMD)やミサイル関連物質の輸出を封じ込める「拡散防止構想」を推進しているが、この主なターゲットは北朝鮮とイランである。昨年十二月、イエメン沖でスペイン海軍がスカッド・ミサイルを積載した北朝鮮貨物船を臨検して以来、北朝鮮は海上輸送に慎重となり、空輸に切り替えつつあるものとみられている。例えば、今年六月十六日、韓国の中央日報は、米韓当局者の話として、北がイランにノドン・ミサイルを空輸したことを報じた。今後、北朝鮮に圧力をかける上でも、そのミサイル及び核関連技術の対イラン輸出を、空と海の両域で取り締まることは、極めて重要と考えられている。

日本のジレンマ――エネルギー安保と核不拡散

 このように安全保障上の観点からすれば、イランの核開発はあらゆる手段を用いてでも阻止しなければならないが、日本は、イランからの石油輸入に深く依存しているため、ジレンマに陥っている。中でも、日本企業によるイランのアザデガン油田開発計画が大きな足かせとなっている。

 これは、二〇〇〇年二月末、アラビア石油がサウジアラビアにおける油田権益を喪失したのを機に、中東における自主油田開発として経済産業省が推進してきた計画である。同年のハタミ大統領訪日を機に、輸入代金の先払い融資の見返りとして、日本が同油田の優先交渉権を獲得。今年七月には日本企業のコンソーシアムが、総額二十億ドルの同油田開発契約に調印する直前まで漕ぎつけていた。

 しかし、今年六月、米政府は、「イランが核疑惑施設に対するIAEAの追加査察を受け入れるまで、開発契約への調印を延期すべきだ」との圧力を日本にかけてきた。イランに経済的な利益をもたらせば核開発を促進させる恐れもあるとの懸念からだ。さらに、イランに抜き打ち査察を認めるIAEA追加議定書の調印を迫っている傍らで、日本がこのような大型プロジェクトに調印すれば、「核開発は問題ではない」という誤ったメッセージを送りかねないとも懸念されている。これに対して、日本の経済産業省は、イランの核開発疑惑を油田問題と切り離すよう、米側に求め続けている。この対立を解消するために、日米エネルギー協議が八月に開催されたが、両者間の溝は埋まらないままだ。

 日本の石油の中東依存度が八六%にものぼり、イランが第三位の原油輸入国であることを考えれば、日本にとって容易に譲歩できる問題ではないかもしれない。「エネルギー安全保障」を巡る日本の懸念も理解できる。しかし、そこで思考停止してしまうのではなく、プロジェクトの経済性を検証してみる必要性もあるのではないか。

 このアザデガン油田の埋蔵量は二百六十億バレルと、イラン最大級とされるが、その開発の契約条件は魅力に欠けるとの報道もある。同油田は、開発難易度が高い上、イラクとの国境線にあり、イラン・イラク戦争時にばら撒かれた地雷原の下にある。産油量も数年で減少するようだ。さらに、この油田は国境を越えてイラク側にも延びており、イラク側からも石油を採掘されてしまう可能性さえある。米国務省の役人からは、「日本がなぜあんな悪条件の油田開発に固執するのかわからない」とのコメントさえ聞かれる。

不可欠なエネルギー戦略の抜本的再検討

 なぜ自主油田開発でなければいけないのか? 国民の税金を投入する以上、その政策効果を厳密に評価する必要はたしかにある。これを機に、日本のエネルギー政策を根本的に見直してみるのも重要と思われる。

 石油ショック以来、「エネルギー安全保障」と言えば、「自主油田開発」というのが、日本のエネルギー政策の主軸の一つであった。主体は石油公団である。輸入原油の三〇%を自主開発で賄うという国策の下、石油公団は、これまで約三百社に対して投融資等を行ってきた。しかし、日本エネルギー経済研究所の十市勉・常務理事によれば、このうち約二百社がすでに解散または解散準備中となり、約一兆二千億円にも上る公団融資残高のかなりの部分について、回収が困難な見通しである。また、公団が最大七〇%まで融資するため、開発会社が負うリスクは三〇%にとどまり、責任が明確化されておらず、プロジェクトの採算性評価や審査体制の甘さが、指摘されてきた。国際的にはメジャーの大型合併などが進んできたにもかかわらず、日本国内では依然、国際的競争力を持つ開発企業が育っていない。

 日本のエネルギー政策は、アメリカ政府からも批判されてきた。例えば、一九九九年の国防総省総合評価室(Office of Net Assessment)の報告書は、「日本のエネルギー安全保障計画は、その焦点が定まっておらず、多くの省庁間で(十分な政策協調がなされずに)政策が分散している」と批判する。また、二〇〇三年にはCIAも、湾岸戦争直後には、日本の中東石油輸入依存度は七二%だったのが、二〇〇二年には八六%に上昇しており、日本政府の石油輸入先の多角化という政策目標に逆行していると指摘する。

