PRANJワークショップ記録 

    「予算制度改革」
   IMF 財政局 遠藤俊英氏

2002年6月20日 CSIS(ワシントンDC)

 

  【予算制度改革の世界的潮流】

現在、先進国・発展途上国問わず、New Public Managementという新たな理論に支えられた公的部門の構造改革が進んでいます。もともとアングロサクソン、あるいは北欧の国が中心でしたが、ヨーロッパ大陸にも伝播し、先進国が発展途上国に技術援助という形で広めています。New Public Managementは三段階に分けられます。


・第一段階:官民の役割分担の見直し(民営化、民間委託、PFI)
80年代のサッチャー、レーガン、中曽根さんの頃の改革を思い浮かべてみるとよくわかりますが、民営化や民間への委託、あるいはPFI(Private Finance Initiative)など、要は官民の役割分担を見直そうという議論でした。

・第二段階:行政の運営方法の改革(エージェンシー化、業績マネジメントの導入)
パブリック・セクターの運営方法の改革ということで、エージェンシー化をイギリスなどではかなり進めました。エージェンシーというのは日本で言うと独立行政法人です。また業績マネジメントの導入が行われています。

・第三段階:予算編成・財政運営のマネジメントの改革
90年代になりますと、第二段階からさらに進みます。行政の活動というのはすべて予算がベースではないか、予算編成のルールというのをさらに変えていくべきではないか、というところまで進んでいます。

日本は第一段階、第二段階は経ているが、第三段階にはまだ至っていません。第一段階のPFIなどは法律もできたし、第二段階の独立行政法人もできたし、政策評価も一応入ったということで、評価はいろいろありますが、形式的には第一段階、第二段階を一応踏んでいます。しかし第三段階までには至っていないということです。

第三段階の特徴ですが、財政運営の目標として、どこの国でも共通なのが、財政規律を何とかして保たなければいけない、ということです。いかに歳出総額をコントロールして財政規律を保つか、というのが一つの関心です。それから当然のことながら戦略的な資源配分ができなければならない。さらに予算執行というのは効率的に行われなければならない、パフォーマンスが注目されています。この「財政規律」、「戦略的資源配分」、「効率的予算執行」を行うための予算というのはどのようにあるべきか、という議論がなされているのです。

経済の世界で最近はPolitical Economyという分野があるのですが、そのPolitical EconomyもNew Public Managementをサポートするような結論を出しています。それは、財政赤字というのは、経済状況ではなくて、むしろ予算編成のプロセスによって生まれるのだということです。民主主義というのは、潜在的に財政赤字を拡大するバイアスを内包しているのだということです。だから予算編成のプロセスを改革して、責任と意志決定を一元化する、あるいは透明性の徹底を図ることによって初めて財政赤字を封じ込めることができる、というのが最近のPolitical Economyの一つの結論です。まさにその考えに従って予算システムを変えていこう、というのがNew Public Managementなのです。
New Public Managementによる予算制度改革の特徴ですが、6つあります。

1)予算額の極大化主義(インプット重視)から結果・パフォーマンス重視へ
極大化主義はまさに今日本で行われている手法ですが、これを結果・パフォーマンス重視に変えて国民への行政サービスの向上につなげるという考え方です。

2)トップダウンの意思決定
優先順位をトップダウンで決めていくことです。いろんな人がいろんなことを言うところから優先順位は生まれません。トップの人間が「私はこのようなことをやりたい。これが1番、これが2番」と優先順位をつけてくれないと決まらないのです。また歳出のシーリングを決めて、それは絶対に破らないというルールをトップが責任を持って決めます。それから何か行政需要があって、どうしても歳出を増やさなければならない場合は、ほかの歳出を必ず同額だけ減らす、という方式(pay as you goと呼ばれている)がとられています。

3)複数年度予算
さきに単年度予算の弊害を述べましたが、それを克服すべく予算を複数年度で拘束する仕組みがつくれないか、各国が知恵を絞っています。

4)予算裁量の委譲(Line-item(項目別)予算からGlobal(一括)予算へ)
今の日本の予算の査定は、例えばある機関の給料はいくらにするか、人員を何人雇うか、コンピューターを何台買うか、といったことを査定するLine-item(項目別)予算です。それを、その予算を一括してその機関に与えてしまうのがGlobal(一括)予算です。その機関がコンピューターよりも人員が必要だと思えば人員を雇えばいい、ということで、予算の裁量を予算を使う機関に与えてしまうことです。

