PRANJワークショップ記録
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「日本の外資政策」 座談会セッション 2002年4月21日 ワシントンDC ■ 講演者 |
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村上:こういう見方は非常に新鮮だと思います。1つ驚いたのは、アメリカの法律事務所にこれだけの資料があるということです。それらが、例えば日本に対する通商交渉のベースとなるわけですよね。そういうところに感心しました。ところで、菱川さんが以前に書かれた富士・コダックのケースについての記事(「日本の外資対策
―「日米フィルム紛争」を振り返って―」http://pranj.org/JMM/jmm-hishikawai.htm)がありましたよね。その中での1つの主張というのは、このような自由化対策によって日本企業を外資から守ることがWTO勝訴で日本の中で正当化されてしまい、今の日本経済の回復を遅らせている1つの原因になっているのではないか、ということでした。まさにそのとおりではないかと思います。そこで今回、経済産業省が産業政策 を転換しているということですが、これは経産省が過去の政策を否定するということになるのでしょうか。 |
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菱川:それは、経産省の方に伺いたいですね。コダックと富士とケースというのは、日本のフィルム市場が閉鎖的であって、それは日本政府が閉鎖性を助長するような措置を取っていたからだということで、日本政府とアメリカ政府がWTOで争ったケースです。そのWTOで、日本政府は「自由化対策」はなかったと主張、「自由化対策」の存在を否定したわけです。ですから、最近の政策は産業政策の転換かどうかも含め、過去の政策評価について、是非、率直な議論なり、意見交換なりが出来ればと思います。 遠藤:財務省からの出向で、IMFで働いている遠藤と申します。経産省ではありませんが、政府で仕事をしてきた観点からお話したいと思います。おそらく昭和30年代、40年代頃、菱川さんがおっしゃられたような外資に対する規制を行うにあたって、消費者の視点が欠けていたというのは、今から見れば確かにその通りだと思います。しかし、日本というのはある意味、企業社会ですよね。企業に資源を集中することによって発展してきたわけです。これは政府の政策だけではなくて、家庭生活などをみても企業戦士たる夫が家庭のことにそれほど気をつかう必要がなかった(妻の厚いサポートがあった)。昭和30年代、40年代から70年代にいたるまで、それによって日本は高度経済成長を遂げたわけです。一方で外資の規制をしながら、他方で通産省は傾斜生産方式のような形で製造業を盛り立てていた。多くの論者は、そのような官民協調方式は成功したとしています。昭和30年代、40年代の頃のこうした政策は、我々のような自由化に慣れた世代から見ると非常に奇異奇に映るかもしれないけれど、当時としてはそれなりに多くの人の同調を得た政策だったのではないかと思います。問題は、こうした政策の切り替えが非常に難しいことです。佐橋さんの時代はこれでよかったのだと思います。しかし佐橋さんが今おられれば、当時はともかく今は時代が違うから間違っていると言われるのではないか。役所もこういう形で色々介入してしまうと、それに慣れてしまいます。自由化の時代とかグローバリゼーションなどと呼ばれる時代がきても、その行動パターンを変えることが出来ない。90年代の「失われた10年」というのも、その切り替えが上手く出来なかった時代ではないか。今も、切り替えは十分に出来てはいない。そういうことが問題なのだと思います。つまり、30年前、40年前の政策が間違っていたとは言えないのではないでしょうか。かつての政策を引き摺ったことによって、時代の変化に官なり民なりが柔軟に対応することができなかったことが問題なのだと思います。 菱川:お話は大変理解できます。おっしゃられたように、70年代の頃の成長神話にすがってしまっているのではないか、というところが非常に心配なわけです。つい最近、ある会で、今日と似たようなお話をしたとき、ある方から「(外資政策も含め)過去の産業政策があったから日本の70年代・80年代の栄光があったのだ」といわれました。私は1990年代初頭にアメリカの大学院にいたのですが、当時アメリカでも、授業で日本の産業政策のメリット、つまり通産省がいかに国内産業を指導し、ここまで発展させたかを学びました。当時アメリカは、経済不況に苦しみ、国民は自信を失っていましたから、日本の高度経済成長の一要因に産業政策が取り上げられ、学ぼうという姿勢が強かったのです。