| アメリカの産学連携を支える「大学研究管理システム」 吉原麻里子 スタンフォード大学アジア・パシフィック研究所研究員 低迷する日本経済の打開策として、新産業創出や地域社会の活性化を促す産学連携に期 待が寄せられるなか、大学の研究活動をめぐる諸制度の見直しが求められている。一方、 近年の教育改革気運の高まりに伴い、大学組織の効率化・活性化は国家的課題とされ、社 会科学的観点からの分析や国際比較調査に基づいた政策提言が必要だとされている。しか し、現存する研究のほとんどは制度の枠組み調査にとどまり、実地調査に基づく包括的な 考察は少ない。そこで以下では、スタンフォード大学アジア・パシフィック研究所が行な っている産学連携を支える大学組織の日米比較を紹介したい。 情報通信などの先端分野で技術革新を遂げるアメリカでは、大学における研究活動を効 率的に管理・運営するシステム(Research Administration)が発達し、活発な産学連 携を陰で支えている。リサーチに比重が置かれる総合大学では、大学内のすべての研究活 動を監修する部署が学長直属の組織として学部から独立していることが多い。これは、研 究活動それ自体のみではなく、それを支える管理・運営体制が、大学ガバナンスのなかで 重要な役割を果たしていることを示す。個々のプロジェクトにおいても、研究の運営を専 門に担当する有能な管理職が、研究者が研究に専念できるよう環境を整えたり、産み出さ れた技術を効率的に産業界に移転すべくサポートしている。近年のプロジェクトの大型化 に伴っては、企業で経験を積んだ者や博士号などの高学位取得者が、管理職に専念して大 学の研究活動を支えるケースが目立ってきた。 これに比して、日本の大学では、研究のマネジメントを請け負う専門性の高い職種が存 在せず、若手研究者が研究に充てるべき時間を犠牲にして、研究室の運営を担っている。 また、研究活動はそれぞれの学部内で各講座ごとに独立管理され、大学内の全研究を監修 する組織は存在しない。 国立大学の独立行政法人化は、日本の高等教育にアメリカ的な市場経済の競争原理を導 入しようという試みであるが、日米の土壌の基本的な違いが不明確なまま議論のみが先行 しているようだ。詳細な実地調査に基づくアメリカの大学ガバナンスの事例は、今後、日 本の大学改革を論議するうえで貴重な資料となる。スタンフォード大学のプロジェクト は、大学の研究管理をめぐる日米の相違を浮き彫りにし、日米の大学関係者・政策立案者 を対象とした政策提言を行なっている。 日本の大学組織に、研究の管理・運営を担う専門職が導入されれば、学術研究の活性 化・効率化に貢献するのみならず、政府の政策を受けて増加傾向にあるポストドクター達 の新たな雇用先にもなる。こうして、高学位取得者を対象とした新しい職種の創造で、大 学院進学が有能な若い人材にとって魅力的なオプションとなれば、そこから優秀な研究者 やスタッフが生まれる確率も高くなり、さらに大学院がより多くの若者を魅了できるわけ で、日本の高等教育を刷新する好循環を生むことになるのではないだろうか。 この論文は2000年度東京財団とPRANJとの共同プロジェクトです. (C) 2001 Policy Research & Analysis Network All Rights Reserved 無断転載を禁じます。 |