ワシントンDCと人脈
| 村上龍JMM編集長からの質問 ところで、衆院予算委員会で、田中真紀子外相が、「わたしにはワシントンに人脈があるのをご存知ですか」 という意味のことを発言していました。 「人脈」あるいは「コネ」という言い方は、日本でよく使われるのですが、ワシントンの常識として、どの程度の「つきあい」があれば、「人脈」として、その人物の「財」になりうるのでしょうか? 日本では、名刺の交換をしたり、一度お酒を飲んだだけで、「あいつとはツーカーだ」という風になりがちですが、 ワシントン(あるいは国際外交全般)では事情が違う気がするのですが。 PRANJのみなさんに聞いていただけますか? ------------------------------------------- 村上龍さんが「人脈」という言葉の使い方に疑問をお持ちになったのは流石に言語感覚の鋭いプロの証拠であると私は思います。実際この言葉ほどいい加減で実態のないものはありません。つまり人脈があると言われてもそれが何か分からないのだし分からなくていいからこの言葉を使うのです。 -------------------------------------------------- 前回の繰り返しになりますが、もし、田中外相がワシントンにまともな人脈を持っていて、その情報がきちんと伝わっていたなら、アーミテージ国務副長官とのキャンセルはなかったのではないかと思います。田中氏の持つ人脈がアーミテージが嫌いだったということは考えられますが、(私は、アメリカ人で、今回の田中外相のキャンセルは別に問題がないと語る人を知っていますが、よくよく聞くと彼はアーミテージが嫌いらしい。)もし、そのような偏った情報だけを鵜呑みにするぐらいの薄い人脈であれば、かえって害があるでしょう。 --------------------------- 匿名希望 渡部さんが書いてらっしゃったように、財としての人脈、つまりどの程度の付き合いを通した人脈が財となりうるかの日米比較は、難しいと思われます。 人脈の作り方というのは個人レベルで違いますし、自分の人脈をどのような「財」とするかは一人一人違います。この場合、田中真紀子外相の人脈についてお尋ねですから、外交を行っていく上での財としての人脈について少しコメントさせていただきたいと思います。 ワシントンは、皆さんご存知のように外交の人脈が複雑に交差している町です。アメリカでは、6人の友人・家族・親戚というネットワークをたどれば、必ず自分が会いたいと思う人と関係を見出すことができる、つまりどこかでつながっているということがよく言われます。ワシントンでは、6人のつながりがなくても、3,4人の人を仲介すれば自分が会いたいと思う人にたどり着けるのではないかと思います。このように、インサイド・ベルトウェイは、本当に人脈的には濃厚です。 私は人脈形成のための付き合いにも大きく二つのグループがあると思います。一つ目は、仕事上の付き合いだけとお互いに割り切り、お互いの経験、肩書き、人脈を利用する付き合い。二つ目は、一つ目を超え、お互い腹を割って様々な問題について外交的立場を超え、オフレコで自分の本当の考えをぶつけ合うことができる付き合い。ここまでくれば、真の人脈と呼べる思います。 確かにワシントンでは会合や会議が多く、みんなとても積極的に人脈を広げ、そして自分の世界を広げていこうとする人がとても多くいます。しかし、その中でも真の人脈に発展していくのはそんなに多くはないと思います。しかし、やはり交流数が多いだけ、そのチャンスも増えてくるわけで、ワシントンではかなり濃厚な人脈を作ることが可能です。 もう一つ、ワシントンというか、アメリカにおける人脈作りの重要な特徴としていえることは、いわゆる「偉い人」がいわゆる「若造」に、気軽に会う機会を与えてくれるということです。もちろん、中身が空っぽで会いに行くというわけには行きません。私はワシントンで職探しをした際、とても多くの「偉い方々」に、知り合いの知り合い、または上司の知り合い、というだけで会っていろいろと就職の機会について、人生について、様々なお話をさせていただきました。私は、彼らの率直さと一生懸命さにとても感動しました(ちなみにみんながみんなそうではありませんでしたが。)。アメリカは、一般的に、若い人を育てるということをとても大切にします。日本にいると、それが足りないなとつくづか感じます。 -‐-----------------------------‐ 村上博美 (経済戦略研究所) 外交・安全保障と経済面におけるワシントン「人脈」の性格は若干違うと思います.一つには経済関係の職域が豊富なことで,必ずしも政策産業に関わることが突出した価値観ではないからでしょう.例えばポール・クルーグマン氏のような経済学者は政権に入ろうという気は毛頭ないでしょうし,産業や財界のトップは必ずしもワシントンDCにはいません。そういう状況で,「人脈」が「財」となるかどうかは、それぞれの立場で如何に仕事に結び付けているのかで評価するのでしょうか。例えば、当研究所の目玉である、毎年恒例のフォーラムでは、所長の「人脈」がやはり物をいいます。如何に人脈が「財」となっているかは、フォーラムや会議でその力量が発揮されることでわかります。つまり、ワシントンDCにはいろいろな会議―短いもので2時間(10人程度)から、長いもので3日間程度(1000人を超える)の大規模な会議が開催されます。そのフォーラムで如何に関心の高いトピックをもってくるか、如何にトピックに合致した質の高いスピーカーを持ってきて聴衆を満足させるかというのが成功の鍵を握っています。それが好評であればあるほど、研究所の付加価値が上がります。昨年のグローバルフォーラムには、韓国の金大中大統領のライブ画像メッセージに始まり、(全て当時の)コーエン国防省長官、デーリー商務省長官、バシェフスキー通商代表、サマーズ財務省長官、と国内重量級をそろえ、各国駐米大使、大企業社長・会長、学者はもちろんのこと、海外からも閣僚級、元国家元首、国際機関BISやIMF、欧州代表、ベンチャービジネスや企業家をパネリストやスピーカーとして一同に集めたそれは人選だけでもため息がでてしまうような豪華さでした。もちろん、これらのすべての人脈が懇意であるわけはなく、やはりそこにはギブ・アンド・テイクという関係が成り立っています。また、集まった聴衆たちも、知識欲に肥えた人たちなので質問時間が特におもしろく、中には政権の矛盾点をつく鋭い質問もあり、サマーズ長官も答えにつまる状態でした。好評だった理由は、タイムリーな人選もさることながら中身や聴衆の質の高さであったといえます。 これらの人脈を絶えず新規開発・メンテしているのは本人とスタッフですので、有能なコミュニケーション・ディレクターを雇うことはシンクタンクの重要な経営戦略の一つです。もちろん、シンクタンクによって戦略は違いますが、特に私たちのようにある分野に特化しているシンクタンクでは、非営利団体のシンクタンクを運営する上での資金面の「人脈」と研究所の存在価値を上げるためのフォーラム開催「人脈」と大きく2つあります。資金面人脈はやはり、シンクタンクの主旨に賛同しているどちらかというと深い人脈、フォーラム人脈はお互い利害関係で成り立っている人脈が多いように感じます。(もちろん、オーバーラップはありますが。)後者では、常に新しい情報をキャッチして、最新のベストな人材リストをそろえなければなりません。特に、ワシントン随一のフォーラムを開催していると自負している所長にとっては「人脈」は最重要課題です。 人脈を戦略的な「財」とするためには、人材リストに入っているそれぞれの人の新しい考えや関係を最新の状態に絶えず保つことで成り立つのではないでしょうか。 そのために彼らはすごい時間を費やします。所長の場合、それこそ1年中世界中を飛び回って人と会っています。日本に行った時は、滞在中1分1秒の時間を惜しむように、朝7:30から夜11時までびっちり予定を入れて、「人脈」の開発・メンテに勤めています。ただ会うのではなく、情報収集もかねているので、いつも相手の人を質問攻めにして議論をふっかけます。相手方にしても、ワシントンでの新しい議論や情報をとれれば会う価値はあると考えていらっしゃるのでしょう。東京の某ホテルの朝食レストランでは、ワシントンでもよく見る顔がごろごろしていました。朝食ミーティングを「パワー・ブレックファースト」と呼んでいますが、日本に長くいるアメリカ人で「僕はもう、あれだめだね。もうパワーないよ。」という人もいます。あまり、日本人の人脈の作られ方をまじかで見たわけではないのですが、これだけエネルギーを使うものなのかと感心しているところです。
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