PRANJワークショップ記録 

    「日本の外資政策」 座談会セッション

 
2002年4月21日  ワシントンDC

■  講演者
 Dewey Ballantine LLP 法律事務所  日本情報室長 菱川摩貴氏

座談会参加者:
渡部恒雄 (戦略国際問題研究所)
江口一元
一橋総合研究所
遠藤俊英 (IMF財政局)
中村美千代(フリーランス・ジャーナリスト)

司会 村上博美(経済戦略研究所)

 

村上:こういう見方は非常に新鮮だと思います。1つ驚いたのは、アメリカの法律事務所にこれだけの資料があるということです。それらが、例えば日本に対する通商交渉のベースとなるわけですよね。そういうところに感心しました。ところで、菱川さんが以前に書かれた富士・コダックのケースについての記事(「日本の外資対策 ―「日米フィルム紛争」を振り返って―」http://pranj.org/JMM/jmm-hishikawai.htm)がありましたよね。その中での1つの主張というのは、このような自由化対策によって日本企業を外資から守ることがWTO勝訴で日本の中で正当化されてしまい、今の日本経済の回復を遅らせている1つの原因になっているのではないか、ということでした。まさにそのとおりではないかと思います。そこで今回、経済産業省が産業政策
を転換しているということですが、これは経産省が過去の政策を否定するということになるのでしょうか。
 
菱川:それは、経産省の方に伺いたいですね。コダックと富士とケースというのは、日本のフィルム市場が閉鎖的であって、それは日本政府が閉鎖性を助長するような措置を取っていたからだということで、日本政府とアメリカ政府がWTOで争ったケースです。そのWTOで、日本政府は「自由化対策」はなかったと主張、「自由化対策」の存在を否定したわけです。ですから、最近の政策は産業政策の転換かどうかも含め、過去の政策評価について、是非、率直な議論なり、意見交換なりが出来ればと思います。

遠藤:財務省からの出向で、IMFで働いている遠藤と申します。経産省ではありませんが、政府で仕事をしてきた観点からお話したいと思います。おそらく昭和30年代、40年代頃、菱川さんがおっしゃられたような外資に対する規制を行うにあたって、消費者の視点が欠けていたというのは、今から見れば確かにその通りだと思います。しかし、日本というのはある意味、企業社会ですよね。企業に資源を集中することによって発展してきたわけです。これは政府の政策だけではなくて、家庭生活などをみても企業戦士たる夫が家庭のことにそれほど気をつかう必要がなかった(妻の厚いサポートがあった)。昭和30年代、40年代から70年代にいたるまで、それによって日本は高度経済成長を遂げたわけです。一方で外資の規制をしながら、他方で通産省は傾斜生産方式のような形で製造業を盛り立てていた。多くの論者は、そのような官民協調方式は成功したとしています。昭和30年代、40年代の頃のこうした政策は、我々のような自由化に慣れた世代から見ると非常に奇異奇に映るかもしれないけれど、当時としてはそれなりに多くの人の同調を得た政策だったのではないかと思います。問題は、こうした政策の切り替えが非常に難しいことです。佐橋さんの時代はこれでよかったのだと思います。しかし佐橋さんが今おられれば、当時はともかく今は時代が違うから間違っていると言われるのではないか。役所もこういう形で色々介入してしまうと、それに慣れてしまいます。自由化の時代とかグローバリゼーションなどと呼ばれる時代がきても、その行動パターンを変えることが出来ない。90年代の「失われた10年」というのも、その切り替えが上手く出来なかった時代ではないか。今も、切り替えは十分に出来てはいない。そういうことが問題なのだと思います。つまり、30年前、40年前の政策が間違っていたとは言えないのではないでしょうか。かつての政策を引き摺ったことによって、時代の変化に官なり民なりが柔軟に対応することができなかったことが問題なのだと思います。

