| アメリカにおける産業構造の変化と雇用調整 村上博美 ESI(経済戦略研究所)研究員 衰退産業から活力のある産業へ雇用をシフトさせるという問題は、雇用形態とそれを支 える制度・システム、そして政策の観点から考察する必要がある。 アメリカでは80年代から90年代にかけて、安い輸入品の増加や生産性の急激な向上で 製造業が著しく衰退し、産業構造の変化に伴って雇用調整が行なわれた。一方でGATTな どグローバルな自由貿易環境を積極的につくりあげ、打撃を受けた国内労働者に対して救 済政策をとってきた。90年代後半には、貿易交渉で影響を受けた産業を重点的な対象と した雇用助成政策から、産業構造の変化や生産力の向上による構造的失業者への雇用支援 政策へと変化した。クリントン政権は、移り変わりの激しいグローバル経済と高いスキル をもった人材への急速な需要に対応するために、雇用発展システムの増強(雇用保険、ジ ョブトレーニング、再雇用サービス、経済的支援)や生涯教育を推進し、予算を1993年 から99年の間に3倍の14 億ドルに増額した。特に1998年8月に施行された労働力投資法 「Workforce Investment Act :WIA」では、個人にスキルアップ訓練の管理主導権を 握らせ、訓練提供会社のアカウンタビリティを高めるため、評価レポートを一般に公開し ている。 もちろん、アメリカにも国民皆保険などインフラ整備において問題はある。しかし、基 本的な概念として「労働市場はすべての労働者に恩恵を与えるべきで、経済成長の恩恵は すべての労働者が受けるべきである」とあり、個々の雇用支援政策の目的は、失業者が妥 当な仕事に早く再雇用されるようなシステムを構築することである。究極的には、以前の 仕事と新しい仕事の間の失業期間を最短もしくはゼロにすることや、新しい仕事がその人 のスキルを十分に発揮できるものであること、以前の生活水準を少なくとも維持すること ができるもの、そして転職期間の収入減を最小限にとどめることである。経済的視点がふ んだんに盛り込まれていることも特徴だ。雇用支援プログラムでは失業者自身に職を見つ けるインセンティブを与えることが経済効率上、非常に重要である。個人がスキルアップ やトレーニングを通して、労働市場のなかでそれぞれの経済的資源の価値を高めることに より、失業者が新たな仕事を見つけることを奨励している。 それに対して、日本の個々の労働政策には、創造性や自主性、経済効率の視点が欠けて いるのではないか。4月から改正になる失業保険制度は、非自発的失業者には手厚い保護 がされているが、自発的失業者に対しての支援は少ない。非自発的失業者と自発的失業者 を区別することで雇用の流動化が促進されるとは考えにくい。日本経済全体の活性化を目 的とするならば、雇用の流動化は、効率的な資源活用が可能になるばかりか、日本にいち ばん必要な経済構造改革の重要な一翼を担っていることを忘れてはいけない。 この論文は2000年度東京財団とPRANJとの共同プロジェクトです. (C) 2001 Policy Research & Analysis Network All Rights Reserved 無断転載を禁じます。 |