PRANJワークショップ記録2 

    日米安保の課題・アメリカ単独主義、イラク、北朝鮮
  渡部恒雄氏 (戦略問題問題研究所 日本部 主任研究員)

 2002年10月21日 CSIS戦略国際問題研究所 (ワシントンDC)

座談会参加者:
平林栄次(経済広報センター)
加藤芳洋 (弁護士事務所)
林三千子(通商政策コンサルタント)
片桐範之(防衛情報センター)
辰己由紀(戦略国際問題研究所)
加納雄大(日本大使館)
中村美千代(フリー・ジャーナリスト)
中港拓
中村英正(日本大使館)
加瀬みき(AEI研究員 )
司会 村上博美 (ESI経済戦略研究所)
 

北朝鮮の核兵器保有の衝撃

さて、ここで、話は北朝鮮にいくのですけれども、ブッシュドクトリンに関して、大きなブローといいますか、衝撃があったのが北朝鮮問題です。それは何かといいますと、北朝鮮が、本当にここ数日の話ですけれども、1994年の枠組み合意ということで、核開発をしない代わりに、Korean Peninsula Energy Development Organization (KEDO)というコンソーシウムが、軽水炉という核兵器に転用し難い発電用の原子炉を提供するということで合意をしたわけです。1994年の枠組み合意、これはご存知の方も多いと思いますけれども、その直前というのは、まさに戦争一歩手前、例えば今、アメリカはイラクに対して先制攻撃、核、大量破壊兵器の開発を断念させるために、先制攻撃を考えているわけですけれども、それをやはり当時は同じことを北朝鮮に対して考えていたわけなんですね。その頃の当事者の話を聞くとかなり生々しいものがあります。それで、また似たようなことがここにきて、起ってしまったのです。北朝鮮側が1994年以降も核開発を続けてきたということを、あっさりとアメリカ側に言ってしまったわけです。



そうすると、これはブッシュ政権の戦略には大きな痛手となる可能性があるのです。これはどういうことかというと、とにかく先ほど言った戦略で、割と一般的に、イラク攻撃の理屈を、大量破壊兵器を保有する意図のあるならず者国家への先制攻撃として位置付けてきたわけです。そうなると当然のことながら、疑問というのは、イラクと同じような国、下手をするとイラクよりも核兵器が確実にありそうな北朝鮮に対し、イラクは攻撃するのに、何故攻撃しないのかという話になってきます。それでは、アメリカは北朝鮮も一緒に攻撃するかというと、これは現実的には相当難しい話です。何が難しいかというと、いろいろあるのですが、まずイラクと違って、北朝鮮というのは、Demilitarized Zone(DMZ)−非武装地帯−をはさんで、通常兵器の届く距離に韓国の一般市民が沢山暮らしているわけです。首都ソウルも、射程内です。となると、北朝鮮に先制攻撃をした場合、報復として、ソウルのあたりまで通常兵器で火の海になることは明らかなのです。それがひとつ。

それから、これは日本人がどのくらいまで気がついているかわかりませんが、今回のことで、北朝鮮が核をひとつかふたつ持っていることが、これは前々からインテリジェンス筋では言われていたのですけれども、かなり確実になってきたわけです。それで北朝鮮が確実に機能するミサイルとして持っているのは、テポドンという日本を超えたミサイルではなくて、ノドンという明らかに日本を射程にしているミサイルであり、日本に向いています。日本以外に攻撃するところがないからです。ということは、実は日本の我々の市民が核で人質に取られているということわけです。そうすると、アメリカはいくらイラクを攻撃したいからといって、そして辻褄が合わないからといって、北朝鮮を攻撃するようなことをしていくと、長期的にはアメリカの戦略、特に東アジア戦略の基本である、韓国と日本という同盟パートナーを危機にさらすわけですから、これは端からやれないわけです。これが二つめの理由です。