ただ、日本ではあの「成功神話」に長年すがりついている。塩川大臣の記者会見にもそれがうかがえますよね。私にとっても個人的に非常に心配なことです。 村上:先ほど5業種というのが出てきましたが、見ていると、農林、小売、流通業、、、とまさに現在の日本経済の足を引っ張っているところですよね。もちろんそういう外資政策というのは、これらの産業を守るということに関して成功しています。しかし、1950年代から60年代にかけての日本の驚異的な成長が可能となったのは戦略産業を選別したり傾斜生産方式を取ったことではなく、地方から都市への良質の労働人口の大量流入や、中小企業の高い起業率、失敗してもやり直せるフレキシブルな産業構造や環境があったためだという研究者もいます(David Friedman等)。例えば、銀行が土地を担保にお金を貸し出し始めたのは1970年代ころからと言われていますが、それ以前は銀行家の裁量でリスクがとられていたのでしょう。1950年―60年代は「責め」でしたが、70年代以降は「守り」の体制になった。70年代になって、産業構造が硬直化してきて、オイルショックを理由にそれを更に維持する方針がとられ政・官・産業の鉄のトライアングルが温存されたように思います。ただ、今の結果を見てみると、これらの業種を守ったことが本当に良かったのか。こういうことをもっと長期的な視点から見た場合に、どうなのかな、と思います。 菱川:確かに、例えば外資政策のおかげで日本の経済成長率が1960年代-80年代に10%アップしたとしても、21世紀、例えば2010年までの長期間で平均してみて、本当に目覚しい経済成長だったかどうかというのは、非常に難しいところですよね。 村上:ハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター氏と一橋大学大学院国際企業戦略研究科科長の竹内弘高先生らが2000年に出版した「Can Japan Compete?」という本があります。彼らは通産省が行政指導などを行った業種や企業、それから成功した業種や企業、成功しなかった企業のデータを集めて検証しています。それを見ると、政府が行政指導や口を出せば出すほど、成功していなかったという皮肉な事実が分かるんです。そういうデータをもっと日本の政策に反映させることが出来ると、いいのではないかと思います。 菱川:それは凄くおもしろいですね。例えば、日産とプリンスの合併は、通産省の佐橋さんなどが音頭を取って、1960年代に外資対策として実施されたのですが、その後なかなかシェアが伸びませんでした。1960年代、日産は、国内では30%か40%くらいシェアを持っていて、トヨタか日産かと言われていました。しかしその後、だんだんシェアを落とし、結局1990年代終わりになって、ルノーの資本参加を受け、ゴーン氏が改革を断行することになった。興味深いですね。 兪:日本が段階的に外資を導入していったのが良かったか悪かったか、というのは非常に難しい問題だと思います。先ほど村上さんがおっしゃったように、日本の国内で保護された産業と保護されなかった産業を比較するのは1つの方法だと思いますが、同時に国際比較のようなことが出来ると面白いと思います。東欧の国々や韓国などがOECDに入っていますが、どこも比較的政府の統制が強かった国ですよね。でも、それぞれの国で、外資の導入の速度は違ったと思います。
このような国々で外資の導入後5年なり10年なりが経って、消費者にとってどちらが結局有利だったのか。こういうことを調べると、インパクトがあると思います。これからASEANなどの国が外資を導入する際に、外資を一気に入れてしまったほうがいいのか、それとも日本のように段階的に導入するのがいいのかというのが分かると思います。ひょっとしたら、日本のような方法 |
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村上:消費者の観点からも考えてみたいと思います。先ほどのお話にもありましたが、日本は産業が成長の原動力だと言われてきて、今もそれが続いていると思います。ですが、例えば、日本の場合GDPの6割は消費が占めています。(もっともアメリカの場合7割ですが。)そのなかで、輸出の割合というのは1割です。そういう数字を見たときに、消費と産業とどちらを伸ばしたらGDPが伸びるのかと考えると、やはり消費なのではと思います。(論座「消費者冷遇の国、日本」(http://pranj.org/papers/ronza-mura.htm)しかし、先ほどの塩川さんの発言などを聞くと、政府の方々はまだ産業が原動力であるという考えだと思います。ただ、これからの日本の成長を考えるにあたって、これからもモノづくりで行くのか、それとも消費をもっと増やすような形にするのか。その転換点というのは、まだ来ていないような気がするのですが、そのあたりはどうでしょうか。