5)透明性と説明責任の徹底(財政責任法の制定)
冒頭南アフリカの話をしましたが、ニュージーランドの財政責任法を範とした透明性と説明責任の徹底を促す法律が各国で作られています。

)現金主義会計から発生主義会計へ(コスト管理の徹底)     
予算のパフォーマンスを図る手段として会計原則が重要になります。発生主義会計を予算のどのレベルまで導入するかは、各国でその実践に差があるのですが、この問題は、やや技術的であり、時間の関係もありますので、本日は詳細には入りません。
 
【各国の実践】

次に各国の予算制度改革の実際を概観します。

1)ニュージーランド:New Public Managementの旗手
ニュージーランドは「ニュージーランド・モデル」という非常に進んだモデルを作って太平洋諸国に輸出するものですから、太平洋諸国がアップアップしていることを冒頭申し上げました。ニュージーランドには独自の政府概念があって、それによれば通
常の省庁(Department)は政府(Crown)ではない、ということです。政府というのは総理大臣や各大臣、閣議であり、省庁は政府に対してサービスを供給する機関として位置付けられます。だから、プライベート・セクターがもっと安くていいサービスを提
供してくれるのなら、そのサービスは省庁からではなくプライベート・セクターから受ける、というのがニュージーランドの考え方です。市場メカニズムをパブリック・セクターの中に直に入れてしまっているというのがこの国の特徴です。

さらに、執行機関であるエージェンシー(独立行政法人)の長官だけではなく、省庁のヘッドである次官(ニュージーランドではchief executiveと呼んでいます)も公募で採用します。しかも五年間の任期制なので、プライベート・セクターでヘッド・ハンティングするのと全く同じなのです。また一般職員も公募しています。大臣と次官との間にはPerformance Agreementという契約が結ばれています。この契約にもとづいてもっと細かいPurchase Agreementも結んでいます。このPurchase Agreementと
は、省庁のヘッドである次官から、どのようなサービスを大臣が「買うか」という契約です。これらの契約にもとづいて決められたことをどの程度、任期の五年間のうちに達成できるか、ということについて次官には報告義務があります。その反面、どの
ようなインプットを使って、契約で決められた目的を達成するか、については大幅な裁量が次官に認められています。

こういう話をすると、「そんなことがパブリック・セクターで可能か」という反応が返ってきます。私も正直やややりすぎではないかと思います。ですから、太平洋諸国にこれらの手法を輸出していると話すと、みんな「そんな無茶な。」とびっくりしてしまいます。

ニュージーランドのもう一つの発明として世界中に伝播しているのが1994年のFiscal Responsibility Act(財政責任法)という法律です。法的な目標でしばるのではなく、透明性を高めることで財政規律を維持するということです。米国のグラム・ラド
マン・ホリングズ法や日本の凍結になった財政構造改革法のように、歳出カットの額などを法律に書いてしばるのではなく、国民に対して報告する内容はOOとOOである、ということを法律で決めるのです。非常に内容の濃いレポートの提出を義務付けることで財政状況を国民の目にさらそうという発想です。オーストラリアやイギリスをはじめとする各国、さらに私の訪れた南アフリカのような発展途上の国々が同種の法律を導入し、財政赤字を縮減するのに成功しています。

ニュージーランドのモデルは、財政責任法を除いて、先ほど申しましたように市場メカニズムが徹底しているので、なかなかそのままの形ではほかの国にはもってこれないのではないか、と思います。それに比べると同じ市場メカニズムを活用して、より地に足がついており、適用が現実的なのがイギリスのモデルです。
 

