ワシントンDCと人脈

 村上龍JMM編集長からの質問

ところで、衆院予算委員会で、田中真紀子外相が、「わたしにはワシントンに人脈があるのをご存知ですか」 という意味のことを発言していました。 「人脈」あるいは「コネ」という言い方は、日本でよく使われるのですが、ワシントンの常識として、どの程度の「つきあい」があれば、「人脈」として、その人物の「財」になりうるのでしょうか?

日本では、名刺の交換をしたり、一度お酒を飲んだだけで、「あいつとはツーカーだ」という風になりがちですが、 ワシントン(あるいは国際外交全般)では事情が違う気がするのですが。

PRANJのみなさんに聞いていただけますか?

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中林美恵子 (米上院予算委員会)

村上龍さんが「人脈」という言葉の使い方に疑問をお持ちになったのは流石に言語感覚の鋭いプロの証拠であると私は思います。実際この言葉ほどいい加減で実態のないものはありません。つまり人脈があると言われてもそれが何か分からないのだし分からなくていいからこの言葉を使うのです。

米国でもその定義は単純明快ではありません。勿論human networking はワシントンの活動の主要部分です。誰もがよりパワー(影響力)のある人物に近付こうとしてうごめきます。そうする事によって様々なレベルで国家政策形成過程に入り込む事ができるからです。自分には人脈があると周りに吹聴して高額ロビイストとして契約を取る商売人がワシントンには沢山います。何が本当なのかはそれを証明してもらうしか有りません。例えば具体的に潰したい議会の法案が出たら、きちんと担当者に無理なリクエストをし、無理を聞いてもらえるかなど、力関係にさえ及ぶもがワシントン特有の人脈であったりします。ワシントンでは、何十年とかけて培った友人関係や同僚関係を、ロビイストとして商売道具に使います。そこには give & take があり双方が利するようになってはいます。人脈=金=影響力ともいえるのではないでしょうか。純粋な友情では少なくともありません。友人は人脈ではなくやはり友人ですから。

日本から世界各地に駐在する外交官達の仕事にも一部では人脈構築の要素があるでしょう。だから日本国民の税金を使って現地有力者を招いたレセプションやホーム・パーティーを開き、人脈開拓と構築に努力するのです。但しこうして公務で培った人脈は、まるで自分個人友人だと思い違いせずに、最終的には国民に還元し日本国家の為に使わねばいけません。田中外相がワシントンに人脈があるというのは大変結構な事です。上記の私の理論でおしはかれば、海外に散らばる外交官達の人脈全てが大臣である彼女のものといえます。ただし彼女個人のものではなく、日本国民の税金で構築された日本人ものだという事です。

人脈という言葉には、きな臭さはあっても純粋さはありません。ワシントンの商売の部分を指している気が私はします。使い方によってはただの「ホラ」となる言葉です。一方で、金儲け又は出世の為の道具である事を認めた計算づくの人脈構築はワシントンの必要悪であり、実はこの街を活性化している要素であることも否定できません。ですから、人脈という言葉を使うからには、自分なりの定義と具体性を証明する必要があるでしょう。できれば始めからもっと良い言葉を選ぶべきです。人脈とはそういうあやしい言葉だと思います。

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渡部 恒雄 (CSIS 戦略国際問題研究所)

田中真紀子外相の「ワシントンに人脈」発言ですが、財としての人脈の客観的な日米比較は、ちょっと難しいです。一般的にいえば、ワシントンは政治の街であり、人脈を非常に大事にすることでは、 日本に劣らないと思います。

だからこそ、そのワシントン人脈が作り出す政策への反発として、大統領選挙などでは、地方の代表、庶民の代表という意味で、反ワシントンコンセンサス、反「インサイド・ベルトウエイ」(ベルトウェイと呼ばれるワシントンの首都圏を取り囲む環状高速道路の内側の人達、つまりワシントンの政策コミュニティーのエリート)が政治的に大きな意味を持ったりするわけです。