それから、三つ目は、クリントン政権までずっとやってきた戦略のひとつで、米軍は中東とアジアでの2正面作戦を同時に遂行できるように備えるというのものがあったのですが、これをブッシュ政権になってからはやめるといっています。これは現実的ではないと。ですから、そういう準備はしていないのです。今朝のCSISで専門家を集めたブリーフィングでも話された話題なのですけれども、アメリカの軍事力の優位性のひとつというのは、今回のアフガン空爆でも示されましたが、精密誘導爆撃の強みなのですね。衛星などを使って、非常に正確に目標物に向かって、爆撃していくので、無駄がなくて強力なのです。現在はこの辺りの在庫が切れていて、イラクでもぎりぎりで、朝鮮半島にまでは余裕がないらしいのです。そういうわけで、現実的には、ブッシュ政権というのは、おそらく北朝鮮に対して、イラクと同じ態度はとれない。しかし、そうしてしまうと、先ほどお話したとおり、政策に一貫性がなくなるので、「あれ?」という話になってくるわけです。

ブッシュ政権は、特に、クリントン政権の政策を批判してやってきたものですから、非常にばつが悪いわけです。特に北朝鮮に関する、クリントン政権の安易な関与政策というものをものすごく批判してきたものですから、これで、また関与政策をとってしまった場合には、多分、クリントン政権の人達は、「ほらみたことか、我々と同じことをやっているではないか」ということになりますから、ばつが悪いですよね。だから、非常にその辺り、この政権がどういう方向にいくのか、わからないのですが、苦しいと思います。私はそれでも面子にこだわって、それで、世界中を巻き込んで、不安定にするほど、アメリカの戦略的思考は阿呆ではないと期待していますけれども、もし、そうでないなら、怖い話です。そうならないというふうに期待しています。

ただワシントンにいて、政策議論を聞いていますと、バランスのとれた考え方をしている人が政権外に多くいますし、政権内にもその受け皿がありますから、あまりひどいことにはならないと私は思っています。ただ、これがまた日本に伝わって、日本のメディアがあまりよく勉強せずに、というか、表面だけなぞると、極端に傾きますよね。そのへんも要注意ですよね。

日本のメディアを、私がこちらから見ていて気になるのは、例えば、もちろん拉致家族の問題というのは大事な関心ではあるかもしれませんけれども、こういう安全保障上の問題と拉致家族の問題というのは、同次元においてはいけない話です。それは、安全保障のために、拉致家族を犠牲にしろ、とかそういうことを言っているわけではありません。ただ常識的に拉致家族の問題も、人権も大事ですけれども、それと同時に、戦争や危機が起ったときに、失われる可能性のある人達の人権だって大事です。それをバランスよく考えていくということが、政策研究だし、政策をやっている人の責任だということを忘れてはいけないのだと思います。

日本の態度
それでは、日本はどうすれば良いのか。これはなかなか面倒ですよね。まず、日本はアメリカの同盟国として、アメリカの一国主義的行動が、国際関係を混乱させるような態度であれば、それはそれで牽制しなくてはならない。ただ、それと同時に、アメリカとの同盟関係を維持していないと逆に日本が困ってしまう。日本が困るのは、日本の防衛をアメリカとの同盟関係に依存しているというのもそうですし、それと同時に、今話した、アメリカがアジアで、無茶できないというのは、逆に同盟関係に縛られているからですよね。ですから、そういう国際間の相互依存関係あるいは同盟関係というのは、やはり非常に大事なのです。そういうことをしながらも、ある程度は、シグナルを送らなくてはならない、実は今、日本にとっては少しやりやすい時期なのです。それは日米関係において、10年前みたいな経済摩擦で最悪の政治状況にはないので。もし10年前だったら、日本がアメリカに何か批判を言うと、どちらかといえば議会筋あたりから、日本は戦争もしないで、というか、軍事協力もしないで何を言っているのか、それでいて儲けていてけしからん、というような話がくるわけです。当時のアメリカは冷戦には勝ったけれども、経済戦争で日本に負けるかもしれない、あるいは負けたと思っていたわけです。今はそう思っていないですから、問題になりません。そういう意味で、日本というのは、今は少し余裕があると思います。経済摩擦をある程度解決しておいて、良かったと思います。

例えば、日米首脳会談において、小泉首相がブッシュ大統領に対して、「無茶をするなよ」ということを「耐え難きを耐え、忍び難きを忍び」という言葉を使って説いたわけですけれども、これだって、昭和天皇の終戦の玉音放送の言い回しなので、調べれば、アメリカの記者もわかります。もし、10年前の貿易摩擦でそんな言葉を使っていたら、今頃は、例えば、こんなことを言うのは悪いのですけれども、ニューヨーク・ポストとかライト系の新聞は、スニーキング・アタック(だまし討ち)とかいって、書いていたと思うのですよ。でも、そんな記事も全くでない。良くも悪くも、そういうところは、今、日米関係というのは沈静化しているのです。