遠藤:消費者の観点ということに関してですが、景気が悪いときにどのような経済政策を取るべきかを議論するときに、必ず金利を下げますよね。しかし、消費者が貯蓄を持っているので、その利子所得を拡大するために金利を上げる。それによって可処分所得が増えて、消費が増える。そういう理屈もありうるわけです。つまり、消費を増やしたければ、1つの可能性として、金利を上げるべきだという議論もありうるわけです。しかしこういう議論は、おそらくマクロ経済のなかではまったくなされていない。実際は、それとまったく逆の方向で議論する。消費者ではなくて、企業の活動を刺激しなくてはいけない。そのためには金利を下げるべきだ。こういう話に必ずなりますよね。
お店側としてもキャッシュよりクレジットの方を好むようになりますよね。それから個人に対しても、自分の給料の10%を越える分の20%について、カードを使った分を自分の課税標準金額から引いて良いことにしました。例えば1年間に300万円の稼ぎがある場合、クレジットカードで年間50万円使えば、50万円から30万円(300万円の10%)を引いた分の20%、つまり4万円分を差し引いた296万円が自分の課税対象所得となるわけです。こういう政策で、クレジットカードの使用にインセンティブをつけています。 |
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遠藤:金融分野のリストラクチャリングとか、コーポレートのリストラクチャリングというのは、韓国では非常に進んでいるといわれています。それはまさに、IMFが入ったからですよね。IMFから借りたお金も、韓国はあっという間に全部返してしまいました。経済も元に戻ってきているし、長年できなかった構造改革も行いました。それに比べて日本は、ずっと引き摺って来てしまっています。構造改革がどれだけ出来たか、というところだけ見れば、凄い差がついてしまった。なぜ韓国でできて日本でできないかというのは、1つには大統領制が理由だと思います。韓国ではたまたま金融危機の後に金大中が大統領になりました。韓国ではアメリカと同じように、青瓦台に秘書官たちをそろえ、彼らが大統領の意向の下に政策を作るわけです。ですから、法案や政策案を各役所に回す、というようなことはないわけです。日本の場合は、自民党の中でさえ合議制ですよね。ですから、コンセンサスを作るだけでも時間がかかるし、元々鋭いアイディアもどんどん矛先が丸くなってしまう。昔は輪を持って尊しとなすということで良かったけれども、今の時代は、スピードや独創性、リーダーシップが問われる時代で、日本のそういう政治システムというのはフィットしなくなってしまった。韓国の場合は、たまたま大統領制がうまく働いたのではないかと思います。 村上:私の研究所で去年行った日本プロジェクトで、政治家や企業の方々にインタビューを行いました。その中で、大統領制の方がリーダーシップが発揮できるのではないか、という質問に対してある大物政治家の方が、「そんなことはない。日本のような議院内閣制でも、国会で過半数があれば、実は首相というのはリーダーシップを発揮できるようなフレクシビリティーがある。小泉さんのときのように国民の支持率が高い場合でも、それは同じだ」とおっしゃいました。それを聞いたときに、それなら何でやらないのかな、と思ったのですが。 江口:消費に関して、日本経済の6割を支えている消費を刺激しない限り、日本経済の復活はないのではないか、という点についてはまったく村上さんのおっしゃるとおりだと思います。では、どのようにして消費を刺激するかという点に関してですが、利便性という意味では、日本、特に東京は合格点だと思います。ワシントンと比べると買う物もいろいろそろっていますし、価格も下がってきています。心理的な面に関しても、企業精神と消費者の観点を比べた場合、私は消費者としての心理が結構強いのではないかと思います。特に若い人は、消費者としては非常に優れた目で物事を見ています。ただ、投資というのははっきり言って興味ないんです。そのような中で、どうしたら消費を刺激できるのかというと、例えば多少安いオレンジが入ってきたところで、たいした刺激にはならないのではないかというのが、私の意見です。色々モノが増えても、飽和状態の上にモノがくるだけで、たいした刺激にはならないと思います。もっと抜本的なところに手を入れなければいけない。生涯ローンを支払いつづける呪縛から逃れない限りは、もっと車を買おうとかテレビを買おうとかいう抜本的なところには行き着かないのではないかというのが、私が最近考えている点です。