ワシントン一般でいえば、その人間同士がそれほど深い関係でなくても、例えば、忙しい政治家と一度あっただけでも(一度でも会えるだけでもすごいということはいえますが)、あいつとは知り合いだというような、間がらを自慢するということは、日本と同じようにかなりあります。しかし、あまりホラ吹きや誇張が過ぎると、本人の信頼性を失ってしまうというのも、日米ともに真実だと思います。私の経験からいって、アメリカでは、パーティーの席上などでも、かなり深い話をするので、あんまりいい加減な話をしていると、後で結構まずいことになります。

ひとつだけ、ワシントンの特徴をあげるとすれば、本当に政策コミュニティーの中に入り込み、影響力を行使、あるいは政権に入ろうとするならば、その人間を知っているという意味だけでの人脈だけでは評価されないという点です。そこには内容が要求されます。政治的あるいは金銭的な利益をもたらす事や、あるいは政策情報や政策形成能力を持つといった要素を、個人が持たなければなりません。その意味で田中外相は元首相の娘であり、国会議員ですから、ワシントンを訪れれば非常に大事にされているでしょうし、英語も上手なので、ワシントンに親しく付き合いをしている人達がいることは想像できます。ただし、私の知る限り、いわゆる日米の外交、安全保障コミュニティーの中で(極めて狭いサークルです)、田中外相の政策観、外交観をよく知る人はほとんどいません。お互いをよく知るためには、意見を出し合い議論をして人間関係を築かなければいけません。しかも、ある程度、長期的に持論を展開していなければ、その政策観を理解してもらえません。その意味では、小泉首相も、森元首相も、田中外相と同じでワシントンには未知数でした。逆に小渕首相は地味でしたが、かなり人脈があり、その政策観を理解している人は多くいました。

要するに、政治家を判断するにあたり、それまでの議論の筋道がわからなければ、良くも悪くも、評価のしようがないわけです。その点で、ワシントンの政策コミュニティーでいまだに評価が高いのは、小沢一郎自由党党首です。彼は、早い段階で、アメリカの招聘プログラムにも参加しているようですし、アメリカの重要人物と頻繁に意見交換をしていたようです。彼の著書「日本改造計画」は、英語にも翻訳され、大学の政治学のクラスでも教科書として使われたぐらい、彼の政策的方向性は際立って目に見えるものでした。

それから、ワシントンに頻繁に訪れて意見交換をしているから、ワシントンの政策コミュニティーに絶大な信頼があるかといえば、そうでもないという例が、加藤紘一元自民党幹事長です。彼は、アメリカの外交界の大御所、ヘンリー・キッシンジャーとは親しく付き合い、頻繁にアメリカを訪ねており、私のいる戦略国際問題研究所でも講演をし、ある程度までは評価されております。ただし、日米中関係は正三角形であるべきだという持論を持っているため、日米の二国間の同盟関係を軸に、アジアの安全保障を展開しようとしている現実派からは、不信感を持たれています。実際、戦略国際問題研究所での講演の際も、このことで聴衆から質問をうけて、加藤氏はこれに答えましたが、あまり、説得力のある答えではなかったという記憶があります。(キッシンジャーと仲がいいのも、お互いに親中派同士だからではないのかという陰口もあります)ただし、このように、本人の政策観がわかるというだけで、ワシントンのコミュニティーには、かなりの安心感を与えます。

ここで、確認をしておきたいことは、上記の小沢氏と加藤氏の二人の比較の中で、アメリカとの関係を重視するというポジションだから、小沢氏が評価され、距離があるから加藤氏の評価が今一つとだけ考えると、やや違います。要は、その人物の政策がどのような方向であれ、きちんとした現実的な政策枠組みのなかで、説得力のある議論ができるか否かというところに、その真髄があります。ですから、例えば、英語が流暢な加藤氏よりも、英語はあまり達者ではないが、その安保政策観がしっかりしている山崎拓自民党幹事長のほうが、ワシントンの安保コミュニティーでは評価されているという事実もあります。(もちろん英語が話せるにこしたことはありませんが…)