 勘違いしてはならないが、少なくとも筆者の知る限り、現在から予見できる将来に至るまで、石油が枯渇するとの見通しを抱くエネルギー専門家はいない。開発や探鉱等の技術革新の結果、石油埋蔵量はむしろ成長し続け、オイル・サンドや天然ガスなどを加えれば、化石燃料源が枯渇する事態というのは、かなりの長期間(専門家によっては数世紀ともいう)にわたり予見されていない。懸念されているのは、むしろ石油余剰という現象が今後も続くことである。九〇年代から、情報技術革命のおかげで油田探知・掘削技術は格段に向上した。このため、石油産出コスト、ひいては石油価格も構造的に安くなり、産油国の経済低迷を招く結果となった。それが中東諸国における社会不安を増長し、テロの温床を生み出す一因となってしまった。

 ただ、石油はあり余っていても、金融商品と同様、その値段が市場で大きく振れてしまう。中長期的には石油価格は下落傾向にあったが、何らかの事件が生じれば、市場が過敏に反応する。不確実性の悪影響を最小限に食い止めるためにも、石油価格を安定化させる施策が求められている。例えば、日本エネルギー経済研究所の小川芳樹・第二研究部長は、アジアにおける石油備蓄の協調利用体制の構築や、アジア向け原油価格に付加されるプレミアム除去を目的とした、石油製品市場の整備等の重要性を指摘する。

 また、エネルギー源のさらなる多角化も必要だ。例えば、天然ガスは、全国ベースの流通インフラ整備を図らない限り、石油と競合できるレベルにまで価格を下げるのは困難とされる。インフラ整備には多大な公共投資が必要となるが、自主油田開発等と比較して、どの政策が中長期的に見て最大の経済合理性を追求できるのか、総合的見地から需給両面で抜本的に再検討すべきであろう。もし石油よりも経済性、利便性の両面で優位に立つエネルギー源が出てくれば、石油に対して深く依存し続ける必要性はなくなる。ましてや、自主油田開発にこだわり続ける必然性もない。

求められる日本の中長期的な対中東戦略

 アザデガン開発計画に対する懸念は、筆者が昨年夏以来、米国務省のWMD不拡散問題担当スタッフと話すたびに、何度も表明されていた。やがて深刻な問題に発展することが予見されていたにもかかわらず、日米首脳会談でも協議された形跡がない。なぜ契約調印直前になるまで、十分な政策調整がなされなかったのか?

 その原因として、外務省と経済産業省との政策調整努力が指摘されている。外務省がWMD不拡散問題や日米同盟を管轄するのに対し、アザデガン計画は経産省の管轄であり、石油公団がその生存をかけたプロジェクトではないか、との見方もある。このままでは取り返しのつかない問題へと発展しかねないため、日本政府内で、より緊密かつ継続的な関係省庁間協議が首相官邸主導で求められる。

 イランの核開発問題は、日本の安全保障の要である中東の地政学を塗り替える危険性をはらんでいる上、時間的な余裕も限られている。報道によれば、今夏、イスラエルのアイエル・シャロン首相の特使がブッシュ大統領と会見して以来、イランの建造中の原子炉をイスラエルが先制攻撃する可能性を米政府は懸念している。こうなると、中東和平プロセスやイラク復興にも甚大な支障が予想され、また原油価格の上昇に伴う世界経済への悪影響も懸念される。

 今後、米国の目標は、まずイランにIAEA追加議定書を調印させ、次にウラン濃縮やプルトニウム抽出のための諸施設を解体、研究・開発を凍結した上で、できれば建設中の原子炉の完成をも阻止するというものになろう。まずはこれらの目標を外交的に追求した上で、それが失敗すれば、米政府は孤立化政策や体制転換等の選択肢をも真剣に考慮しよう。ブッシュ政権内では、イラン国内の改革派に見切りをつけ、権力中枢にいる保守派を対象とした体制転換を主張する声も強いようだ。もっとも、イラン国内の民主化勢力さえもが核兵器保有を志向しているため、体制転換だけでは問題の本質的解決とはなりえないとも指摘される。

 いかなる政策が採用されようとも、まずは、イランに経済的・外交的圧力をかけるため、ロシアや先進諸国間における国際協調体制の構築が不可欠となる。日本も、一時的にでもイランからの石油輸入を少なくとも削減せざるをえなくなる局面が予測される。イランにとっても、日本や西側諸国との経済関係は不可欠であり、必ずしもイランの方が有利な立場にいるわけではない。

 その場合、日本にとって新生イラクが重要な石油輸入代替先となることは間違いない。その石油輸出の全面再開まで最低でもあと数年はかかる見込みだが、イラク石油確保のためにも、日本はイラクでプレゼンスを確立し、イラク人の目前で、イラク人のために国家再建に尽くす姿勢を打ち出すことが重要だ。自衛隊だけでなく、様々な専門領域の日本人を総動員して、イラク再建に参加すべきであろう。

 イランの安全保障上の懸念を払拭させるためにも、湾岸地域における安全保障システムの構築が必要との指摘がある。イランの核開発に対する対応は、中長期にわたる中東地域の安定を視野に入れたものとならねばならない。中東諸国の政情安定化のための民主化支援策も求められている。

 最後に、日本はイランとはビザなし交流を行ってきたが、事態の進展次第では、テロ防止策として入国管理規制を強化せざるをえなくなることも考えられる。

 対中東戦略や総合エネルギー戦略など、イランの核問題への対処を通じて、日本の国家戦略があらゆる側面から今問われていると言えよう。


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