現在、小泉首相とブッシュ大統領の関係も非常に良いし、ホワイトハウスと首相官邸の関係も密である。こういうのは、やはりこれまで10年間以上に渡って、特に貿易摩擦において、日米関係が非常に弱体化することを懸念した日米の関係者による一連の、ナイ・イニシアチブとか、ガイドラインとか、そういうもので、日米の安全保障コミュニティーや、あるいは民間の経済のコミュニティーがチャンネルをいっぱい作ってきた成果だと考えて良いと思います。これは大事です。ますます大事になってくると思います。そういうことがつながれば、アメリカだって無茶できないという意味でも大事ですし、そういう日本のメッセージを伝えることにもなります。

ちなみにヨーロッパはヨーロッパでそういうものを、もう日本よりも早くから、作っているので、日本に比べて、ヨーロッパ諸国というのは自由ですよね。ドイツがアメリカを批判したり、フランスが割と勝手な行動をとって、自分の利益を中心にアメリカを批判したり、あるいはイギリスの方は、ブッシュ大統領に関して、早くから緊密ぶりを見せたり、そこはヨーロッパというのは強くて、EUの枠組みがあって、NATOの枠組みがあるから、そんなに神経質にならなくても、アメリカと付き合えるという利点があります。そういう意味では、日米の関係も決して悪くないので、日本がアメリカがやることに盲従して、今のブッシュ政権がやっている、―特にブッシュ政権と行っても、一部のタカ派が動いている部分が強いのですけれども、そこに付いて行けばいいかというと、そうでもないと思います。ただ、そうするためには、日本は微妙なバランスの舵取りが必要になってきます。そういう微妙な時だからこそ、実は、政策を遂行している人達、特に首相とか、政治家とかに、全体のピクチャーを理解して、かつどういうイシューが問題なのかという優先順位をつけてもらいたい。そこが整理されていないと、思わぬ失敗もあると思うのですね。だから、ますます、先に延べた政策コミュニティーの存在というのが大事です。

今、小泉首相の外交政策は官邸主導でやっています。良い部分もある、でも官邸主導でやれることというのは、スタッフも少ないし、たかが知れていますし、限度もあります。やはりその辺をもう少し拡げていって、政治の中で、政策の研究というのがちゃんと反映されて客観性があって、しかも国民も理解できて、という方向に行かないといけないと思います。
 

「北朝鮮に対する今後のアジアの対応」

村上:今朝、私もCSIS(戦略国際問題研究所)のブリーフィングに出席させていただいたのですけれども、その時に気になったのは、ガルーチ氏(元朝鮮問題担当大使)が「アメリカはこれからどう対処するのか」という問いに対して、アメリカはとりあえず、中国や日本、韓国やロシアと相談して、なるべくなら、北朝鮮とは一切コミュニケーションを絶つ、ということを言いました。でも、例えば日本の場合は、小泉首相が訪朝し、これから国交回復の話をするという方向を示すように、韓国でも太陽政策で金大中大統領が、統一の方向に向けてエンゲージメントに努力しています。そういう状況で、核開発が分かったからと言って、米国がコミュニケーションをやめようと言うのと、アジアの状況は少し違うと思うのですけれども、そのあたり、日本や韓国を含めたアジアの人達はどういうふうに考えていくべきなのでしょうか。
 

渡部:「コミュニケーションを絶つ」とガルーチ氏が言ったのは、今、北朝鮮が核を持とうとしているわけですから、それに対してある程度のムチを示す必要があるという意味です。つまり北朝鮮の周辺国がコミュニケーションをとりながらムチを作らないといけないという意味であると私は考えています。そもそもガルーチ氏は1994年の枠組み合意を作った人ですから、タカ派が言っているように、北朝鮮が積極的に交渉の場に参加してかつ大きく譲歩しなければ、我々からは全く動かないし、さもなければ攻撃も辞さないよというふうなラインとはニュアンスが違うでしょう。

