PRANJワークショップ記録 

    「政策産業とそのメカニズム」 座談会 (続き)

上野真城子 (アーバン・インスティチュート 研究員)
渡部恒雄(国際戦略問題研究所 日本部 主任研究員)
渡邉聡(アメリカン・インスティテュート・フォー・リサーチ 主席研究員)
和田絵里香(国際経済研究所 客員研究員)
池原麻里子(国会TVワシントン代表)
中林美恵子(アメリカ議会予算委員会 勤務)
一色良太(トヨタ自動車勤務、国際経済研究所 客員研究員)
司会 村上博美(経済戦略研究所 研究員)

2002年1月17日 CSIS戦略国際問題研究所 (ワシントンDC)


和田:しょうがないですから「国際経済研究所の東京オフィスを作ってくれ」と言っているのですけれど(笑)。 ただ、もう一つ日本で政策産業が育たない理由として、ビジネスサイドの意識の違いもあると思います。国際経済研究所で仕事を始めた時、日本人の役人の方やビジネスでいらした方に会う度に、「どうして国際経済研究所が成り立つのですか」とよく聞かれたのです。「ロビイストだったら分かるけれども、どうしてシンクタンクにお金を出すのか」と。これは今のアメリカの外交政策につながる部分もあると思うのですけれども、アメリカでは政府もビジネスも直接的利益だけを狙ってお金を出しているわけではないと思うのです。今日本では、「日本の経済情勢が悪いのはアメリカの口車に乗ったからだ」という雰囲気があるような感
じがするのですが、アメリカの政策を作っているスタッフがアメリカの国益だけを考えて強いドルを支持してきたかというとそういうわけではないと思うのです。アメリカの国益だけを考えて中国に「WTOに入れ」だとか、他の国に「自由貿易をやれ」と言っているわけではなくて、「回り回ってアメリカにとってもいいけれども、あなたの国にとってもいいでしょう」と。あなたに負担を押し付ける、という考えではないと思うのです。
 
 
上野:ただ両方ありますけれどね、アメリカの場合は。

和田:けれど、国際経済研究所がどうして成り立っているかということに関して
は、「間接的な利益」というものをすごくよく分かっている人達がビジネスの中にい
る。日本のビジネスのトップにはそこが難しいのではないかなと感じます。

上野:それはまさにフィランソロピーの問題、日本になぜノンプロフィットの独立
セクターができないかという問題になるわけです。アメリカでは、それこそカーネ
ギーなど20世紀初頭の資本家たちが相当の労働搾取によって膨大な金を儲けます。それ
でカーネギー財団など巨大な財団が創られました。それがなぜなのか、という所にア
メリカの資本主義の最も特徴的な要素があります。こえは税金逃れということで説明
は出来ません。つまり、「フィランソロピー、ノンプロフィットセクター、デモクラ
シーをどうするか」という問いかけが、企業家資本家を含めてアメリカ社会にある
わけです。これは元を辿れば、「国家というのは必要であるけれども悪である、国家
は必ず悪いことをする、人権・個人の自由というものを侵し得る」ということを考え
て憲法と人権憲章を作った国造りの原点に行きつきます。その上で「いかに政府をよ
くできるか」が国民、民間の責任と考えるわけです。賢い政府には外の頭脳が必要
だ、というのがブルッキングスをはじめとしたシンクタンクの考え方なわけです。政府
は必要だけれどもそれは必ず悪くなるから、それを外から監視することと、政府を賢
くするのは、独立・民間の力だ、と。それをやっていかないとデモクラシーはうまく
いかないというのがアメリカのフィランソロピー、ノンプロフィットの非常に重要な
精神としてあると思っています。これが日本では理解されない。

村上:少し方向を変えて、アメリカの政策産業を語る時にはやはりメディアの存在
を軽視するわけにはいきません。こちらでの政策産業におけるメディアの役割という
ものがどういうふうに重要であるか、国会TV代表の池原さん如何でしょうか。