では、どうしたら住宅が安くなるかというと、これはまた大問題ですので、これから議論していかなくてはいけないところだと思います。 村上:米国に比べて、日本の住宅の値段が非常に高いことがわかります。これは、まさに菱川さんがお話してくださった「外資を入れない政策」によって、国内構造が高コスト体質になっていることが一因です。つまり、守ってきたから値段が高いままなのです。例を出して言うと分かりやすいと思います。私は先日、知り合いの方の家に遊びにいきました。都心の閑静な住宅街に土地をもっていて、そこに3階建てくらいの家を建てたということなんですが、とても小さい家なんです。それでも、8000万円とおっしゃっていました。アメリカだったらこれより格段に安い値段で、この3倍くらいの広さの家が買えてしまう。3倍どころか、ガレージの中にこの家が入ってしまうくらいですよね。何故こんなに値段が違うのかというと、日本では国内産業の競争が低く、高い値段でも売れたからなんです。そのしわ寄せが全て消費者に来ている。適正な競争さえあれば、ひょっとしたら8000万円ではなくて、5000万円か、もしかすると3000万円で買えたかもしれない。それが全て消費者の負担になっている。ひょっとしたら日本の消費者はそのことを知らないのではないかというのが、私がこちらに来てから感じたことです。ですから今日、菱川さんにお話していただいたことは非常に重要なことなんです。結局、メンタリティーが変わっていないということは、これからもずっとこの高コスト体質が続いていくということですよね。そのしわ寄せがすべて消費者に来る。それでもいいんですか。それでもまだ、産業を主軸とした成長政策というのをこれからも続けていくんですか。そういうことを本質的に議論していただきたいですね。 菱川:あと、誰がどの産業を選ぶかですよね―政府なのか、市場なのか。アメリカでは、非常に問題になりますよね。連邦レベルで産業政策があるのかどうかという点でそもそも議論になってしまうような国ですから。将来の産業としてだれがどの産業を選ぶのか。塩川大臣のおっしゃられるような、「これからも政府が産業をリードしていくべきだ」というのは、少し違うのではないかと思います。 村上:例えばホンダやソニーのように、世界に冠たる企業というのがありますよね。ああいう企業は、果たして本当に政府に保護されてきたのか疑問ですし。あとは、農林関係とか小売といったいつもネックになっているようなところは、これからもこのまま続いていくのか。これから外資をどんどん入れていきましょう、と言ったところで、外資の日本国内への投資件数は増えていない。本当に小売などの分野に外資をこれからどんどん入れていくのか。その後はどうするのか。そういったところが非常に気にかかるところですね。
菱川:あと結局、採算がたたなければ、外資であろうが、国内企業であろうが撤退しますよね。やはり日本経済を立て直さない限り、何をやっても難しいのではないでしょうか。外資も企業ですからね、これは商売にならないな、と思ったら退きますよね。外資に対する期待というのが徐々に高まっていますが、外資も別に慈善事業を行っているわけではありませんから、そのあたりをきちんとわきまえた上で、期待もそこそこにしておくべきなのではないかと思います。リアリスティックなアプローチが必要なのではないでしょうか。
中村:住宅ローンに関して、モーゲージを取り入れたらいいのではないかという議論がありますが、私もこれを取り入れれば、市場が活性化されるのではないかと思います。猪瀬直樹さんなどが入っている審議会でも既に案として出ているようですが、中興住宅の市場を活性化させるという意味で、日本でモーゲージを取り入れるというのは、難しいのでしょうか。難しいのではないかという話を以前聞いたのですが。
また、市場が大きくなったので、債券の売買や、中古住宅の流通も増えました。日本の場合は、一戸建ての中古住宅というのは、ほとんどないと聞きました。売る場合は、一度更地にしないと売れないのです。このとき、更地にするための費用300万円ほどは自分持ちです。ですから、子供たちも出て行ってしまって、老夫婦2人になってこの家をどうしようかというときに、売れないわけです。壊すとしたらお金がかかりますから、ずっと住んでいる。おじいさんとおばあさんの二人だけになったのに、大きな家に住んでいて、全然中古住宅の流通が進まない。ですから、日本の場合はまず市場を作らなければならないわけです。市場を作るというのは非常に大変なことですから、それで日本ではモーゲージを導入するのは難しい、という議論になるのではないでしょうか。 |
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