■ 『政策海外ネットワーク “PRANJ”レポート』(2001年12月6日Newsletter配信)
         「アメリカ人株主の多様性」

         石田猛行:Investor Responsibility Research Center (IRRC) リサーチ・アナリスト

はじめに
外国人株主に対してどのような印象を持ちますか?

日経新聞は2000年6月27日の一面トップ記事の見出しを「外国人持ち株2割に
迫る」として、その中で「外国人は株主として発言力を強めており、日本企業は資本
効率を意識した経営姿勢を一段と求められそうだ」と述べています。記事の言ってい
ることは事実ですが、同時にこの記事を見て「一方的に経営陣を追いつめようとす
る」、「資本効率を重視するあまり、大規模なリストラ等を要求する」のような“よ
くわからないけど、なんだか怖い存在”として外国人株主をイメージする方が多いの
ではないでしょうか?

私はIRRCにて日本企業の株主総会の情報分析やコーポレート・ガバナンスの調査を担
当し、その情報を主にアメリカの機関株主に提供してきました。IRRCでの業務から
知ったのは、アメリカの株主コミュニティーは一枚岩ではなく、各株主が様々な方法
で経営者にアプローチしていることです。“よくわからなくて怖い”株主もいるかも
しれませんが、そうでない株主もたくさんいます。

しかし、そのような多様性は、あまり日本では報道されていないようです。むしろ、
アメリカの機関株主の活動のうちの派手な一面のみが強調され、それが画一化され、
その結果として実態のないアメリカ人株主脅威論のようなものが存在している気がし
ます。

そこで、このレポートではアメリカ人株主の多様性について述べたいと思います。

会社に不満があった時
会社に何の不満もなければ、株主は沈黙したままです。では、株主活動に積極的なア
メリカの株主が、会社の方針に不満があり、経営陣に対して会社方針の変更を求めよ
うとする場合には、どのような行動を起こしていくのでしょうか?

株主行動の第1段階
まず、第1段階として、なんらかのコミュニケーションを経営陣に取ろうとします。
手紙による場合もありますし、電話をかけることもあるでしょう。直接対話を求める
場合もあります。この段階で経営陣からきちんとした説明がなされ、それに満足した
場合には、それ以上の株主行動は取らない場合も少なくありません。また、経営陣と
コミュニケーションが持てたこと自体に満足することもあります。(コミュニケー
ションを取ろうとすることまではしなくとも、株主総会での経営側の議案に賛成しな
いという形で意志表示をする方法等も頻繁に使われていますが、それに関してはこの
レポートでは取り上げません。)

株主提案―株主行動の第2段階
しかし、経営陣が誠意を持って対応しない場合や、どうしても妥協点が見つからない
場合に、株主は次の行動を取ります。それがこのレポートのトピックである「株主提
案」の提出です。株主提案とは、株主が会社への要求を株主総会での議案という形で
正式に提出することです。その数と種類の多さは日本の比較になりません。(後述す
るように、最初に株主提案を提出してからコミュニケーションを経営陣に取ろうとす
るパターンもあります。)

去年はアメリカの時価総額上位2000社に対して、791件の株主提案が提出され
ました。単純に平均すれば約2.5社につき1件の株主提案が提出されたことになり
ます。

アメリカでは株主提案の得票率が50%を超えても、必ずしも経営陣はそれに従う義
務はないのですが、過半数の株主が支持しているという事実を経営陣が無視すること
は困難です。実際に過半数の賛成を集める株主提案も珍しくなく、経営者にとっても
それは大きな関心事なのです。

株主提案のプロセス
株主提案は提出さえすれば自動的に株主総会で投票にかけられるわけではありませ
ん。その他に2つの取り扱いがあるからです。まず第1のケースとして「提案の取り
下げ」があります。これは株主と経営陣が交渉の上、経営陣が妥協案を示すかわり
に、株主が提案を取り下げることを言います。