池原:メディアの方にとっては、記事などを書いていく上で必要になってくると思
います。これだけのシンクタンクがあって様々なリソースがあって、政権にいた人が
シンクタンクに入ったりその逆もあったりということで、「この人の所に行けばこう
いう話が聞ける」というのがデータとしてあるわけです。例えば湾岸戦争の時であれ
ば、共和党系の所に行けば賛成論がたくさん出てきて民主党系の所に行けば反対論
が出てくる、というようなことでバランスの取れた記事の書き方ができる。そういう
意味でメディアにとっては大変便利なリソースである。逆にシンクタンク側にしてみ
れば、自分達が今どういう研究をしていて、どういうポジションを持っている人を抱
えていて、ということについて貴重なPRのチャンスになります。これに関して最近の
傾向としてすごく分かりやすいのは、例えばブルッキングスなどで、「長い論文や本
を書くのに1、2年かけるよりも、Op-Ed(署名入り評論記事)などでメディアに取
り上げられるような1ページのものをどんどん書け」と言われるのです。それによっ
て”exposure”(露出)が増えるということです。実際に、どのシンクタンクが1
年間で一番引用されたかというランキングのつけ方などもあるくらいです。自分達の
政策論がメディアを通して外に出されることによって資金調達も来るという効果も
あって、全体的に枠として成り立っているということだと思います。

上野:メディアというのはデモクラシーにおける第4の権力として非常に重要な役
割を持っているわけです。ジャーナリズム、特にアメリカのジャーナリズムというの
は、いかに政策というものを伝えていけるか、政策論争というものにどう参加でき
るか、ということを重要な役割にしているというところがあって、ものすごくアメリ
カのデモクラシーの重要な機構ですよね。
 

池原:テレビの側としてはニュースに割ける時間というのはすごく限られていて、ビデオからの抜粋しか流せない。けれど、これだけシンクタンクがたくさんある中で様々なシンポジウムが行われていて色々な議論がされているわけです。C-SPANなどはノンプロフィットの組織なので、それを最初から最後まで流すことができる。それを見る人はごく一部の興味ある人だけなのでしょうけれど、そういうことが議論されていてそれを見たい人は見られるという環境があるというのはすごく重要なことだと思います。議員の人達も、夜ジムに行っている時も見ていたり、「一番好きなのはC-SPAN」と言っていたりする。

上野:家庭の主婦として聞いていると、NPR (National Public Radio)とC-SPANというのは重要な社会認識の道具で、いい情報を流していまね。C‐SPANなどによって、視聴者は限られているかもしれないけれど、市民の政策理解能力というのものははるかに上がって来ていると思います。一方で、NHKの国際放送で流れてくるのが50年も変わらないようなプログラムです。私はずいぶん小さい時からNHKのラジオはよく聞いていたけれども、「ああまだ同じことをやっている」となつかしくも、驚きです。日本の変わらないことのすごさ。でもこれは非常に問題です。日本のジャーナリズムというのも課題がたくさんあると思います。

村上:トヨタの方がいらしているので是非お聞きしたいのですが、トヨタはこちら
のNPOであるシンクタンクに資金を出している日本企業ですが、その動機について聞
かせて頂けますか。

一色:私は今、国際経済研究所のビジティング・フェローとトヨタのワシントン事
務所と両方仕事をしているというある意味特異な立場にいます。こちらに来る前は、
経済諮問会議や産業競争力会議などのサポートの仕事をしていたということもありま
すので、そういう視点から、アメリカのシンクタンクがどういうふうに政策形成に関
わっているかということについてお話させて頂きます。
日本においては、例えば田中直毅さんのシンクタンクを豊田章一郎が経団連会長の
時に作ったわけですが、これはある意味でみなさんにもおなじみの思想によるもので
す。当時は、学者はいても、日本で言ういわゆる「学者」しかいないということで
す。そこに、アメリカのような思想を形成するシンクタンクを作ることでパワーバ
ランスだけの政治に新風を吹き込めないか、もう少し議論を表に出せないかという考
えがあったわけです。トヨタの社風は、とにかく議論をすること、そしてぶつかるこ
とはいいことだ、というのがありますので、そういう発想でおそらく作ったのだと思
います。アメリカにおいても似たような発想でやりたい、というのがありましたし、
私もこちらに来てつくづく思ったのですが、色々な会社が実は色々な所にお金を入れ
ていると。