2)英国:Market mechanismを活用した集権的改革

イギリスというのはご案内のように70年代に高福祉高負担の英国病から、79年にサッチャー政権ができて小さな政府を目指し、それをメージャー政権が引き継ぎ、さらにブレア政権が97年以降「第三の道」という形で、非常に息の長い改革を続けています。イギリスと日本の議院内閣制の違いは、イギリスの場合、与党中枢部が内閣に全部入っているため、内閣の意思決定は絶対で、内閣が決めたことについて与党が介入することはない、というのが特徴です。首相に非常に強力なリーダーシップが与えられているわけですが、これは言葉を変えれば「選挙による独裁(イギリスでよく言われる言葉らしいです)」といえます。他方、日本の議院内閣制では、与党が与党としてモノが言えるというのが特徴です。内閣と与党が一体となっているのがイギリスで、それらが分離した形でキャッチボールをしているのが日本です。
 

イギリスにおいては、1998年にThe Code for Fiscal Stabilityという法律が制定されました。ニュージーランドのFiscal Responsibility Actと同じで、いろいろな報告書を出させることによって財政規律を高めようとする法律です。

さらにComprehensive Spending Review(CSR)も紹介しておきたいと思います。これは3年間の歳出枠組みを組んでしまうということです。そして、その枠組みの中で各省庁が3年間で達成すべき目標(Performance Target)を明示したPublic Service
Agreement (PSA)を作成します。さらに、そのPerformance Targetを達成するためにどういう行政活動をやっていくべきか、を明示したService Delivery Agreement(SDA) を作成します。PSAやSDAについて毎年国民および国会に対する報告を義務付けています。

PSAやSDAについてわかりにくいので具体的に説明します。イギリスの貿易産業省の例をとると、業績達成目標としては例えば「起業する人の増加、中小起業全体の生産性の向上、恵まれない地域社会での起業の増加とともに、あらゆる中小企業が繁栄し能力を発揮できる社会を構築すること」という目標があります。この目標の達成手段が非常に具体的で「中小企業支援サイトの閲覧を2004年3月までに年300万回など利用の促進を図る、利用者の生産性・収益性を向上させ80%を満足させる、起業直後から高成長する企業数を増やす」というものです。数字を出して「私はここまでやりますよ」という具体的な達成手段を明示してそれを3年間のうちにやるということを約束しています。

目標をさらして、それを達成できたかどうかを外から見て明白な形にする、というのがイギリスやニュージーランドのやり方といえます。

3)スウェーデン:Frame Budgetingの提案
スウェーデンは90年代の前半に経済危機を招きました。日本と同じように不良債権に苦しみました。そこをうまく切り抜けたということで、スウェーデンの不良債権処理のノウハウが世界中で使われています。スウェーデンの経験を経た人が技術援助で日本やほかの国に来て意見を述べたり、IMFの金融局で活躍しています。その当時、予算制度についても改革しなければならない、という議論になって、議会に予算制度改革委員会というのができたそうです。1992年に報告書が出て、スウェーデンはイタリアに次いで歳出コントロールが弱いという結論が出ました。理由は三つあります。一つは財務大臣の権限が非常に小さい。二つ目は予算審議が五ヶ月と長期化するので、議会による増額修正を許してしまう。三つ目は予算情報の透明性が非常に欠如しているので何が起こっているのかわからない、ということです。

これらの反省を踏まえて96年に新しいシステムができました。それが3年間のFrameBudgetと呼ばれるものです。3年間の縛りをかける、という点ではイギリスと同じです。まず政治のトップが3年分の歳出総額(シーリング)を決めてしまうのです。決めたものを議会に出して、議会がこのシーリングを議決します。次にこの歳出総額を27の主要歳出分野上限額(3年分)に分けます。さらにこの27の主要歳出分野上限額を496の議決予算に分けますが、この496の議決予算に配分する権限は省庁に任
せます。このように政治主導のトップ・ダウンと、省庁からの積み上げであるボトム・アップが非常にバランスの取れた形になっています。

このシーリングは厳格に守られています。ただ3年の縛りをかけると、3年たつうちに経済状況が変わって、例えば日本的な発想から言えば景気刺激をしなければならない時にどうやって歳出を増やすか、という懸念があります。スウェーデンはどうしているかというと、歳出総額のシーリングの額を100とすると、歳出総額を分けた27の主要歳出分野の合計は実は100ではなく90なのです。10のバッファがあるわけです。もし経済状況がおかしくなって歳出をどうしても増やさなければならない、という時はまず90の中で予算のやりくりをします。それでもどうしても足りない場合は10のバッファを使って構わない。しかし100のシーリングは絶対に犯してはならない、というルールを作っています。