菱川:お話は大変理解できます。おっしゃられたように、70年代の頃の成長神話にすがってしまっているのではないか、というところが非常に心配なわけです。つい最近、ある会で、今日と似たようなお話をしたとき、ある方から「(外資政策も含め)過去の産業政策があったから日本の70年代・80年代の栄光があったのだ」といわれました。私は1990年代初頭にアメリカの大学院にいたのですが、当時アメリカでも、授業で日本の産業政策のメリット、つまり通産省がいかに国内産業を指導し、ここまで発展させたかを学びました。当時アメリカは、経済不況に苦しみ、国民は自信を失っていましたから、日本の高度経済成長の一要因に産業政策が取り上げられ、学ぼうという姿勢が強かったのです。ただ、日本ではあの「成功神話」に長年すがりついている。塩川大臣の記者会見にもそれがうかがえますよね。私にとっても個人的に非常に心配なことです。

村上:先ほど5業種というのが出てきましたが、見ていると、農林、小売、流通業、、、とまさに現在の日本経済の足を引っ張っているところですよね。もちろんそういう外資政策というのは、これらの産業を守るということに関して成功しています。しかし、1950年代から60年代にかけての日本の驚異的な成長が可能となったのは戦略産業を選別したり傾斜生産方式を取ったことではなく、地方から都市への良質の労働人口の大量流入や、中小企業の高い起業率、失敗してもやり直せるフレキシブルな産業構造や環境があったためだという研究者もいます(David Friedman等)。例えば、銀行が土地を担保にお金を貸し出し始めたのは1970年代ころからと言われていますが、それ以前は銀行家の裁量でリスクがとられていたのでしょう。1950年―60年代は「責め」でしたが、70年代以降は「守り」の体制になった。70年代になって、産業構造が硬直化してきて、オイルショックを理由にそれを更に維持する方針がとられ政・官・産業の鉄のトライアングルが温存されたように思います。ただ、今の結果を見てみると、これらの業種を守ったことが本当に良かったのか。こういうことをもっと長期的な視点から見た場合に、どうなのかな、と思います。

菱川:確かに、例えば外資政策のおかげで日本の経済成長率が1960年代-80年代に10%アップしたとしても、21世紀、例えば2010年までの長期間で平均してみて、本当に目覚しい経済成長だったかどうかというのは、非常に難しいところですよね。

村上:ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター氏と一橋大学大学院国際企業戦略研究科科長の竹内弘高先生らが2000年に出版した「Can Japan Compete?」という本があります。彼らは通産省が行政指導などを行った業種や企業、それから成功した業種や企業、成功しなかった企業のデータを集めて検証しています。それを見ると、政府が行政指導や口を出せば出すほど、成功していなかったという皮肉な事実が分かるんです。そういうデータをもっと日本の政策に反映させることが出来ると、いいのではないかと思います。

菱川:それは凄くおもしろいですね。例えば、日産とプリンスの合併は、通産省の佐橋さんなどが音頭を取って、1960年代に外資対策として実施されたのですが、その後なかなかシェアが伸びませんでした。1960年代、日産は、国内では30%か40%くらいシェアを持っていて、トヨタか日産かと言われていました。しかしその後、だんだんシェアを落とし、結局1990年代終わりになって、ルノーの資本参加を受け、ゴーン氏が改革を断行することになった。興味深いですね。

兪:日本が段階的に外資を導入していったのが良かったか悪かったか、というのは非常に難しい問題だと思います。先ほど村上さんがおっしゃったように、日本の国内で保護された産業と保護されなかった産業を比較するのは1つの方法だと思いますが、同時に国際比較のようなことが出来ると面白いと思います。東欧の国々や韓国などがOECDに入っていますが、どこも比較的政府の統制が強かった国ですよね。でも、それぞれの国で、外資の導入の速度は違ったと思います。

このような国々で外資の導入後5年なり10年なりが経って、消費者にとってどちらが結局有利だったのか。こういうことを調べると、インパクトがあると思います。これからASEANなどの国が外資を導入する際に、外資を一気に入れてしまったほうがいいのか、それとも日本のように段階的に導入するのがいいのかというのが分かると思います。ひょっとしたら、日本のような方法
が良かったかも知れませんよね。そのあたりについてもしご存知でしたら伺いたいのですが。

菱川:私もあまり存じませんが、よく外資政策で比較されるのが中国と日本ですね。中国では外資の誘致活動が非常に盛んで、地方政府間の外資誘致競争も激しい。近年の中国経済の成長要因として、外資の積極的活用を挙げる人も少なくないですね。
 


            
 