民主党も、鳩山、管、両氏とも、この点では、ワシントンに政策を伝える努力をしております。(両者ともワシントンを訪れ自らの政策を聴衆に伝え、真摯な議論をしています。)ただし、民主党も、最初に出した「基地なき安保」というスローガンが、アメリカ側には不評で、当初は苦戦していました。(私は長期的には、このような考え方自体は、まっとうなものだと思いますが、政治的には決してうまい表現ではなかったと思います。)

あくまでアメリカにとってですが、小泉内閣で、ワシントンの人脈を生かして政府の信頼感に貢献している人物は、山崎幹事長(閣僚ではありませんが)、福田官房長官、中谷防衛庁長官、竹中経済財政担当大臣などであり、小泉首相、田中外相ともに不確定要素です。

前回の繰り返しになりますが、もし、田中外相がワシントンにまともな人脈を持っていて、その情報がきちんと伝わっていたなら、アーミテージ国務副長官とのキャンセルはなかったのではないかと思います。田中氏の持つ人脈がアーミテージが嫌いだったということは考えられますが、(私は、アメリカ人で、今回の田中外相のキャンセルは別に問題がないと語る人を知っていますが、よくよく聞くと彼はアーミテージが嫌いらしい。)もし、そのような偏った情報だけを鵜呑みにするぐらいの薄い人脈であれば、かえって害があるでしょう。

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匿名希望 

渡部さんが書いてらっしゃったように、財としての人脈、つまりどの程度の付き合いを通した人脈が財となりうるかの日米比較は、難しいと思われます。

人脈の作り方というのは個人レベルで違いますし、自分の人脈をどのような「財」とするかは一人一人違います。この場合、田中真紀子外相の人脈についてお尋ねですから、外交を行っていく上での財としての人脈について少しコメントさせていただきたいと思います。

ワシントンは、皆さんご存知のように外交の人脈が複雑に交差している町です。アメリカでは、6人の友人・家族・親戚というネットワークをたどれば、必ず自分が会いたいと思う人と関係を見出すことができる、つまりどこかでつながっているということがよく言われます。ワシントンでは、6人のつながりがなくても、3,4人の人を仲介すれば自分が会いたいと思う人にたどり着けるのではないかと思います。このように、インサイド・ベルトウェイは、本当に人脈的には濃厚です。

私は人脈形成のための付き合いにも大きく二つのグループがあると思います。一つ目は、仕事上の付き合いだけとお互いに割り切り、お互いの経験、肩書き、人脈を利用する付き合い。二つ目は、一つ目を超え、お互い腹を割って様々な問題について外交的立場を超え、オフレコで自分の本当の考えをぶつけ合うことができる付き合い。ここまでくれば、真の人脈と呼べる思います。

確かにワシントンでは会合や会議が多く、みんなとても積極的に人脈を広げ、そして自分の世界を広げていこうとする人がとても多くいます。しかし、その中でも真の人脈に発展していくのはそんなに多くはないと思います。しかし、やはり交流数が多いだけ、そのチャンスも増えてくるわけで、ワシントンではかなり濃厚な人脈を作ることが可能です。

もう一つ、ワシントンというか、アメリカにおける人脈作りの重要な特徴としていえることは、いわゆる「偉い人」がいわゆる「若造」に、気軽に会う機会を与えてくれるということです。もちろん、中身が空っぽで会いに行くというわけには行きません。私はワシントンで職探しをした際、とても多くの「偉い方々」に、知り合いの知り合い、または上司の知り合い、というだけで会っていろいろと就職の機会について、人生について、様々なお話をさせていただきました。私は、彼らの率直さと一生懸命さにとても感動しました(ちなみにみんながみんなそうではありませんでしたが。)。アメリカは、一般的に、若い人を育てるということをとても大切にします。日本にいると、それが足りないなとつくづか感じます。

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村上博美 (経済戦略研究所)