このトップ・ダウンとボトム・アップのアプローチは予算編成のタイミングにも対応しています。全体のシーリングを決めて、財政全体の経済に与えるインパクトを議論するのは春、そして秋に具体的な予算を作ります。27の主要歳出分野を496の議決予
算に分けて、それを議会に出して通します。マクロの議論とミクロの議論を時期的にも分けた、非常によくできた仕組みだと思います

4)米国:財政効率化の歴史
米国は非常に長い財政効率化の歴史を持っています。今もてはやされているPerformanceBudgetについても米国では1949年に採用しています。しかし、あまりにも時代に先駆けすぎたということで失敗しました。

1965年には有名なPPBS(Planning Programming Budgeting System)というシステムをジョンソン政権時代に入れました。これはもともとマクナマラが国防予算に入れていたのを、ジョンソン大統領が官庁全体にも広げたものです。まず目的(Objective)を決めて、目的に到達するためのプログラムが例えば5つあるとすると、5つのうちどれが一番Cost-Benefitが上がるか、というCost-Benefit Analysisをして選びます。それを5年間の予算計画として作って、またそれを単年度の予算に
分けていくというものです。やや頭でっかちの仕組みで、ペーパーワークも非常にかかるし概念的にも難しいところがあります。米国はこれを最終的には73年に廃止しました。ところが、当時もこのPPBSは非常に進んだモデルだということで、米国を中心に先進国は発展途上国に輸出しているわけです。お手元に回付しているのは、1965年に国連が作ったPPBSのマニュアルですが、PPBSをいち早く取り入れたフィリピンの予算の例が載っています。このマニュアルは世界中に配られ、インド、スリランカ、シンガポール、マレーシアなどでPPBSが採用されましたが、それらは失敗に終わりました。

1979年に当時のカーター大統領がZero Based Budgetingを取り入れました。ZeroBased Budgetingとは毎年ゼロから査定し直すということです。このシステムは、カーターがジョージア州知事時代に、テキサス・インストルメントが企業として採用していたシステムで、カーターはジョージア州にまず適用しました。大統領になってから、このシステムを連邦政府にも適用しようとしました。これも結局失敗に終わり82年に廃止されました。

このように米国は予算制度を変えようとして失敗の歴史を繰り返してきました。しかし何度失敗してもめげない、前向きです。

1974年に予算制度そのものとは少し違いますが、非常に重要な法律が通りました。それが議会予算統制法(Congressional Budget and Impoundment Control Act)です。この法律によってご案内のように、議会予算局(CBO)を設置しています。予算テクニック的に非常に重要な、裁量的経費のCap(限度額)を導入しています。1993年にさらに包括財政調整法ができて、このCapをゼロ・シーリングあるいはマイナス・シーリングという形で使うことによって財政赤字を解消することができました。Capの活用により1998年から2001年まで4年連続で財政黒字に成功しています。

New Public Management関連で米国の実践としてよく引き合いに出されるのが1993年にできたGPRA(Government Performance and Result Act)です。GPRAは日本の政策評価と似て予算編成に実際には結びついていないのではないか、という議論がありますが、GPRAをよく読むと二段階に分かれています。第一段階は予算書の体系を変えずに、政策評価の分析とか実績のフォローアップの公表などで、それを何らかの形で予算と関連させるように工夫しろ、と書いてあります。しかし第二段階では、まさにPerformance Budgetingを導入しろ、ということが書いてあるわけです。その導入についてはOMBがレポートを作って議会に提出する、ということが法律に書いてあるのです。実はその締め切りが今年の春なのですが、現在までのところOMBのレポートが出た、ということは聞いていませんし、日本の財政制度審議会が米当局にヒアリングした結果、まだPerformance Budgetingの導入についてはめどがたっていないらしいです。ただGPRAの当初の目的としては単に政策評価を単発的にやるだけではなく、予算制度の改革につなげたい、という大きな野望を持っているようです。