村上:消費者の観点からも考えてみたいと思います。先ほどのお話にもありましたが、日本は産業が成長の原動力だと言われてきて、今もそれが続いていると思います。ですが、例えば、日本の場合GDPの6割は消費が占めています。(もっともアメリカの場合7割ですが。)そのなかで、輸出の割合というのは1割です。そういう数字を見たときに、消費と産業とどちらを伸ばしたらGDPが伸びるのかと考えると、やはり消費なのではと思います。(論座「消費者冷遇の国、日本」(http://pranj.org/papers/ronza-mura.htm)しかし、先ほどの塩川さんの発言などを聞くと、政府の方々はまだ産業が原動力であるという考えだと思います。ただ、これからの日本の成長を考えるにあたって、これからもモノづくりで行くのか、それとも消費をもっと増やすような形にするのか。その転換点というのは、まだ来ていないような気がするのですが、そのあたりはどうでしょうか。

菱川:私もまだ転換点には来ていないと思います。去年の11月あたりに産業競争力戦略会議というのが出来ましたし、他にもモノづくり協議会などいろいろな会議が出来ていますが、そういう動き、それから経団連の幹部のメンバーなどを見ても、まだまだ重大長厚型という感じですね。私はまだ大きなパラダイムシフトは起きていないと思います。それを待っていて大丈夫なのかな、という気もしますね。また、そのパラダイムシフトを引き起こすために何が必要かという問題は、政策決定過程をどういうふうに変えていくかという問題にも関わっていると思います。

また、消費者の声をどのようにして取り入れていくかという問題ですが、先日、他の所でお話をしたときに、なぜ日本には米国のような消費者運動が起きなかったかということで議論が盛り上がりました。アメリカの場合、消費者利益を保護するために制定された反トラスト法も、施行された当初は人気がない法律でした。19世紀の終わりから20世紀の初めにかけての話です。しかし、その後まもなくアメリカでは消費者が立ち上がり、反トラスト法の執行強化を求め、実現していったのです。企業の独占によって私たちはこんなに被害を受けているのだと消費者が訴え、運動を起こしていったのです。そういう動きというのは、日本ではなかなか起こらないですよね。それがなぜかということを考えると、先ほど遠藤さんがおっしゃった企業に密着した日本人の生活というものの影響があるのかもしれませんね。消費者をどうやって動かし、政策として反映させていくかというのは、日本の経済を立て直していく中で、すごく大きなチャレンジだと思います。

遠藤:消費者の観点ということに関してですが、景気が悪いときにどのような経済政策を取るべきかを議論するときに、必ず金利を下げますよね。しかし、消費者が貯蓄を持っているので、その利子所得を拡大するために金利を上げる。それによって可処分所得が増えて、消費が増える。そういう理屈もありうるわけです。つまり、消費を増やしたければ、1つの可能性として、金利を上げるべきだという議論もありうるわけです。しかしこういう議論は、おそらくマクロ経済のなかではまったくなされていない。実際は、それとまったく逆の方向で議論する。消費者ではなくて、企業の活動を刺激しなくてはいけない。そのためには金利を下げるべきだ。こういう話に必ずなりますよね。

それから、消費を拡大するためには消費者に対して直接減税したらいいじゃないか、という話をする際に、日本の場合は、いくら減税してもその分は結局貯め込まれてしまって、全然消費に回っていないじゃないかと言われる。しかし、そこから一歩突っ込んで、それでは消費を増やすための減税はどのようにしたらいいのか、という議論が行われることはないのです。先日韓国のエコノミストと議論したとき、面白い話を聞きました。韓国はアジア危機の後にV字型の回復をしていますが、実は98年か99年に、クレジットカードを普及させるための減税を行っているのです。クレジットカードを使った人については、所得税を減税する。クレジットカードを普及させるというのは、ある意味で非常に危険です。自己破産もありますし。日本であれば、クレジットカードを普及させるなどという政策は、道義上許されないとされて、絶対に潰されます。そういう議論が政府から出ることはまずないでしょう。しかしながら、韓国ではそういう政策を取った結果、実際にクレジットカードは非常に広まったし、消費も拡大したと言われています。だから、こういう時代に消費を拡大させる減税というのは、単に何%カットします、というだけではなくて、もう少しこれまでの常識から外れたような政策まで議論して実行しなければ、なかなか消費に火がつかないのではないかと思います。残念ながら、そこまでする勇気がないと言うか。政策の面で、なかなか消費者重視にシフトできていない。結局することと言えば、公共事業くらいですが、公共事業を拡大したって、どこにどう金がいくのか分かりませんよね。だけどそれをしてしまう。そうやって、悪循環が続いていくわけです。