外交・安全保障と経済面におけるワシントン「人脈」の性格は若干違うと思います.一つには経済関係の職域が豊富なことで,必ずしも政策産業に関わることが突出した価値観ではないからでしょう.例えばポール・クルーグマン氏のような経済学者は政権に入ろうという気は毛頭ないでしょうし,産業や財界のトップは必ずしもワシントンDCにはいません。そういう状況で,「人脈」が「財」となるかどうかは、それぞれの立場で如何に仕事に結び付けているのかで評価するのでしょうか。例えば、当研究所の目玉である、毎年恒例のフォーラムでは、所長の「人脈」がやはり物をいいます。如何に人脈が「財」となっているかは、フォーラムや会議でその力量が発揮されることでわかります。つまり、ワシントンDCにはいろいろな会議―短いもので2時間(10人程度)から、長いもので3日間程度(1000人を超える)の大規模な会議が開催されます。そのフォーラムで如何に関心の高いトピックをもってくるか、如何にトピックに合致した質の高いスピーカーを持ってきて聴衆を満足させるかというのが成功の鍵を握っています。それが好評であればあるほど、研究所の付加価値が上がります。昨年のグローバルフォーラムには、韓国の金大中大統領のライブ画像メッセージに始まり、(全て当時の)コーエン国防省長官、デーリー商務省長官、バシェフスキー通商代表、サマーズ財務省長官、と国内重量級をそろえ、各国駐米大使、大企業社長・会長、学者はもちろんのこと、海外からも閣僚級、元国家元首、国際機関BISやIMF、欧州代表、ベンチャービジネスや企業家をパネリストやスピーカーとして一同に集めたそれは人選だけでもため息がでてしまうような豪華さでした。もちろん、これらのすべての人脈が懇意であるわけはなく、やはりそこにはギブ・アンド・テイクという関係が成り立っています。また、集まった聴衆たちも、知識欲に肥えた人たちなので質問時間が特におもしろく、中には政権の矛盾点をつく鋭い質問もあり、サマーズ長官も答えにつまる状態でした。好評だった理由は、タイムリーな人選もさることながら中身や聴衆の質の高さであったといえます。

これらの人脈を絶えず新規開発・メンテしているのは本人とスタッフですので、有能なコミュニケーション・ディレクターを雇うことはシンクタンクの重要な経営戦略の一つです。もちろん、シンクタンクによって戦略は違いますが、特に私たちのようにある分野に特化しているシンクタンクでは、非営利団体のシンクタンクを運営する上での資金面の「人脈」と研究所の存在価値を上げるためのフォーラム開催「人脈」と大きく2つあります。資金面人脈はやはり、シンクタンクの主旨に賛同しているどちらかというと深い人脈、フォーラム人脈はお互い利害関係で成り立っている人脈が多いように感じます。(もちろん、オーバーラップはありますが。)後者では、常に新しい情報をキャッチして、最新のベストな人材リストをそろえなければなりません。特に、ワシントン随一のフォーラムを開催していると自負している所長にとっては「人脈」は最重要課題です。

人脈を戦略的な「財」とするためには、人材リストに入っているそれぞれの人の新しい考えや関係を最新の状態に絶えず保つことで成り立つのではないでしょうか。 そのために彼らはすごい時間を費やします。所長の場合、それこそ1年中世界中を飛び回って人と会っています。日本に行った時は、滞在中1分1秒の時間を惜しむように、朝7:30から夜11時までびっちり予定を入れて、「人脈」の開発・メンテに勤めています。ただ会うのではなく、情報収集もかねているので、いつも相手の人を質問攻めにして議論をふっかけます。相手方にしても、ワシントンでの新しい議論や情報をとれれば会う価値はあると考えていらっしゃるのでしょう。東京の某ホテルの朝食レストランでは、ワシントンでもよく見る顔がごろごろしていました。朝食ミーティングを「パワー・ブレックファースト」と呼んでいますが、日本に長くいるアメリカ人で「僕はもう、あれだめだね。もうパワーないよ。」という人もいます。あまり、日本人の人脈の作られ方をまじかで見たわけではないのですが、これだけエネルギーを使うものなのかと感心しているところです。

 


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