5)他のOECD主要国の動き:韓国、フランス、ドイツ
韓国はカルチャーも制度も日本によく似た国です。韓国は危機を契機に一昨年IMFから技術援助(Technical Assistance:TA)のミッションを受け入れました。それに基づき、税制についても予算についてもいろいろな改革を実施しています。予算制度に関するIMFのTAレポートはNew Public Managementにのっとったもので、例えば「複数年度予算を検討しろ」とか「Performance Budgetに向けての検討を行え」などを提言しています。実際に韓国ではPerformance Budgetをいくつかの機関でパイロット的に実施しており、そのパイロットの数を今年も増やすと言っていました。それから財政責任法はもうドラフトはできているのですが、次期大統領がどのようなスタンスを取るかわからないので、まだ議会の審議にかかっていません。いつでも法律を出せる状態になっていて、それに基づいてより進んだ情報開示をしようという姿勢があります。

フランスは昨年八月に、財政責任法に似た新しい財政の法律を作りました。それにもとづいて、Performance Budgetingや発生主義会計を導入したり、予算の要求側に裁量権を与える、といった抜本的な改革が行われています。

ドイツは連邦国家ということで、どちらかというと州レベルでPerformance Budgetingが積極的に導入されていて、いろいろ実験的な実践が行われています。財政規律ということに関して言えば、ドイツは非常に厳しい国です。経済が悪くなると日本では「税をまけろ」とか「公共事業などで歳出を拡大しろ」と必ずなります。ところがドイツは、戦後のハイパー・インフレーションの悪夢から抜け出せない国で、常に財政を緊縮する方向にバイアスがかかるのです。経済が悪くなると税収が縮む、税収が縮むと歳出もそれに合わせて縮めるべきだ、と彼らは考えるのです。95年にドイツは景気が非常に悪かったのですが、当時の政権は緊縮財政の方針をとったそうです。日本とドイツは同じ敗戦国であり、同じように奇跡の経済回復をとげた国なので
すが、経済が悪くなったときの行動は非常に対照的であるという点がおもしろいと思います。

【日本への適用】
New Public Managementの日本への適用について最後にお話したいと思います。日本が目標とすべきgood exampleが世界各国にちらばっているという印象があります。

1)透明性の徹底、マクロ的な議論、複数年度予算の導入
例えばスウェーデンのトップダウンとボトムアップのバランスある組み合わせ。ニュージーランドのFiscal Responsibility Actに基づく、報告書の充実による説明責任の徹底、政府活動の透明性の徹底という手法が世界中に広がっています。

日本で非常に弱いな、と思うのが先ほども申しましたが、マクロ的な議論です。財政というと日本では予算のミクロ的な個別政策の議論ばかりが行われます。財政全体がマクロ経済においてどういう位置を占めるか、とか、財政のsustainability(維持)とか、今公債発行額が多額になっているが、それが10年、20年後に日本経済にどういう影響を与えるか、とか、経済の前提条件が変わった場合に財政は一体どうなるのだろうか、などの問題については、求めに応じて単発的に資料を出すことはありますが、積極的に資料を出して活発に議論が行われている状況ではありません。日本のこれから目指すべき方向としては、財政のマクロ的な議論とミクロ的な個別政策の議論を両立させていくべきではないか、と思います。

イギリスは日本と同じように4月からの財政年度で、予算は3月に出てくるのですが、11月にpre-budget reportを出して、財政のマクロ的な観点に絞った議論を行っています。スウェーデンは先ほど言いましたように、マクロの議論をして歳出総額を
決めるのは春、ミクロの予算を議論するのは秋というように時期的に分けています。

それから冒頭に単年度予算の欠点を申しあげましたが、複数年度予算の導入によって中期的な戦略議論を活性化することと翌年度に先送りするというバイアスを排除することが必要だと思います。

