米国の低い日本への関心ーブッシュ大統領のアジア訪問

米国の低い日本への関心」 (2002年2月28日転載)

愛知 和男

昨年十月末に久しぶりにワシントンに来て、長期滞在している中でつくづく感じ、
そして更にその思いを強くしていることに、ワシントンに於ける日本の存在感の希薄
化がある。

めまぐるしく動く政治の世界の中心地での日本の存在は極端に云えば無に等しいとい
えるような状態になっていると云っても決して過言ではない。特にこのことに、
拍車をかけたのが、今度のブッシュ大統領のアジア訪問であった。

このアジア訪問で圧倒的に注目を集めたのは中国であり、次に韓国であり、日本はほ
とんど課題にならなかったというところである。

ブッシュ大統領は日本で小泉首相との会談で、自分は日本との関係を最も重視してい
るからこそ、真先に日本に来たなどと述べて首相を喜ばせたようだがワシントンでは
ブッシュ大統領の訪日のことはほとんど話題にすらなっていない。

ブッシュ大統領のアジア訪問に先立ってワシントンではこの件をテーマにとりあげた
いくつかのシンポジウムが色々なシンクタンクや大学などで開かれたのでそのいくつか
に出席してみたが、いずれの会場でも一応パネリストとしえては日本、韓国、中国の
各々専門家が出席していて、はじめに各々その国にとってのブッシュ大統領の訪問
についてコメントしたがそのあとオープンディスカッションの段階になると日本は全く
話題にならなかったというのはどの会場でも共通であった。

このことをどのように解釈するかであるが、確かに日米間では当面解決を急ぐような
事項はなく、総じてうまくいっている証拠であって日本が話題にならないことはむしろ
いいことだと解釈することも出来るかもしれないが、そうでいいのだろうか。私は日本
が話題にならないのは当面の問題ではなく、もっと奥深いものがあり、われわれとし
ては深刻に考えなければならない事態ではないかと思われてならない。

アメリカにとっての日本はやはり経済あっての日本だったのかという点である。
経済の低迷状態からいつまでたっても抜け出せない。

これからのシナリオも明確に示せない日本にはもう期待しない。
そんな日本はもはやアメリカにとってはどうでもいい存在なのだということになって
しまっているように思えるのである。

日本に比べて中国へのアメリカの関心の高まりも根底は潜在的経済力なのだろう。
もちろんその他にもアメリカにとっての外交戦略上も中国の重要性は益々大きくなる
と思っているからであることは間違いないが。

私はアメリカにとってその外交戦略上日本が重要なのだということをアメリカにどう
やって思わしめるかが、これからの日本にとって重要な課題ではないかと思えてな
らないのである。金持ちだから大いにちやほやされ、重要視された日本が金持ちで
なくなるにつれてだんだん相手にされなくなってしまうなどというのは実に情けない話である。

アメリカにとって日本は金持ちだから重要なのではなく、もっと総合的にアメリカに
とって日本との関係は重要なのだということをどうやって示すのがいいのか。

マンスフィールド大使の有名なセリフ即ち日米関係は世界で最も重要な二国間関係で
あるということを具体的に日米双方で確認し合ってゆく方策が今後日米両国の政策関
係者に課せられて極めて重要な課題であると思う。

アメリカにとってアジアとの関係は極めて大切であることはアメリカもよく理解して
いるが、そのためにも中国との関係が重要と思ってしまっているのが現状である。
確かに中国との関係が重要とは云っても、それではアメリカが単独で対中国外交を推
進しようとした場合、はたしてうまくいくだろうか、私はそうは思わない。

第一に両国とも自分が世界の中心であると思っているいわゆる中華思想の持ち主であ
るから、うまくいくはずはないと思う。その他社会体制も違うし、経済力も違いすぎるし、
あらゆる面で文化の違いは大きすぎるのである。そこでアメリカが対中国外交を推進
してゆく上で日本の存在が大きくものを云うのではないか。

アメリカは折にふれ、日本からのアドバイスを受け、協力を得ながら対中国外交を進
めるのが肝心ではないかと思うのである。更に云えばアメリカの対アジア外交全体に
わたっても同じことが云える。

アメリカはアジア諸国との関係を単独で推進しようとしても決してことはスムースに
運ばないだろう。やはり日本の存在を介して対アジア外交を推進してゆくという発想
がアメリカにとっても大切なのではないか。

アメリカをしてこのように思わせるにはどうしたらいいか、一言で云って日本の外交
姿勢を根本的に改める必要性があると思う。在米大使館などはどうやってアメリカ人
に日本をPRするかを検討しているらしいが、ことはPRの問題ではないのである。

戦後からずっと続いている日本の外交姿勢は基本的にアメリカ追随外交であったと
云っても云い過ぎではないであろう。

外交担当者はいやそうではない、何もアメリカの云うことばかり聞いて来た訳ではな
いと弁解するかもしれないが、客観的にみてアメリカ追随外交だったと言われても
仕方がないだろう。一番肝心な点はアメリカ自身が日本はアメリカ追随外交だと思
って来たということであり、今でもアメリカはその域を脱していないという点である。

アメリカとしてこう思わせてしまっている最も根本的な原因は日本は自分の外交構想
を持っていないと思われている点にあると思う。

事実その通りなのである。日本は今まで基本的な外交戦略構想を持たず、
生ずる事態にその都度対応するという対応型の外交姿勢に徹して来たのである。
敗戦後から最近まではそれでよかったかもしれないが、もはやその姿勢から脱皮しな
ければならない時なのだ。

アメリカがアジア外交を推進してゆく上で、日本の意見を聞いてみようと思わせるよ
うにならなければいけないのである。

このことは、何も対米外交だけにあてはまることではない。世界中の国々に対してそ
うなのである。

二国間の外交の場合もそうであるが、特に国連を中心とするマルチの外交を推進して
ゆく場合は殊更である。

何かの時に日本の意見を聞いてみようなどと世界の国々は思わないのである。
どうせ日本はアメリカと同調するだけだからとてんから思われているのである。

最近、ハーバード大学のケネディスクールの学長のジョセフ・ナイ教授の近著「アメ
リカの力のパラドックス」という本を読んでみたら、その中でナイ教授はハード・パワー
とソフト・パワーと分けてこれからアメリカがより大きな影響力を世界に行使してゆく上で
ハード・パワーだけでなく、ソフト・パワーをつける努力をしなければならないと力
説している。

ハード・パワーの最たる軍事力と経済力を誇るアメリカは既に可成りの大きなソフト
・パワーで世界を支配しつつあると感ずるわれわれであるが、尚このことを強調して
いるのである。

それにひきかえ日本はどうかと云えば、過去はハード・パワーである経済力一本槍
だったと云える。ソフト・パワーをつけることを怠ってきたというしかない。
その経済力に陰りが見えてくるとたちまち世界から相手にされなくなってしまうので
ある。

今や日本にとって喫緊の課題はソフト・パワーを持つことである。
アメリカですらこれから力を入れると云っている位だから、日本がソフト・パワーを
つけることは容易ではない。何しろ今までゼロに等しかったのだから。しかし、
その努力を一刻も早く始めなければならないと思う。

ワシントンでの日本の存在感の小ささをむしろ奇貨として日本は新しいスタートを切
らなければならないのではないか。

 


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