しかしながら、やはり核を持っている可能性が非常に高い上に、どう行動するかわからないような国と国交正常化交渉をこのまま進めるわけにはいかないでしょう。それから韓国も現在金大中大統領の下で太陽政策を軸に動いていますけれども、次回の大統領選挙でハンナラ党が選挙に勝って李会昌氏が政権になればそんなに簡単に譲ってはいけないという方向に動くのではないでしょうか。李氏は早くから金大中の太陽政策を批判していましたからね。そのあたり、どう日米韓の間の利益が乖離しないようにするかということが、ものすごく大事になってくると思います。

私は日米韓間でそれほど方向性に違いはないと思います。どちらかというと、韓日の存在がアメリカをタカ派にいかせないような力もあるし、アメリカの存在が韓日を安保面で安易な方向にいかせないようにもなっていると思います。3人4脚で足をしばっているようなところがあって、そこをうまく調整しないと転んでしまうので、バランスをとるしかないということです。先に行きたいという人がいても遅くなるし、行きたくないと思っていても足は進むし、というふうに見ていかなくてはいけないかと思います。

日本の場合でいえば、今回北朝鮮側が突然動いたことによって拉致疑惑に一つの区切りがついたわけなんですが、結果はひどいものでしたよね。13人の中の8人が死亡していた。5人が生存していて日本に一時帰国したわけですけれども。しかも、まだ潜在的に行方不明の人達もいっぱいいるわけで、日本はそんなに譲れる状況にないと思います。また一方で韓国もそんなに譲れる状況でもない。韓国は逆に日本の小泉訪朝で火が点いたという部分もあって、韓国側の拉致者の問題をどうするのかという話も出ています。ですから、両国の北朝鮮問題に対する方向性にそれほどの乖離はみられないのではないでしょうか。

逆に言えば、日米韓の努力として、お互いの国益が乖離をしないようにバランスをとれるように上手くバランスをとる必要があります。アメリカがタカ派に行きすぎないように、アメリカ側からすれば、どちらかといえば、日本とか韓国が譲りすぎないようにというところで、足並みをそろえて行かなければいけません。そうなってくると、だからこそ、中国という話がでてくるのです。今週、江沢民がブッシュのテキサスに行きますけれども、そこでどのような話をするのか*1、という話になりまして、これも今朝のCSISのブリーフィングで誰かが言っていましたけれども、中国というのはかわいそうで、中国は脅威だと言われている割には、こういう大事な場面になると、やはり中国を頼るしかないということで使われたりしまして、すごくかわいそうだと。今回の小泉訪朝の話に関しても、北朝鮮が頑なに存在を認めてこなかった拉致問題をあれだけ、譲った背景のひとつというのに、やはり中国とロシアの北朝鮮に対するスタンスの変化というものがあると思うのです。

これまではどちらかというと、やはりロシアとか中国とかいうのは、北朝鮮をそのまま、どちらかというと、日本とか韓国とかアメリカとかに対峙させておいて、バッファゾーンにしておけ、というところがあったと思うのですけれど、そろそろ中国もロシアも経済発展を望むという部分もありますし、北朝鮮の不安定な状況がこのままでもいけないし、そろそろ思考を変えようかと思っている節がありますよね。それで北朝鮮側も、ロシア・中国に行って経済発展の度合いをみたりしてきています。伝え聞く話によれば、プーチン大統領が、小泉首相から拉致問題は日朝間の棘と聞いてるので、解決しないといけないというメッセージを金正日国家主席に送ったそうです。そういう、やはり枠組みの変化があると思います。そうなってくると、中国・ロシア、特に中国の役割というのは期待できる部分もあると思います。もちろん、今後どうなるということは簡単には言えませんけれども。
[*1 中国の江沢民国家主席とブッシュ米大統領は25日、米テキサス州クロフォードの大統領私邸で会談、北朝鮮の核開発阻止に向け対話による平和解決を目指すことで一致した。(産経ウエブより)]
 

林:2点お伺いします。まず、核開発に関するイラクと北朝鮮との比較ですが、私もなぜ北朝鮮が急に核開発を言ったのかということがよくわからないのですが、大きな違いは、イラクはまだ持っていないと言っている、北朝鮮の方は1994年の枠組み合意に反し、それ以降も核開発を進めてきたことを認めたというところだと思います。北朝鮮が核開発を認めたということで、北朝鮮はこれからどのような方向に行くのかということについて教えていただきたいのです。それから、日本の国連の安全保障理事会加入について、最近動きがないように思うのですが、日本の方でも議論がなされていないのか、そのあたりご存知でしたら、お聞かせください。
 