先程のお話にもありましたけれども、こちらのシンクタンクは、Op-Edに入れるこ
とで資金を積むわけですが、両面あるのですよね。あくまで表面上は中立を保たない
とならない。中立でなくなった途端にそのシンクタンクは価値を失う。一方でお金は
やはり必要ということで、いかに資金集めに動いているかということはお金を出す側
も分かるし、内部でそれを受ける身としても分かっている。ですから、専門知識も
あって、且つそれを上手くハンドリングできる人が育っている所がアメリカと日本の違
いだろうと思います。日本でシンクタンクを作ろうとしても、「学者」は雇えるが、
彼らはそれを政策に落とし込む所まではできない、或いは出来たとしても、それをう
まく政治の場で売り込む人がいない、というのが日本の悲しい所でしょう。市場がで
きれば育つという部分もありますから、それを作ろうという動きは充分にある、とい
うことを言っておきたいと思います。

それから、私は国際経済研究所にいて、やはり「アメリカの」シンクタンクなんだ
というのをつくづく感じます。「巡り巡ってあなたにもいいでしょう」というその一
線はもちろん踏み外しません。それがなくてはシンクタンクとしての意味がなくて、
ただ叫んでいるだけで日本の政治家と一緒ということになりますから。けれど、どこ
まで行っても「アメリカ」ですよね。日本においても、そのように最後まで日本の利
益を主張して、「でも勝手なことを言っているのではない、日本のためにだけ言って
いるのではない、アメリカにとって悪いことを言っているのではない」ということを
世界に対して正々堂々と理論立てて主張できる、そういうシンクタンクが出来てくる
とまた影響力を持つのだろうなと思います。

もう一つはやはり議院内閣制ですね。ここに来て色々な方の講演を聞いていて、最
終的には議院内閣制という仕組みがアメリカとは違うのだということを思いますし、
そこをしっかり認識した上でないとアメリカからいくら学んだって同じようには到底
できません。一人一人の議員が意見を言い法律を作ることができるアメリカの仕組み
と、日本のように党議拘束というものがどこまでも存在する世界とでは、所詮シン
クタンクを作っても同じようには成り立たない。そういう中でなぜ経団連がああいう
シンクタンクを作ろうとしたかというと、現在の枠組みの外、経済界やもっと独立し
た所で世論を巻き上げるような仕組みを作れないだろうか、ということだったのだろ
うと思います。そうやって地道にやっていくしかない。
 

渡邉:私はアメリカン・インスティテュート・フォー・リサーチという所で研究員をしています。ワシントンで研究をしていてよかったと思うのは、研究のための資金が豊富にあるということ、もう一つはデータ、特にミクロデータがものすごく揃っているので、様々なデータ分析が可能であるということです。その資金に関して質問があるのですけれども、これは研究者にすごくシビアな問題で、お金がなかったら食べていけないし研究などやっている場合ではないのです。日本で研究のお金を取るというのはすごく大変だと思うのですけれども、アメリカでは1億とか、百万ドル単位のお金が簡単に出てくる。少なくとも私のモニターに、「プロポーザルを集めています」という省庁からの呼びかけが毎日10件くらい来るのです。そして少なくとも一件5千万から1億、多い時には数百万ドルというすごい額のお金が目の前で動いているのです。そのほとんどが「研究や評価をお願いします」という内容なのですけれども、そのようにファンドを出す側が中立を守ってフェアーな配分でやっているというのが非常に重要な点だと思うのです。「日本で政策産業を育てる為に、新規事業の1%を政策評価に」という主張ですけれども、1%と言えばかなりのお金ですから、一つの 産業が出来ますよね。その産業の中で、アメリカにあるようなシンクタンクが出てるでしょうか。或いはどのようにその1%の資金を配分すれば政策評価がうまくいと思われますか。
上野:それは問題です。金が無くてもできることもあり、金があっても出来ないこ
とがあります。でも私は1%の資金が出てくればノンプロフィットのシンクタンクと
いうものを作ることが出来るだろうと考えています。メカニズムが出来るからです。
例えば援助局が事業費の数パーセントを政策評価に回すということを考えた時にどう
するかというと、「某国の援助プロジェクトが実際にどれくらいの有効性を持ってい
て、どういう結果が出ていて、成果を図り、評価せよ」と、何百万ドルというお金
をつけます。その何万ドルかの予算のプロジェクトでは、こういう成果を出すように
企画されます。そして「このプロジェクトにこういうことに関しての分析と評価が欲
しい」という仕様が示されて入札が行われます。色々なシンクタンクが、「我々だっ
たらこういう人間を使ってこういう評価をしてこういう成果を出す、それについてい
くらのコストがかかる、その政策にどういう成果があったのか、色々な手法でもって
我々は解答してみせます。」と言うわけです。つまり生産物(商品)として政策研究
プロジェクトが取引市場に出されるわけです。国家予算がついた商品です。これを省
庁 が発注し、入札によって契約をして、民間のノンプロフィットが資金を得て生産
し、 これを省庁が購入することになります。ノンプロフィットは自分達の経営方針を明
確にした上で、このお金はこういうふうに使うという予算書を含めて入札し、契約を
とります。