村上:私もその韓国のクレジットカードのケースを少し調べたことがあります。 米国では財布の中に20ドル(2500円程度)しか入っていなくても1週間問題なく生活できてしまいますが、日本はやはりキャッシュ社会ですし、クレジットカードの普及率もそんなに高くないですよね。クレジットカード会社も大手の金融関連企業ばかりである意味で寡占市場となっています。米国では優良顧客は年率4%や6%といった低い金利でクレジットカードを使えるのに、寡占であるばかりに日本では金利値下げ競争が制限されている。例えば、現在の日本の貸し出し金利は上限年率29.2%で設定されていますが、それらの会社はスプレッド(金利差)で稼ぐので、できるだけ29.2%を下げたくない。年率30%といったら気軽に借りれませんよね。例えば優良顧客も、なかなか借りられないような人も、一律29.2%。ですから有利な資金調達ができる大手しか事実上利益をだせない環境です。しかし韓国の場合は、使い手(消費者)と使われる側(店)の両方にインセンティブを作っていて、これが日本との大きな違いとなっています。例えば、事業者は、一回の支払金額が5万ウォン(約5千円)以上の場合は、クレジットカードで払わなくては接待費損費として認めない。そして、お店は利益分のクレジットカード支払い分に対しては2%(上限500万ウォン)の所得減税をあげるんです(参考:「韓国における消費者信用産業」朴氏)。

お店側としてもキャッシュよりクレジットの方を好むようになりますよね。それから個人に対しても、自分の給料の10%を越える分の20%について、カードを使った分を自分の課税標準金額から引いて良いことにしました。例えば1年間に300万円の稼ぎがある場合、クレジットカードで年間50万円使えば、50万円から30万円(300万円の10%)を引いた分の20%、つまり4万円分を差し引いた296万円が自分の課税対象所得となるわけです。こういう政策で、クレジットカードの使用にインセンティブをつけています。

それと同時に重要なのは、キャッシュ以外のもの(例えばクレジットなど)の金融商品の流通を増えさせたことです。日本の場合は、そういうものはあまりないですよね。日本の政策を決定される方々にとっても、これは、消費者のためというだけではなくて、金融のリスク分散にもなりますよね。キャッシュ以外の金融商品が出ることによって、リスク分散する。例えばそういう観点から考えていただくといいのではないかと思います。日本の場合にも応用できるのではないでしょうか。自己破産というのも、どこの国でも起きていることですし、日本の場合は消費者の利益を守るといった制度が欠落している部分があるので、社会問題に対しては何か別の規制の方法があるのではないかと思います。そういう点で、その韓国のケースというのは非常に勉強になるな、と思いました。

菱川:それは、誰が考えついたんでしょうか。日本では何故思いつかないんでしょう。

村上:やはりIMFが入ったということで、非常に強い危機感があったのではないでしょうか。日本の場合は、貿易黒字や外貨準備金などの蓄積があり条件を満たしていないので、IMFに入ってもらうということはちょっと出来ないですよね。
 

                
遠藤:金融分野のリストラクチャリングとか、コーポレートのリストラクチャリングというのは、韓国では非常に進んでいるといわれています。それはまさに、IMFが入ったからですよね。IMFから借りたお金も、韓国はあっという間に全部返してしまいました。経済も元に戻ってきているし、長年できなかった構造改革も行いました。それに比べて日本は、ずっと引き摺って来てしまっています。構造改革がどれだけ出来たか、というところだけ見れば、凄い差がついてしまった。なぜ韓国でできて日本でできないかというのは、1つには大統領制が理由だと思います。韓国ではたまたま金融危機の後に金大中が大統領になりました。韓国ではアメリカと同じように、青瓦台に秘書官たちをそろえ、彼らが大統領の意向の下に政策を作るわけです。ですから、法案や政策案を各役所に回す、というようなことはないわけです。日本の場合は、自民党の中でさえ合議制ですよね。ですから、コンセンサスを作るだけでも時間がかかるし、元々鋭いアイディアもどんどん矛先が丸くなってしまう。昔は輪を持って尊しとなすということで良かったけれども、今の時代は、スピードや独創性、リーダーシップが問われる時代で、日本のそういう政治システムというのはフィットしなくなってしまった。韓国の場合は、たまたま大統領制がうまく働いたのではないかと思います。