この場合、提案株主にとっては、何らかの形で彼らの要求が認められたことになるの
で、一定の成果を得たと解釈されます。そのため、実際に投票にかけられても多くの
得票が期待できない場合には、提案の取り下げはむしろ好ましい結果といえます。提
案の取り下げは株主と経営陣が納得のいくコミュニケーションを持ち、両者が妥協点
に到達したことを意味しているのです。

提出した株主提案が株主総会の議題にならないもう1つのケースは、「株主総会議案
からの除外」です。これは経営陣が、提案の内容が株主総会にはふさわしくないと判
断したときに、その提案をボツにしてしまうことです。当然、株主にとっては望まし
くない結果です。株主の要求が全く認められないからです。

レフェリーとしてのSEC
しかし、経営陣の判断だけでは株主提案を総会議案から除外することはできません。
そこで、株主と経営陣の意見が分かれた場合は、SEC(米国証券取引委員会)がレ
フェリーの役を努めます。SECは経営陣が株主提案を議案から除外できる要件を定め
ていて、それに基づいて、経営陣に株主提案の除外を許可するかを決めます。とは
いっても、かならずしも明確な基準が存在するわけではなく、SECのスタッフの裁量
によるところが大きいのが現状です。

SECが除外を認めるときに最もよくある理由は、「通常の業務に関する株主提案は株
主総会の議題としてふさわしくない」というものです。しかし、何をもって通常の業
務を意味するのかについては、常に論争が絶えません。ニューヨーク市職員の年金基
金が提出した株主提案に対して、SECが経営側に除外を認める判断をした際には、そ
れを不服として同年金基金がSECに対して訴訟を起こしたくらいです。

昨年の株主提案
前置きが長くなりましたが、昨年中にアメリカの時価総額上位2000社に提出され
た株主提案を見てみましょう。株主提案は一般にコーポレート・ガバナンス関連と企
業の社会問題関連の2種類に大別されます。株主提案の提出者には様々な主体が含ま
れ、年金基金、労働組合年金、教会関連の基金、社会的責任投資ファンド、個人等が
あります。

コーポレート・ガバナンス関連の株主提案は522件提出されましたが、内容として
は敵対的買収防衛策の廃止を要求するものや、取締役会の独立性の向上を求めるもの
等があります。

敵対的買収防衛策というのは、アメリカの80年代のすさまじいM&Aブームの中で、
敵対的買収を恐れた経営者が作り出した手段です。買収防衛策には様々な種類のもの
がありますが、「株主の利益を犠牲にした経営者の保身手段に過ぎない」として株主
の反発を買いました。ちなみに、今日のアメリカの機関株主による株主運動の起源
は、敵対的買収防衛策に対する反対運動だと言われています。

社会問題関連では269件の株主提案がありました。そこには環境、人権、労働等の
広い領域が含まれています。

コミュニケーション満足度
株主と経営陣のコミュニケーションの程度を知る1つの目安として、提案主体別の
「提案の取り下げ」数に注目してみます。まず、全体として見ると、株主提案が合計
で980件提出された内、24%にあたる241件の提案が取り下げられています。
(1つの提案を複数の株主が共同で提出する場合には、それぞれの株主を別にカウン
トしてあるため、ここでの数字は上の株主提案数(791件)より大きくなっていま
す。)

取り下げが意味するのは前述のとおり、提案株主と経営陣との間でコミュニケーショ
ンがもたれ、両者が何らかの妥協点に到達したという事です。つまり、株主提案を提
出した株主の内、少なくとも24%の株主が経営陣とのコミュニケーションに満足し
たわけです。そこで、このレポートでは、全体の提案数に対する取り下げの割合を
「コミュニケーション満足度」と定義することにします。

労働組合年金
コミュニケーション満足度が最も高いのは64%を記録した労働組合年金です。な
お、ここでの労働組合というのは基本的に職場ではなく、職種毎に組織された組合の
ことです。彼らは165の株主提案を提出しましたが、106もの提案を取り下げて
います。コミュニケーション満足度の定義から言えば、株主提案を提出した労働組合
年金が100組織あったとすると、すくなくとも64組織が経営陣と満足なコミュニ
ケーションを持てたことになります。しかし、実はこの数字の高さは、労働組合特有
の株主行動スタイルによるところが大きいのです。