「北朝鮮の今後の動向」

渡部:まず、北朝鮮はどこに行くのか、これは実際のところ誰にもわかりません。ただ、今回の動きも含めて、北朝鮮自身が拉致問題で日本に対して、麻雀用語で「べたおり」、といいますか、要するに安全パイばかりをきって、英語ではPreemptive surrenderというのですけれども、別にもうちょっとつっぱってもいいのに、自分から勝手に折れてきたという要素は重要だと思います。それが実は今回の核に関してもそうなんです。これは今日、ガルーチ氏か誰かがブリーフィングで言ってましたけれど、実は、今回の北朝鮮の核開発に関する証拠は、ウランの精製の物質からはじき出して、これは間違いなくやっているだろうと、アメリカ側が突きつけた。それとアルミニウムの使用なども証拠としてあるみたいですけれども。ただウランからいくと、ウランの精製が必要なのは、平和利用、原子力発電でいえば軽水炉です。

これまでパキスタンとイランが核を作っている証拠として、高度の濃縮ウランのの存在を指摘されたことがありました。その時、この2国は「平和利用、原子力発電だ」とつっぱねたのですけれども、その時のこれらの国は軽水炉なんか持っていないんですよ。ところが今の北朝鮮は、軽水炉を開発中なのに、はい、やっていますと認めてしまった。これは何故なのか、譲りすぎではないのか。何故かは今のところわからないのですけれどもね。

もし、全般的に譲るというか、国際コミュニティの中にある程度社会を開いていくと、それは長期的には経済発展をにらんで、というようなことを望んでいるのであれば、それなりにやりようがあるのではないかと思います。しかし、これまで北朝鮮というのは、常にbrinkmanship=瀬戸際政策をとってきたわけで、いろいろ苦しくなると厳しいことをやって相手に譲歩してもらって、、、ということを繰り返してきました。ただ、それにしても、北朝鮮も国内の事情もあり、本当は苦しいから、オープンにしたいのだけれども、そんな単純にはいかないから、そうなっているだけだ、と見ている人もいます。

これは賛否両論でわからないのですが、私は現時点では、北朝鮮がある程度譲って、‘国を開いていこう’という流れ、可能性を否定してはいけないと思っています。ただ、それと同時にだからと言って、安全保障上の問題というのを置いてきぼりにして、外交上の問題を先行して進めるというには、あまりにも危険すぎますね。この辺がやはり、政策を進める上でのポイントだと思います。

実際の話、北朝鮮に関しては現在のところ答えはありません。ガルーチ氏など、直接やっている人ですら、答えがないのですから。ただ、押さえるポイントというのはありまして、安全保障の政策研究というのはやればやるほど、どこを押さえて考えるのか、というのが重要になってきます。答えが単純で選択肢がこれとこれとこれ、なんていうのは出ないというのが、勉強すればするほどわかります。考え方を学ぶことが大事であって、私はそういう考え方ができる人が、国家のトップにないとこれからの社会は、危ないのではないかと思っています。

小泉首相は訪朝に関して、ある程度はうまく話をもっていきました。外務省がある程度お膳立てした部分がなければ訪朝の結果はもっと悲惨な物になっていたかもしれません。ところが日本のマスコミは現在、外務省叩きをおこなっています。あれはひどい話です。もちろん外務省の問題点だっていっぱいありますけれども、それにしたって、そんな今までの政策の問題は外務省だけの問題ではないですよね。それは自民党の政治家も関わっていますし、社民党などは、一番関わっている部分があって、それを良しとしてきた国民の支持もありますからね。

ですから、そういうのがある程度、今の日本のメディアレベルで感情的な叩き合いみたいなことをやっているということはどういうことかと言えば、やはり基礎的な理解力がない。つまり、答えが単純にでない時に、どことどこを押さえていれば良し、どことどこを押さえていないとダメ、というような基準が定着していない部分が問題の根底にあると思います。もちろんアメリカだって、すべての国民が全部分かっているわけではないので、それは、今回のイラク攻撃をめぐる世論を見ても、メディアを通すと、議論が相当単純化されているようです。それでも、まあアメリカの世論の最近の救いは、イラク攻撃をする際に、同盟国の賛同を得ないで攻撃してはいけないという人が、同盟国の賛同を得ないでやって良いという人よりも上回っていることでしょうか。そういう点では、世論形成がものすごく大切だと思いますし、アメリカの新聞のOP−ED欄(社説・論説欄)なんかを見ていると、やはり意見も幅広いし、専門家がきちんと意見を書いています。日本の新聞の社説・論説欄なんか、まだまだ弱いですし、第一、もう少しスペースがないと、専門家が書くところすらありません。