村上:私の研究所で去年行った日本プロジェクトで、政治家や企業の方々にインタビューを行いました。その中で、大統領制の方がリーダーシップが発揮できるのではないか、という質問に対してある大物政治家の方が、「そんなことはない。日本のような議院内閣制でも、国会で過半数があれば、実は首相というのはリーダーシップを発揮できるようなフレクシビリティーがある。小泉さんのときのように国民の支持率が高い場合でも、それは同じだ」とおっしゃいました。それを聞いたときに、それなら何でやらないのかな、と思ったのですが。

江口:消費に関して、日本経済の6割を支えている消費を刺激しない限り、日本経済の復活はないのではないか、という点についてはまったく村上さんのおっしゃるとおりだと思います。では、どのようにして消費を刺激するかという点に関してですが、利便性という意味では、日本、特に東京は合格点だと思います。ワシントンと比べると買う物もいろいろそろっていますし、価格も下がってきています。心理的な面に関しても、企業精神と消費者の観点を比べた場合、私は消費者としての心理が結構強いのではないかと思います。特に若い人は、消費者としては非常に優れた目で物事を見ています。ただ、投資というのははっきり言って興味ないんです。そのような中で、どうしたら消費を刺激できるのかというと、例えば多少安いオレンジが入ってきたところで、たいした刺激にはならないのではないかというのが、私の意見です。色々モノが増えても、飽和状態の上にモノがくるだけで、たいした刺激にはならないと思います。もっと抜本的なところに手を入れなければいけない。生涯ローンを支払いつづける呪縛から逃れない限りは、もっと車を買おうとかテレビを買おうとかいう抜本的なところには行き着かないのではないかというのが、私が最近考えている点です。では、どうしたら住宅が安くなるかというと、これはまた大問題ですので、これから議論していかなくてはいけないところだと思います。

村上:米国に比べて、日本の住宅の値段が非常に高いことがわかります。これは、まさに菱川さんがお話してくださった「外資を入れない政策」によって、国内構造が高コスト体質になっていることが一因です。つまり、守ってきたから値段が高いままなのです。例を出して言うと分かりやすいと思います。私は先日、知り合いの方の家に遊びにいきました。都心の閑静な住宅街に土地をもっていて、そこに3階建てくらいの家を建てたということなんですが、とても小さい家なんです。それでも、8000万円とおっしゃっていました。アメリカだったらこれより格段に安い値段で、この3倍くらいの広さの家が買えてしまう。3倍どころか、ガレージの中にこの家が入ってしまうくらいですよね。何故こんなに値段が違うのかというと、日本では国内産業の競争が低く、高い値段でも売れたからなんです。そのしわ寄せが全て消費者に来ている。適正な競争さえあれば、ひょっとしたら8000万円ではなくて、5000万円か、もしかすると3000万円で買えたかもしれない。それが全て消費者の負担になっている。ひょっとしたら日本の消費者はそのことを知らないのではないかというのが、私がこちらに来てから感じたことです。ですから今日、菱川さんにお話していただいたことは非常に重要なことなんです。結局、メンタリティーが変わっていないということは、これからもずっとこの高コスト体質が続いていくということですよね。そのしわ寄せがすべて消費者に来る。それでもいいんですか。それでもまだ、産業を主軸とした成長政策というのをこれからも続けていくんですか。そういうことを本質的に議論していただきたいですね。

菱川:あと、誰がどの産業を選ぶかですよね―政府なのか、市場なのか。アメリカでは、非常に問題になりますよね。連邦レベルで産業政策があるのかどうかという点でそもそも議論になってしまうような国ですから。将来の産業としてだれがどの産業を選ぶのか。塩川大臣のおっしゃられるような、「これからも政府が産業をリードしていくべきだ」というのは、少し違うのではないかと思います。

