| アメリカにおける福祉改革の成功 上野真城子(アーバン・インスティテュート) アメリカ政府はこの8月、3年来の福祉改革に成功したと発表し、独立した立場でこの改革の評価を続けている米民間シンクタンクのアーバン・インスティテュートもこれを支持した(『ワシントン・ポスト』8月4日付)。 この改革は1996年の「個人責任と就業機会調和法(Personal Responsibility and WorkOpportunity Reconciliation Act of 1996, PRWORA)」によるもので、近年の新連邦主義すなわち「小さな政府」と「地方分権・地方委譲(デボルーション)」を実際に具体化した結果であるといえる。つまり、60年あまりの歴史を経てアメリカの福祉行政は、自立自助こそがアメリカの基本理念であり、福祉は必要な者に資金給付するという援助ではなく、労働し就業する能力を付与するための援助であるべきだという考えを示したのである。そして家族や個人が福祉から“卒業”して自立できるように雇用就業の機会を整え、そのために必要な職業訓練や託児サービスを提供することは州政府と地方政府の責任であるとした。 改革の柱は旧来の要扶養児童家族扶助制度(AFDC)を要家族臨時扶助制度(TANF)に置き換え、連邦政府の複数の省庁が個別に行なってきた福祉事業を、まとめて一括補助金(ブロックグラント)として各州に配分し、州政府の自由裁量に任せたことにある。また現金給付は受益者の生涯中、5年を超えることはできないという年限を定めた。これを実施したことで取り扱い件数はこの3年で約半分に減り、実際の就業率は35%となった。なお、ブロックグラントには総額40億ドルの残余があると考えられる。 この改革法の決定まで3年余にわたって上下院では延べ600人の政府・非政府の政策立案機関をはじめ、政策に関わるあらゆる領域からの証人が8000ページにわたる証言を行なうなど、さまざまな場で福祉政策論争が展開された。そして施行後はアーバン・インスティテュートを中心にその政策を分析し、評価するという大々的な試みが民間財団の資金によって進められている。 福祉改革は、ことに州政府の以前からの努力と経済の好調、そして政策変更が相乗効果をもたらし、これが連邦政府の財政健全化に少なからず影響を与えたといえる。しかし、実際にはその成功の大半は好景気に支えられているという指摘もあり、新連邦主義の考え方に基づく貧困と福祉に関する国のセーフティーネット整備というアメリカの長らく抱えていた課題が解決されたと結論づけることはできない。基本的な政策理念の検証と成果に対する長期的な評価作業はまだ途上にある。 これらの論文は1999年度東京財団とPRANJとの共同プロジェクトです. (C) 2001 Policy Research & Analysis Network All Rights Reserved 無断転載を禁じます。 |