同時多発テロに関連して

 日本人の対応

 愛知和男 (2001年11月30日JMM転載)

 最近、二日間にわたってニューヨークに出掛け、国連をはじめとする外交関係者と意
見交換して来ました。この内容については、いずれ報告する事とするが、まずはじめにこ
の時点でどうしてもふれておきたい事があります。

それは日本人のニューヨーク訪問者がテロ事件発生以降激減したままで一向に回復の
見通しが立たないという事態にあるという事です。実に前年同期に比べて90%域というこ
となのです。つまり、一割になってしまっているのです。

ヨーロッパ諸国などからの訪問者は一時的に確かに激減しましたが、その後回復し、
今では前年比70〜80%まで回復しているそうです。なぜ日本人の訪問者だけがこれ
だけ減ったまま回復しないのでしょう。

政府関係者からの公式非公式の働きかけ、つまり、出来るだけニューヨークに旅行す
るのを控えるようにとの働きかけも影響を与えているようであるし、またもし万が一の事
が起きると責任を取らされるから、という日本社会独特の理由で、会社などでも上司から
の指示でなるべく出張を控えるようにという指示が上司からでているという事も聞きました。
しかし、根底には日本人の一般的心理、つまり危ない所にはできるだけ近寄らないよ
うにするという心理があって、これが大きく影響しているように思えてなりません。

危ないところへは近寄りたくないという想いがある一方、それだけではいけないとい
う一種の引け目感情からか、ニューヨークの復興には日本政府は多額の金を寄付して
いるし、一般の義援金も結構な量が集まっているそうです。

つまり身の危険は出来るだけ避けて、金でその分償うという心理の現われでしょう。
国際社会から強い批判をあびている日本人の対応が、はからずもニューヨークへの旅
行者数が他国に比べて著しく激減したままであるという型でここでも具体化しているのです。
ここはまず、義援金を募るのではなく、ニューヨークへ出掛けることが大切なのでは
ないでしょうか。

先刻、ハワイ州の知事一行がわが国を訪れて日本からの観光客の激減でいかに大きな
打撃を受けているか、是非とも早く日本からの観光客が元へ戻ってほしい、そのために
日本政府としてもぜひ協力してほしいという要請がありました。

日本政府としてはぜひこの要請に応えなければならないのではないでしょうか。
テロ事件発生以来日本政府が取り続けてきた姿勢、つまり出来るだけ危険に近寄らな
いようにという国民向けメッセージをここで明確に変更する必要があるのではないでしょうか。
危険ゼロなどということはそもそもあり得ないのだし、アメリカとしても万全に期し
てぜひアメリカを訪問してほしいと要請して来ているのだから、この際その要請に応
えようではないか、という趣旨のメッセージが日本政府から日本国民に対して発せら
れるべきではないでしょうか。

ところで、前回は主としてハーバード大学を中心にした経験をもとに報告したので今
回はワシントンでの印象を記することにします。在ワシントンの有数のシンクタンクの
ひとつである、戦略国際問題研究所(CSIS)主催の「テロリズムに対する戦いの報道
ぶりについて」と題するセミナーへ出席してみました。

パネリストはニューヨークタイムズ紙、タイムマガジン誌及び国内公共ラジオの各々
国防省担当者の記者と国防省の広報担当者(制服)でした。内容は表題の通り、
今回のテロに対する戦いについての国防省の担当官のブリィーフィングのあり方、
そしてマスコミの報道の仕方などについて各パネリストから活発な発言があったあ
と、聴衆とのやりとりを行うという形で進められたが、まずはじめにこのような公開の
フォーラムが開かれ、マスコミの担当記者が出席してお互いに公衆の面前で批判し合
うということ自体、日本では考えられないことではないか、と強い印象を受けました。

議論は、出席していた記者諸君の間でも盛んに闘わされたが、とくにCNNの報道ぶり
に多くの批判が集まっていたのは、印象的でした。確かに私も当地へ来てCNNを見て
いて感ずるのだが、毎日毎日朝から晩までほとんど今回のテロ事件の報道一色であるし、
またその報道内容も従来型の戦争の報道、つまりアフガニスタンにおける爆撃の様子
とか兵士の姿とか、どこの都市が陥落したとかこの次の目標はどの都市でそのために
どの位の兵力が投入されているのかといった内容がほとんどです。

これを見ていると、今回の戦いはアフガニスタンに対する或いはイスラム社会に対す
る戦いではなく、テロに対する戦いであると大統領をはじめ関係者がいくら強調しても、
この戦いはアメリカのアフガニスタンに対する戦いだという印象ばかりが強く残るの
であります。これを見ているアメリカの一般国民は大いに意気が上がるのかもしれないが、
CNNは世界中の人々がみているのであり、その人々が受ける印象は、アメリカの対応
はどこか腑に落ちない、何かがおかしいということになってしまっているのではないでしょうか。

今回の戦いは従来の国と国との戦いと全く質を意にする戦いであり、単に軍事力を
以って正面から戦えばいいというものではなく、もっと各方面、例えば資金面、情報、
通信の面などテロに対する総合的な攻撃が必要であるという事、或いは国際協調の
必要性即ち外交面での対応の現状や今後の方針など、テロに対する戦いという今までとは
全く質を意にする戦いということの理解を国民の間に広めることが何より大切のなの
に、それとは逆の方向になってしまっているのではないか、という指摘がパネリスト間、
更には聴衆とのやり取りの中でも指摘されていたのは印象的でした。

もうひとつ報告すると、ジョージ・ワシントン大学の中にあるグローバリゼーション
研究センター主催のセミナーでテーマが「9月11日後のグローバリゼーション、その
インパクトと波及」とでも云うものに出席してみました。GWUのジェームズ・ローゼナウ教授
が主として問題提起をしたが、その中で印象的だったのは、国家主権の問題、貧富の格差
の問題と今回のテロとの関連、またそれがどのように、今後のグローバリゼーションと
関わりを持つかと言った問題提起でした。議論は拡散したままで終ったが、いずれにせよ
真剣な議論が始まっています。しかしながら、なおアメリカとしての方向づけがなされてゆく
までには道遠しという印象を強く受けました。