村上:例えばホンダやソニーのように、世界に冠たる企業というのがありますよね。ああいう企業は、果たして本当に政府に保護されてきたのか疑問ですし。あとは、農林関係とか小売といったいつもネックになっているようなところは、これからもこのまま続いていくのか。これから外資をどんどん入れていきましょう、と言ったところで、外資の日本国内への投資件数は増えていない。本当に小売などの分野に外資をこれからどんどん入れていくのか。その後はどうするのか。そういったところが非常に気にかかるところですね。

菱川:あと結局、採算がたたなければ、外資であろうが、国内企業であろうが撤退しますよね。やはり日本経済を立て直さない限り、何をやっても難しいのではないでしょうか。外資も企業ですからね、これは商売にならないな、と思ったら退きますよね。外資に対する期待というのが徐々に高まっていますが、外資も別に慈善事業を行っているわけではありませんから、そのあたりをきちんとわきまえた上で、期待もそこそこにしておくべきなのではないかと思います。リアリスティックなアプローチが必要なのではないでしょうか。

遠藤:消費者を中心にしたマインドセットが出来ていないということは、逆にいえば、消費者から全然声があがっていないということですよね。例えば、日本で減税行われている経済政策として、デフレ対策がありますよね。デフレ対策というのは、価格が安いのが問題だということですよね。あれは明らかに企業的な観点からの議論ですよね。要するに、緩いインフレにしないといけないと言うわけです。でなければ、企業も立ち直れないし、株をたくさん持っている銀行もどうしようもない。だから、株を上げろ。土地の価格を上げろ。そういう議論ですよね。ですが、バブルのときにあれだけ懲りて、株とか土地の価格を下げろと言っていたのが、10年経って価格が下がって見れば、また上げろと言う。これはまったくおかしな話ですよね。価格が下がって、明らかに一般の消費者は恩恵を受けているはずです。住宅にしたって、土地が安くならなければ安い住宅なんて買えないわけですよね。だけど、「今のデフレの状態がいいんだ。価格を高くしろなどと、とんでもない」という声は、新聞を読む限り全然聞こえないですよね。だから日本の経済政策というのは、企業中心のデフレ対策と称して、デフレによって利益を得ているはずのたくさんの人たちを簡単に見捨ててしまうわけです。

渡部:先ほどのお話に関連して、外資が退く可能性をリアリスティックに考えなければならないと言うのは、まさにそのとおりだと思います。ただ、それを考えすぎているのが、自民党や大蔵省の人たちだと思います。先日、金融系の大臣経験者の代議士の方とお話しましたが、「やっぱり、外資は退くから恐いよ」とおっしゃっていました。それが脅威であるというのは、事実だと思います。ただ、それでも外資を入れなければならないような状況になってしまったわけです。これは金融に限りませんが、やはり早い段階で長期的な外資導入策を練ってこなかったツケだと思います。

中村:住宅ローンに関して、モーゲージを取り入れたらいいのではないかという議論がありますが、私もこれを取り入れれば、市場が活性化されるのではないかと思います。猪瀬直樹さんなどが入っている審議会でも既に案として出ているようですが、中興住宅の市場を活性化させるという意味で、日本でモーゲージを取り入れるというのは、難しいのでしょうか。難しいのではないかという話を以前聞いたのですが。

村上:アメリカは1930年代からモーゲージを取り入れています。日本の場合は、政府が住宅金融公庫を設立して、お金を貸していますよね。しかしアメリカの場合は、リスク分散を行ったのです。政府が、ローンを貸す金融機関から、ローンを買い上げるわけです。例えば、菱川さんが住宅を買うために、A金融会社から2000万円を借りるとします。そうすると、A記入会社のバランスシートには、そのローンがどんどんどんどん積み重なっていきます。アメリカの場合は、もっとお金を貸せるように、政府がこのローンを買い上げるわけです。そして、そのローンに政府保証をつけて、債権として売り出します。モーゲージローンというのは、毎月支払いが入ってくる比較的安定した債権となりますから。しかし、このような制度を維持するためには、好不況に関わらず絶えずローンを買い上げるという政府の意思と十分な資金が必要です。そうすることで、住宅ローンが常に利用可能であったわけです。また、住宅金利を常に低く維持していました。そのような政府の努力の中で、リスク分散の技術も発達したし、金融商品の多様化も進みました。