そして実際に政策プロジェクトとして分析・業績測定などをするために調査、分
析、情報収集など様々な作業があるわけです。「公共財の生産、政策産業の担い
手」という産業には、様々な専門人材がいります。政策研究を企業としてどう運営して
いくかということを考える研究起業者と、リサーチが分かり、且つ研究費でどうやっ
て食べていけるかということを考えられる経営幹部、そして政策研究者、さらに予算
の中でどれだけの頭脳を使ってどういう生産物にするかということを考える管理マ
ネージャーというのが必要です。そして政策研究の評価をするのに、アナリストとITの
スペシャリスト、統計専門家、情報管理者がたくさん入って情報分析・情報処理をし
ます。且つその成果を広く公開公表するために(政策研究は公共財ですから)、広報・
メディア担当がいます。また何億というお金が動くわけですから研究契約担当者とい
うスペシャリスト、そして経理・会計・監査がいる。このように様々なスペシャリス
トが入って成立しているのが、政策産業です。こえはまた政策評価費というものがど
のように使われているかを説明しようとしているものです。保留資金が出来れば、こ
ういう人材が出て来て、シンクタンクが出来てくるだろうということです。

和田:これから郵貯が民営化されて、特殊法人の人が溢れて出てくるわけですよ
ね。そうするとこの1%の予算というのが結局全てそちらに流れてしまうような気もす
るのですが。彼らが今やっているのは、曲がりなりにも「政策評価」ということで、
その名目の下でそういった所で働いている天下りの役人がたくさんいるわけです。そ
の中で、素人が見ても分からないように操作していい結果を出す、というのはそれ程
大変なことではありません。ですから政策評価に予算をつけるというのはとてもいい
ことなのですけれども、重要なのはやはり「中立的な政策評価が出来るシステムを作
る」ということであって、お金を前面に持ってきてしまうと特殊法人の受け皿に
なってしまうような気がするのです。しかもまだシンクタンクが出来ていない状態で、
これまで政策市場がなかった所、そして三菱総研か日本総研か野村総研か、どこのシ
ンクタンクにいい政策評価ができるかということを評価できる人もいない所にお金だ
けをつけても意味がないのではないか、その前の段階で、政策評価というものがどう
いうものでどういうことをしたらいいのかという所からやっていかないと、第二の特
殊法人の資金源になってしまうような気がするのです。

上野:それは本当にその通りだと思いますし、実際に有効に使えるものがどれくら
い出てくるかというのは、「脳力・知力・治力」のない所ですから本当に大変だとは
思います。ただどちらが先かはやってみないと分からない。今ようやくNPOというも
のが出来始めていて、また税制も変えられるかもしれないという感じになっている。
もちろん税制を変えられたからといって強力なNPOができてくるかといったらそんな
に簡単ではない。でもシステムとお金がついていけば何か変わるかもしれない、私は
それに賭ける、という感じなのです。だめになる可能性も高いかもしれない。ただ特
殊法人との違いは、市場競争をするということです。政策評価も市場競争をして結果
をオープンにして下さい、と。そうしたら使い物になるかならないかは皆が考えるこ
とですから。ただしその時には国民も利口でなくてはならない。膨大なキャンペーン
が必要だと思います。
 

                     
中林:このシステムの発達したアメリカの中で見ていても、本当の中立というのはどこにもないと思うのです。ということは、「競争させる」ということが第一だと思うのです。中立だろうが右だろうが左だろうが、競争相手さえいない所では何も出てこないので、まずは競争させるシステムを作ることが大事でしょう。