労働組合年金は会社に変更を求めようとする際には、最初に株主提案を提出する傾向
があります。そしてその後で、経営陣に対してコミュニケーションを求めるのです。
一般的には前述のとおり、まずはコミュニケーションからスタートして、妥協点が見
つからないときに、株主提案を提出します。そのため、提出後に交渉を再開しても、
妥協点は容易には見つからないのです。ところが労働組合年金はいきなり提案を提出
する分だけ、それからの交渉で妥協点に到達できる場合が多いわけです。労働組合年
金は株主提案をきっかけとして経営陣を交渉のテーブルにつかせようとしていると言
えます。

教会関連の基金
教会関連の基金も、30%と高いコミュニケーション満足度にあります。彼らは26
0件の提案を提出しましたが、79の提案を取り下げています。教会関連の基金と聞
いて不思議に思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、これは教会などの資産運
用を行っている組織のことを指します。近年日本でもエコファンドが話題となりまし
たが、これは社会的責任投資とよばれる分野に入ります。この分野はもともとアメリ
カで発展しましたが、その原動力となったのが教会関連の基金なのです。

個人株主
次に個人株主を見てみましょう。コミュニケーション満足度は2%に過ぎず、全体で
382もの提案をしたにもかかわらず、たった9提案しか取り下げていません。

その一方で「株主総会議案からの除外」は134件と多く、個人による提出件数の3
5%にもなっています。前述のとおり、株主総会議案からの除外は、総会の議題とし
て適切でないとして、SECが経営陣に除外を許可したものです。この割合は個人が圧
倒的に多く、次に教会関連の基金の7%が続きます。個人株主は、時には首を傾げた
くなるような提案をすることがあり、その種の提案が除外の比率を高めていると言え
ます。

しかし、だからと言って経営陣は個人株主の提案を軽く見ているわけではありませ
ん。たとえ個人株主による提案であっても、大手機関株主が賛成することによって、
総会で過半数の支持を得ることがあるからなのです。

例えば、デパートチェーンを経営しているFederated Department Storeに対して、有
名な個人株主活動家であるエブリン・デイビス氏が敵対的買収防衛措置の廃止を求め
る提案を昨年提出したのですが、それは株主総会で75%の支持を得ました。機関株
主による株式の保有が進んでいるアメリカで、このように個人株主の提案が高い得票
率を得ることがあるのは、機関株主が個人株主の提案を支持することがあるからなの
です。

そして年金基金
これまで述べたように、アメリカでは様々な株主主体が株主提案という形で株主活動
を行っています。にもかかわらず日本では、その影響力の大きさからか、アメリカの
年金基金の株主行動ばかりが報道されるようです。彼らが一躍脚光を浴びたのは、1
992年のGM(ゼネラル・モーターズ)会長が更迭された際に演じた役割においてで
した。GMの株価の低迷に、年金基金等の大株主が不満を募らせ、GMの社外取締役がそ
の意向に沿う形で会長に退陣を強く迫ったと言われています。翌1993年にはアメ
リカン・エクスプレス会長、IBM会長、ウェスチングハウス・エレクトリック会長等
の退陣があり、年金基金等の機関株主はそれらの解任劇でも大きな役割を演じまし
た。

このような経歴をもっているため、年金基金はさぞ多くの株主提案を提出しているだ
ろうと思われるかもしれませんが、昨年は49提案しか提出していません。資産規模
や保有株式の多さを考えれば、49提案というのは「以外と少ない」と思われたので
はないでしょうか?しかしながら注意すべきは、年金基金自らは積極的に株主提案を
提出しないとしても、他の株主による提案に賛成するという形で、大きな影響力を行
使していることなのです。

さいごに
このレポートで紹介した株主より、さらに株主行動に積極的な株主もいます。例え
ば、少数の株式に集中投資し、それを長期にわたりに保有することによって、深く経
営戦略に関与する株主もいます。その一方で株主活動のような面倒なことはしない
で、気に入らなければだまって株式を売却する株主も多く存在します。アメリカの株
主の世界は多様なのです。

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