日本政府の対応 (2001年9月25日JMM掲載)
■ 河内祐典 :財務省主計局課長補佐21日に空母キティホークが横須賀を出港し、22日には強襲揚陸艦エセックスが佐世保を出港した。報復への準備は着々と進められているようであるが、具体的な実行手段は、派手な空爆なのか、アフガン国内の反タリバン勢力に対する支援か、資産凍結による兵糧攻めか、現時点でははっきりしない。はっきりしているのは、我が国が米国の行動への「支持」を表明したという事実である。
去る19日、日本政府は、同時多発テロへの対応に関する我が国の措置を発表した(http://www.kantei.go.jp/new/0919terosoti.html)。自衛隊派遣と経済協力を織り交ぜた7項目からなり、湾岸戦争時とは明らかに異なるメニューである。当時の「130億ドルの資金協力」という貢献が余りにコストパフォーマンスの悪いものだった、という教訓の上に立つ内容である。更に言えば、10年前にはおよそ考えられなかったこうしたメニューを、PKO法やガイドライン関連法の整備等を経て2001年には提示できるようになったという意味で、我が国の安全保障観の「ある程度の成熟」を感じさせるメニューであるとも言える。
さて、今後いかなる作業が必要となるのであろうか。政府は今月27日から始まる臨時国会で法整備に着手するが、7項目の中で、所用の措置が講じられるのは、米軍への医療、補給、輸送といった協力(新法策定)と、在日米軍施設・区域の警備(自衛隊法改正)である。その他のメニュー、すなわち情報収集のための艦艇派遣や出入国管理の強化、避難民支援等は、基本的に現行法の下で実施できる。更に、このメニューの中には入っていないが、邦人救出のための自衛隊派遣も現行法の下で実施可能である。
法整備に際しては、既存の周辺事態法における対米協力との関係が議論となってくる。現時点では、「対米協力には、(周辺事態法でも認められていない)武器・弾薬の補給が含まれるのか」といった点がクローズアップされている。これは、憲法上のグレーゾーンであるという意味で、法技術的には重要な論点なのであろうが、そもそも米側において、我が国から武器・弾薬を補給してほしいというニーズがあるのかという問題もあり、大局的に見ればそれほど大きな論点ではないと思われる。むしろ重要なのは、以下のような点ではないか。
第1に、対米協力の発動要件は何か。
周辺事態法の場合は、まず、現在おきている事態が「そのまま放置すれば我が国の平和及び安全に重要な影響を及ぼす」ものだという判断を政府が行い、「では政府は何をするか」という計画を作り、国会のお墨付きをもらった上で自衛隊等が動き出す、というシステムである。
では、今回は、いかなる国際情勢の推移を皮切りに、我が国は対米協力を開始すべきと判断するのであろうか。何らかの新たな国連決議が必要となるのか、あるいは、今回のテロを「国際の平和及び安全に対する脅威」と認定し、あらゆる手段を用いてこれと戦うことを宣言した9月12日の安保理決議第1368号をもって、既に対米協力の要件は整っているとするのだろうか。
第2に、自治体や民間の協力を得ることができるか。
周辺事態法においては、例えば港湾施設といった公的施設の使用等につき、自治体の長に協力を求めることができる。また、輸送といったサービス等につき、民間に協力を依頼することもできる。これらは、まさに「我が国の平和及び安全に重要な影響を及ぼす事態」に際して国益のために必要な協力をしてほしい、との考え方に基づくものである。
他方で、今回の事態は、端的に言えば「我が国の平和及び安全には重要な影響を及ぼさない」という位置づけである。だからこそ周辺事態法とは別の法整備をしようとしているのである。この場合にも同様の協力を自治体や民間に要請できるであろうか。高度な説明が求められるのではないか。
以上2点も踏まえ、個人的には、今回の事態を周辺事態と位置づける余地はなかったのだろうかと思う。確かに、99年の周辺事態法案審議の際に、政府は「周辺事態は中東、インド洋等では想定されない」との答弁を行っている。事実「想定されなかった」のである。地球上でのどこかに潜伏するテロリスト集団の遠隔操作により、民間航空機が一瞬にしてミサイルと化して突っ込んでくるという事態を当時誰が想定しただろうか。まさにブッシュ大統領の言う「new
kind of war」ではないか。
更に言えば、今回のテロが「国際の平和及び安全に対する脅威」であるとの国連決議がなされている中で、「でも我が国の平和及び安全には重要な影響を及ぼさない(=したがって周辺事態ではない)」というスタンスをとる必要があったのだろうか。今回の事態は周辺事態であるという政府判断をした場合、これを承認するかどうか、国会での議論は紛糾するであろうが、我が国の姿勢につき、国民(の代表)に信を問う良い機会だったのではないか。
いずれにせよ、賽は投げられた。我が国としては、19日の発表にあるとおり、今回の事件を「自らの安全確保の問題と認識して主体的に取り組む」ことが基本であろう。「構造改革」も「景気回復」も、磐石の安全保障の上に初めて成り立つものであるということは、関係者が必死で支えようとしていた「日経平均1万円ライン」が事件翌日にあっさり割れてしまったことを見ても自明なのである。
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