 

「日本の国連安全保障常任理事国入に対する政策」

国連の安全保障常任理事国入りですけれども、基本的には、特に外務省、日本の政策として、常任理事国入りのラインを弱めてはいないはずです。これはずっと努力を重ねているはずです。ただ、これも波がありますので、いつ、どのタイミングで常任理事国入りをするかはロビー活動によるところが多いわけですからわかりません。その中で、今は外務省自体のパワーが弱まっているわけで、どうしてもやりにくいですよね。それと、現時点では、イラク攻撃に関して、新たな常任理事国の国連決議をやるかどうかで駆け引きがあるような国際的な緊張状態にあります。この時期はプロモーションしても仕方がないですし、変にプロモーションすると、じゃあイラク攻撃後の復興費用を出してね、ということにもなりかねないので、そこは微妙な駆け引きがあると考えたほうが良いと思います。

それから常任理事国入りに対する他国の態度ですが、アメリカにとっては、自分と同じような流れで「Yes」という人が増えるから、良い部分ではあるのですけれども、他の国にとってはあまり良いことではない。それから、常任理事国入りの問題点というのは、やはり、全部が拒否権をもっているということで、拒否権を持っている国をどのくらい増やすのかという話です。国連の機能はそれでなくても、なかなか機能しないと文句言われているわけで、国連を機能させたい立場から見ると、常任理事国を増やすのもどうかと思いますし、日本が入りたいと言ったときに、「拒否権なしなら入っても良い」と言われたら、プライドの面からだけいえば、入っても、入らなくてもあまり関係ないですよね。

そうなると、私は常任理事国入りというのは、あまりあせならくても良いのではないか、という気はします。それと同時に常任理事国入りを目標に掲げておくことは必要でしょう。日本の国民全体が国際関係音痴になっている部分があると思うのですけれども、さすがに常任理事国入りすると、少しは考えましょうかということになります。それと、日本の国連活動として弱いのは、国連のPKO(平和維持活動)に制限をつけているということで、これも長期的には、ある程度、制限をはずしていかなくてはならないのではないかという部分があると思います。この話は、日米安保条約に則って日本が軍事的な行動をするということとは全く違う話なのですが、日本の防衛政策は憲法9条というものに縛られてきて、これまでにかなりの制限があったわけです。これを、前向きにどうにか変えていこうというアプローチのひとつとしては、常任理事国入りで、国連の機能ということを考え、9条の解釈を見直すのも、悪くはないなと思っています。

「各国のWTO加盟と北朝鮮のあせり」

林:ジュネーブでWTO加盟の仕事をしておりましたときに、北朝鮮の代表と会って話をしたときのことを思い出したのですが、当時、「この状況では申し込みをしても、絶対にアメリカがYesと言わない」、という北朝鮮代表の言葉がありまして、そういうところも考えているのではないかと思います。特に韓国もWTOのメンバーであると、そして、今までメンバーでなかった国々もどんどん加盟国となっていく状況、キューバ、中国、ロシアなどを見て、あせりもあると思うのですが。

渡部:それは確かにあると思います。特に中国の成功を見ているので。北朝鮮にとっての中国の良いところは、民主国家ではないところでしょう。北朝鮮にとっての一番のプライオリティはレジームの維持、つまり金正日体制の維持なのです。そのために、経済を犠牲にしてきたのですけれども、中国を見ると、共産党支配は続いているのに、経済的に成功しているし、WTOにも入っている。もし私が金正日だったら、中国は良いケースだと思いますね。実際に中国に見学に行きましたね。しかもよく見ると、中国は日本からいっぱい賠償金の代替としての経済援助をもらっている上、それに貿易関係の基礎になっているし、日本でもこれは北朝鮮にも払わざるを得ないとみんな言っている。この辺を使おうという意図は当然のことながら、あると思います。だから、その北朝鮮への経済のルートというのは、今後、すごく大事になってくると思います。

 

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