上野:そうです、少なくとも拮抗する2つの選択肢が出てこなくてはならない。選択肢があること、それがデモクラシーの基本だと思います。

平林:税制面での配慮というのも大切です。アメリカのビジネスが気前良く出せるのは、そういった公共政策に対して税制面で費用控除措置というのがあるからです。日本の場合大体1%ですけれども、アメリカの場合は最高で5%まで免除措置がある、というのが大きな違いです。出す側から言えば、例えばトヨタの場合、別に日本にシンクタンクがなくてもアメリカのシンクタンクにお金を出して免税措置にして日本の政策を作ってもらうということができる。事実、今アメリカのシンクタンクがそういう機能を果たしているのではないかという気はしています。
 

一色:「中立」と言いますけれど、企業は長期的に見て自分にとって全く利益にな
らない所にはお金は出しません。そんな無駄は逆に株主に対して失礼な話です。例え
ば自由貿易を推進してくれる所があれば、それは支持します。そしてそこが政府や世
間で評価されているのであればそこにお金を出します。そうして、いい提言をどんど
ん出している所にはどんどんお金が集ってくる、ということになる。例えば今鉄鋼問
題が出てきていますが、そうすると色々な所から色々な研究をしているという情報が
ぽんぽん入ってくる。やはりそうやって活躍できる人達がお金を取れる成果をどんど
ん出していく、それがまた相乗効果で盛り上がっていくという流れがシステムとして
アメリカで上手く機能しているのだろうなと思います。どこの企業もお金を出す時は
最後には株主に説明できるように理屈を立てます。そうでないと中でも当然通りませ
んよね。当然のことが当然のように企業の中で行われている、そのベースラインは競
争だ、ということではないでしょうか。

先程和田さんがおっしゃったように、日本もこれから変わっていくと思います。い
い方向か悪い方向か分かりませんけれど、とにかく揉めざるを得ないし、議論をする
状況になってくる。それに備えて内閣府も出来たし、何と言っても情報を公開しよう
ということについても圧力がどんどんかかってきていますから、私は大きな希望を
もっていきたいと思っています。

上野:企業のお金もすごく大切だと思いますし、企業は企業で市場経済の中でどう
生き残るかということを考えてお金を出していくのは当然だと思います。けれど、ア
メリカの場合は非常に大きな要素として財団がありますよね。ロックフェラーを始め
として、膨大な数の財団があってそこに資金があるというのはすごく大きな違いです
よね。アメリカの財団の理念と日本の企業利益の考え方には違いがありますが。我々
の研究所にしてみれば、貧困研究が基盤にありますから、それにお金を出すところは
企業ではありませんし、実際は非常に限られています。そういう意味で我々は政府の
資金を取ることを考えます。
「中立性」という言葉の解釈は非常に難しい。私はむしろ「独立性」ということ
が大切だと思っています。その基本は、出来る限りの科学的、学問的な思考を基とする
ことと、そして常に既存の思考と権力に対して疑問を持つこと、批判的であること
で、この独立的であることがアメリカの民間・独立シンクタンクを支えている重要な精
神だと思っています。

 福沢諭吉が『西洋事情』を書いたのが1865年、アレクシス・ド・トクビルが
『アメリカン・デモクラシー』を書いたのが1835年。これはフランス人のトク
ビルがアメリカに一年ほど滞在して書いた世界的名著古典ですが、この2つはアメリ
カ社会に何を見るかということに関して非常に面白い比較になります。福沢諭吉は必
死になって日本の官学の駄目さを説いて、自分でも呆れるほどに、日本人からも相当
に嫌われながら西洋の思想を伝えようとしました。日本の成長のためにはどうしても
西洋化しなければならない、と西洋一辺倒になってしまって、そこにアジア人蔑視が
あったことが非常に問題なのですが、彼がやろうとしたことは日本にとって非常に
重要だったと思います。それから岩倉視察団もあります。日本はいくつかのピークを
経ながら、近代化を西洋化の流れの中でやってきました。終戦後もデモクラシーの導
入をはかりました。その過程で今ひとついつも日本主義というものから出られません
でした。色々な意味でこの日本主義における限界というものがあります。今、21世紀
に入って、このグローバルなマーケット・デモクラシーの時代にどう日本が生きられ
るか、非常に難しいと思います。私は徹底して「政策分析」ということを伝えていく
こ とからやってみたらどうだろうか、と考えます。福沢諭吉のあたりから勉強してみ
る と日本の近代化の流れと限界がよく見えるのではないかと思います。

(終)


文責 木下史子氏  (ありがとうございました)

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