2)霞ヶ関は新たな仕事へ脱皮を
以上のようなことをするとなると、霞ヶ関の各省庁は全く新たな仕事にチァレンジしていかなければならなくなります。査定官庁である財務省は、事前審査である査定作業から、その重きを、マクロの財政運営に移していくことが必要になるのではない
か。具体的には、Debt Sustainability のマネジメント、分析と開示、各省庁の業績評価を財務省として監督する(業績評価は予算に結びつく話ですから)、などの業務ではないか、と思います。

実はイギリスでも同じような歴史があったようです。サッチャー政権以来、財務省は「非常にConventionalな役所だ」ということで叩かれて意気消沈していました。ところが、ブレア政権でブラウン大蔵大臣になってNew Public Managementが浸透して
いって、財務省は、予算の細かい査定をする役所から、ほかの役所の陣頭に立って業績評価を積極的に進める役所に脱皮していきました。一時期、意気消沈していた財務省が今復活している、というのがイギリスの現状です。New Public Managementの浸透によって財務省の役割分担を変えろ、といわれた時には、財務省はものすごく抵抗したと伝えられていますが、結果として今は生き返っている、ということです。もし日本がNew Public Managementの波にさらされれば同じことが起こり得るのではないか、と思います。

それから予算の要求省庁の仕事ですが、査定交渉の際に使っていた予算要求のエネルギーを、与えられた予算をどのように使っていくか、というパフォーマンスの向上にエネルギーを傾けることになるのではないか、と思います。裁量が拡大する反面、説明責任が増大するということです。自分たちに与えられたもので、仕事をいかに有効にやっていくか、ということに関心が移っていくと思います。

イギリス的な「民主的な独裁」とまではとてもいかないと思いますが、このNew Public Managementを徹底させるためには、明確な責任を伴うリーダーシップを確立しなければいけないと思います。

改革を一挙にやろうとすると無理なので、初めから完璧を目指さず、まず第一歩をやってみようと、心を軽くして取り組めばいいと思います。例えばFiscalResponsibility Actは、いくらでも同じような法律がほかの国にあるわけですから、それと同じようなものを日本も入れて、まず財政の情報開示を進めていけばいいのではないでしょうか。

このような改革を進める際に、必ず改革を阻むネガティブな要素があります。日本の伝統的なコンセンサス型の政策決定プロセスが、このような大きな脱皮を許すか、ということがまずあげられます。それから霞ヶ関の各省庁の抵抗、補正予算へのこだわりという短期的ケインズ政策への固執がネガティブ要素として考えられます。

逆に改革を推進するポジティブな要素としては、小泉内閣による新たなリーダーシップの提示があります。また日本には予算要求の入り口の段階でシーリング(概算要求基準)という制度があります。New Public Managementのシーリングは出口ベースでのシーリングなので少し意味合いは違うのですが、入り口ベースでのシーリングは既に存在しているということです。しかも今は高度経済成長時代と違って前年比10%、20%などのシーリングではなく、ほとんどゼロでシーリングをかけているわけです。ですから入り口ベースのシーリングをそのまま出口のシーリングに転用できるのではないか、と思います。

それから政策評価が曲がりなりにも国の行政機関に入りました。地方自治体は政策評価に関して非常に活発な動きを見せています。政策評価が活発になると、よりパフォーマンスに関心が高まって、予算そのものをPerformance Budgetに置きかえるべきではないか、という議論が沸き起こる可能性があります。そのための前提としてはPRANJの上野さんのご主張のように、中立的なシンクタンクの台頭が必要です。政策評価について行政だけではなく第三者としてのシンクタンクが議論を巻き起こして、それが予算制度改革につながる、というのが重要です。

それから何と言っても、日本以外の国では予算改革の大きなうねりがあるわけです。韓国もどんどん進めています。G7諸国では、日本と同じように保守的なフランスやドイツも予算制度を相当変えているわけです。日本だけが孤立化しているのが現状です。世界での予算改革のうねりを見れば、日本も今後この波に乗っていくとみるのが自然だと思います。事実OECDにはPublic Management Committeeというのがありまして、ここでかなり積極的にpublic managementの情報交換をしています。日本もこれからは、各国の経験や知見を共有し、日本からも新しい経験や知見を供給していくべきではないでしょうか。
 

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文責  中村美千代氏 (ありがとうございました)

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