科学技術政策

先端科学技術の開発と特許制度を巡る政策論争
角南 篤 (コロンビア大学大学院公共政策フェロー)

 
 21世紀の先端科学技術の研究開発に多大な影響を及ぼすといわれる遺伝子特許を巡って国際競争が激化しているなか、産学官による共同研究体制のあり方と、大学での研究成果の特許による知的財産権保護という2つの政策課題が関心を集めている。とりわけ、連邦政府からの資金で行なわれた研究開発の成果に対し、大学自らが特許を保有することなどを認めた1980年バイ=ドール特許・商標改正法は、アメリカのみならず世界で研究開発に関する政策論争の中心に
なっている。

 アメリカの大学が保有する特許件数は、1969年の188件から97年には2436件まで膨れ上がり、民間企業への技術移転による収入も過去10年で3倍になった。しかし、これまでバイ=ドール法の重要性のみが強調される一方で、この特許法が大学の研究体制やアメリカのイノベーション・システム全体に及ぼす影響を実証的に分析しようという政策評価は行なわれてこなかった。そこで、コロンビア大学のリチャード・ネルソンとカリフォルニア大学のデイビッド・マウリー等によるこの特許法の影響評価の研究が、現在注目を浴びている。

 この研究は、アメリカのなかでも特許取得が特に顕著なカリフォルニア大学(1997年特許料収入6128万ドル)、コロンビア大学(4610万ドル)、スタンフォード大学(3410万ドル)のデータを比較したものである。研究のなかで彼らは、大学による特許出願・登録件数の増大は、生命科学に対する政府の研究予算の拡大やそれに伴う技術革新などによるもので法制定以前から見られる傾向だと指摘したうえで、これまでの一般的な見方とは異なり、バイ=ドール法が直接的な影響を与えたとはいえないとする見解を示している。

 大学での研究成果が知的財産権で強固に守られている場合と、公共財として扱われている場合のどちらが商品開発に有効なのか、決定的な実証はまだない。また、バイ=ドール法のようにオープンな知識伝播のチャネルを塞ぎかねない政策は、かえって大学から民間企業への技術移転を妨げるケースもありうるだけではなく、これまで機能していた研究開発に何らかの障害を与える可能性も否めない。バイ=ドール法の幅広い適用は、公共性の高い基礎研究の成果を特定の利用者に独占させることにほかならず、ひいては科学のさらなる発展を脅かすことにもなりかねないと、ネルソン、マウリー等は警鐘を鳴らしている。

 冷戦後のアメリカの科学研究政策と今後の研究開発のあり方を巡っての論争は、こうした政策評価・政策分析を巡る研究を軸にますます増えていくだろう。


これらの論文は1999年度東京財団とPRANJとの共同プロジェクトです.
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