金融・ベンチャー

ベンチャー・キャピタルと起業家の契約関係
樋原 伸彦(コロンビア大学ビジネススクール 日本経済経営研究所助手)
 
アメリカにおいてベンチャー・キャピタル(VC)は、90年代半ば以降のシリコンバレーを端緒としたITベンチャー企業の隆盛に、大きな役割を果 たしているといわれてきた。しかし、VCがこれらのハイテク企業の成長にどのようなメカニズムで貢献してきたのかという点についての分析は多くはなされていない。

 アメリカのVCは新しい投資機会を海外に求めつつあり、またアメリカ以外の各国では、政策担当者がアメリカで成功したVCの機能をいかに自国のIT産業育成に応用すべきかという課題に直面 している。特にアメリカ以外の場所でのフィージビリティ(実行可能性)を探るためには、VCが果 たしうる機能の理論的な分析が当然求められてくる。

 これまでのところ、VCからの資金提供にさいしてのVCと起業家の契約関係はいかに効率的に規整されうるのか、という点に関して研究の蓄積が進みつつある。焦点は、いかなる契約が起業家に企業価値の最大化を目指すインセンティブを、そしてVCに最大限のモニタリングを促すインセンティブを与えるのかという点だ。そのためには、将来のキャッシュフローに対する権利を制御するだけでは不十分で、キャッシュフロー権の配分とは独立に取締役会を通 した企業のコントロール権を約定する必要がある。

 たとえば、日本のベンチャー企業のほとんどは創業者が50%以上の株式持分を握っている。この場合、創業者が経営者としての資質に問題があったとしても、VCはその経営者の首をすげ替えることはできない。なぜなら、会社の最終的なコントロール権は株主総会での決定に委ねられているからである。それに対してアメリカのベンチャー企業とVCの間では、起業家の持つ普通 株とVCの持つ転換権付優先株それぞれに取締役の選任権を個別に定め(これを「種類投票の制度」と呼ぶ)、株主総会ではなく取締役会の決定に企業の最終的なコントロール権を委ねる契約を交わす場合が多くなっている。これによって起業家のモラルハザードはかなりの部分防ぐことができる。

 株式を種類分けしそれぞれに異なる権能を与える種類株式の制度は、アメリカのほとんどの州会社法で当然のこととして認められており、この制度に基づいた契約はVCと起業家のモラルハザードをかなり制御することに成功している。それに対し日本の株式会社法では、種類株式については厳格な規制があり、種類投票については株式の種類として契約で法律構成することが許容されていない。VCファンドのパフォーマンス向上は、年金ファンド等の機関投資家のVC投資を促すために必須であり、そのためにはVCと起業家の契約関係を効率的に規整することはきわめて重要である。その意味で種類投票・種類株式の導入のための早急な商法改正を提言したい。

この論文は1999年度東京財団とPRANJとの共同プロジェクトです.
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