教育・移民

移民国家と言語教育政策
住田 育子 (チェイニー大学大学院)
 

 現在2億7000万人のアメリカの人口は21世紀前半に は3億7000万人となり、2050年にはヒスパニック系、アジア系、黒人を合わせた非白人・マイノリティ人口は全体の43%を越えると予測される。これはアメリカの移民政策の長期的な影響によるものと考えられる。こうした予測を背景に、連邦政府のレベルでは移民の受け入れ方をめぐって政治的な政策選択の論争が繰り返されてきた。しかし現実には、個々の移民とアメリカ社会との重要な接点の役割を果たす移民の言語教育の動向が移民政策のひとつの指標とみることができる。

 1997年の新移民法によって不法滞在や不法就労への規制が強化され、また近年、合法移民にとっての便益もさまざまな面から制限されてきたが、合法移民を対象とする教育プログラムは健在である。これは1994年のアメリカ学校法の改正によって、社会的に不利な状況にある子どもたち(低学力、貧困、移民、障害、ホームレス、家庭崩壊など)への教育の必要性が明確にされ、各地域での取り組みに対する連邦の助成制度が確立されたためである。1968年のバイリンガル教育法の成立によって、移民児童は母国語によるサポートを認められたが、母国語導入の是非についてはその後長い論争が続いている。しかし、文化継承もふくめた児童の生活背景を考慮するなかで、教育対象も移民児童、家族、コミュニティと広がってきた。運営主体も同様に、教育委員会から地域のNPO(非営利組織)まで多岐にわたっている。各地域から移民家族の生活実態に即したプログラムが提案された結果であろう。教育省移民教育部は2000年度予算として4億ドルを計上している。

 クリントン政権は教育を重要な国家政策の柱としており、1997年に大統領は「21世紀におけるアメリカの教育」のなかであげた7項目のうち、識字能力の獲得を最優先に掲げ、その具体的な目標を「すべての子どもが3年生の終わりまでにひとりで読める」としている。2月に発表された大統領予算教書では「ひとつのアメリカの建設」を謳い、そのためにすべての移民がアメリカ社会に融合できるよう、英語および市民教育機会を拡大する新しい事業提案を行なっている。

 バイリンガル教育(母国語による授業の提供)は、機会の均等を保障するという原則から、1970年代以降、移民の多い地域で実施されてきた制度である。しかし、カリフォルニア州では1998年にこれを住民投票によって廃止した。アメリカのリベラルな移民政策の後退ともみえるが、廃止の支持は移民側に強かったといわれ、母国の言語・文化の継承と、アメリカ社会への融合および雇用の確保・経済的発展をどう均衡させるのか、バイリンガル教育をめぐる動きは移民国家の模索の過程を示すものといえる。

 移民の背景の多様化につれて移民教育プログラムが変化するのは当然であり、移民を受け入れる地域社会への助成制度に柔軟性を持たせることによって、それぞれのニーズに応じた現実的な事業が試行錯誤されることが今後ますます必要になってくるだろう。

これらの論文は1999年度東京財団とPRANJとの共同プロジェクトです.
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