また、市場が大きくなったので、債券の売買や、中古住宅の流通も増えました。日本の場合は、一戸建ての中古住宅というのは、ほとんどないと聞きました。売る場合は、一度更地にしないと売れないのです。このとき、更地にするための費用300万円ほどは自分持ちです。ですから、子供たちも出て行ってしまって、老夫婦2人になってこの家をどうしようかというときに、売れないわけです。壊すとしたらお金がかかりますから、ずっと住んでいる。おじいさんとおばあさんの二人だけになったのに、大きな家に住んでいて、全然中古住宅の流通が進まない。ですから、日本の場合はまず市場を作らなければならないわけです。市場を作るというのは非常に大変なことですから、それで日本ではモーゲージを導入するのは難しい、という議論になるのではないでしょうか。

菱川:アメリカで住宅が手に入れやすいのは、市場があるからだということを、日本の方はあまり知らないですよね。ですから、アメリカで安い住宅が手に入ると言うと、すぐに「アメリカは土地があるから」という話になりますね。

村上:日本の場合は、土地を流通させないようなインセンティブをつけていますよね。バブルの頃は、土地転がしを増やしてはいけないということで、購入後5年以内に土地を売ってはいけないとか、何平米以上の土地を売るときには、知事の許可が必要であるとかいう規制が出来ました。そういう色々な規制を通じて、土地が流通しにくいようにしているわけです。これは、今でもまだ続いているのではないでしょうか。そういう土地の政策を直せば、流通も増えます。税制についても、例えば、農地にすれば税金は非常に安くなります。ですから、都市近郊で皆小さな畑なんかを作っているわけですよね。でもその土地は、本来ならばもっと高い経済価値を生む方法で利用できるよう、売ったり出来るはずです。

渡部:人事の面から見ても、面白いものがあります。アメリカには住宅金融公庫のようなものはありませんが、そのかわり民間の会社がたくさんありますよね。たとえば、ファニー・メイという会社がありますが、USTRのボブ・ゼーリック通商代表は、CSISの所長になる前は、この会社の経営陣に入っていました。人材が民間と政府の間を行ったり来たりしているわけです。だから民間で働いていてもパブリック・マインドを持っている。そして、それがきちんとキャリア・アップにつながっていくわけです。

村上:そろそろ時間がなくなってきましたが、菱川さんは、今後の展望についてどのように考えていらっしゃいますか。日本は現在、外資導入路線をとっているように見えますが、この傾向はこれからも続いていくのでしょうか。

菱川:私にもそのあたりはちょっと見えないですね。地方レベルでどこまで進むかという点が特に気になります。最近、日本のメディアの一部が盛んに地方政府がもっと積極的に外資を導入すべきだ、と盛り立てています。サンフランシスコのエキスポに行ったら、ヨーロッパ諸国からいくつか地方政府の役人が来ていたのに、日本の地方政府は1つも現れなかったなどというエピソードも紹介されています。こういうメディアの盛り上がりを見ていると、日本の地方政府も徐々にですが、アメリカのようになってくるのかな、という気がします。アメリカの州知事などは、「外資を含め、就任以降これだけの企業を誘致しました」と言うのがあたりまえになっていますよね。例えば、先日ウェスト・バージニア州の高級ホテルに立ち寄る機会がありましたが、このホテルには、企業経営者、起業家などがよく泊まるということで、各部屋には企業誘致のための雑誌やテレビ番組が用意されていました。こういう政策を取り入れるべきという意見が日本でも強まっているようですが、どこまで進めるかというのは、各地方政府にとって課題でしょうね。ただ誘致活動に乗り出すときも、採算がたたなければ、外資はもちろん国内企業も撤退するのだという現実的な認識をもって臨むべきでしょうね。

今後どれくらい外資が増えるかというのは、まだ見えないですね。最近の外資の日本への投資件数を見たとき、私は少し落ち込みました。まだ一部の業種に偏っていますよね。実は、2001年の前半の数字をみると、日本への投資は少し落ちています。これがまた上がるかどうかというのは、未知数です。

村上:本日はどうもありがとうございました。

 

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文責 大林一彦氏(ありがとうございました)

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