■ 『政策海外ネットワーク “PRANJ”レポート』(2002年4月18日Newsletter配信)
「開発援助におけるマイクロクレジットの役割を考える」
杉原ひろみ:ロンドン大学大学院農村開発専攻
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「マイクロクレジット」とは?
マイクロクレジットとは、発展途上国における低所得層の貧困緩和を目的として行
なわれる「小規模融資」のことだ。例えば、家具作りができるがその道具を買うお金
が ないという男性や、スカーフ作りで一定の売上げがあっても、原材料を買うのに高
利貸しで借金をし、その返済のために手元に利益が全然残らないという女性――こう
した貧困層の人々が小口の融資を求めて銀行に行っても、「額が小さすぎる」「担保
がない」「土地を持っていない」「借り手は字が書けない」などを理由に断られてし
まう。つまり彼らは、元手がないから商売を始めたり拡大したりできない→商売を始
めたり拡大したりできないから元手がいつまでも出来ない、という貧困の悪循環に
陥っているのだ。そこで、このような人々を対象に小口融資をし、「自力で」貧困の悪
循環から脱出する手段を提供しようということで導入されたのがマイクロクレジットだ。
貧困層により近く、効果的な援助法として大いに期待されて広まったマイクロク
レジットだが、他の多くの援助法同様決して万能ではなく、様々な問題点が指摘され
ている。ここでは、マイクロクレジットが出てきた背景、その利点と問題点を整理し
てお伝えする。
途上国援助の潮流とマイクロクレジット
第二次世界大戦後の50年間、幼児死亡率の低下、平均寿命や識字率の向上と
いった点で、途上国への援助は全体として大きな成果を収めてきた。その一方で、世界
銀行の『世界開発報告書』2000年度版によると、未だに世界人口60億人のうち
28億人が1日2ドル以下、12億人が1日1ドル以下の貧困生活を強いられてい
て、貧困問題が解決したとは言えない状況のまま来たことも事実だ。また、1990年
代、東西冷戦が終結して旧共産主義国が援助対象国となる中で、援助がイデオロ
ギー支援の手段でなくなり、また、援助の効果に疑問を持ち、「援助疲れ」というよう
な政府開発援助の減額の動きが特に欧米で見られるようになった。
そうした中、援助を効果的・効率的に行なうため、持続可能な成長と貧困緩和とい
う目標に絞込み、その達成のために、マクロ経済面だけでなく、社会的、政治的、人
的側面など、成長を阻んでいると考えられるあらゆる要因に注目しようという視点が
重視されるようになった。そしてそのような開発援助の潮流の中で、多くの開発援助
機関が注目するようになったのが、「マイクロクレジット」である。モデルとなった
のは、1983年にムハマド・ユヌス博士が設立したグラミン銀行で、バングラデ
シュの農村の貧困層に金融サービスを提供するべく設立されたものだった。グラミン銀
行は、これまで女性を中心とした村人約200万人に対し、約20億ドル以上の貸付
けを行なっている。これまで融資対象になり得ないと思われた貧困層を対象に融資
し、しかも高い返済率を維持し続けている――そうした成功が世界中に知れ渡り、アジ
ア、ラテンアメリカ、アフリカ等でも活発に行なわれるようになった。現在、マイ
クロクレジットは世界中で毎年約3〜4千万件行なわれ、数億人が恩恵を受けている
と推定されている。その結果、例えば竹細工職人の1日当たりの収入が増え、子供を
学校に行かせられるようになったり、貯蓄が出来ることで飢饉など不測の事態に対処
できるようになるなど、貧しい人たちの経済的自立を助けている。
4つの利点・特徴
マイクロクレジットは、女性のエンパワメント、農業生産の促進、零細企業の育成
等を通じて貧困層の所得向上を目指すもので、その特徴としては、主に次の四つが挙
げられる。
第一に借り手の多くが貧困層の女性であるという点。女性は、十分な担保を持って
いないこと、識字率が低いこと、書類手続きに不馴れであること等を理由にリスクが
高いとみなされ、融資を受けることが難しかった。そこでマイクロクレジットは、担
保に代わる連帯保証制度、非識字者に対する訓練、より簡単な書類手続きなどを導入
することで、女性が融資を受け、積極的に生産活動を行える環境作りに一役買ってい
る。
第二の特徴は、マイクロクレジットの対象が、露天商や行商、その他サービス業な
どのインフォーマル・セクターや農村部の零細農家である点だ。例えば、農村から運
んできた野菜や果物を売る露天商の場合、融資を受け、常設バザールに店を構えるこ
とができれば経営安定と拡大が可能になる。また零細農家の場合、融資を受けること
で換金作物を取り入れたり鶏の飼育をすることができ、所得向上が可能になるのだ。
第三に、融資期間が短期で、一般の銀行が取り扱わないほど小額であり、且つ慈善
事業でないという点だ。融資額は途上国の経済レベルや機関ごとに異なるけれども、
大体50〜3,000ドルの範囲で、比較的高い金利がつく。小額の融資であろうと
も高額の融資と同様に審査や監督をしなければならず、その手間賃がコストに反映さ
れるためだ。また返済責任があるので担保を取る必要があるが、借り手が十分な担保
を持っていないことが多いため、グループ連帯責任制を取ることによって貸し倒れリ
スクを低く抑えたり、融資サービスをより効率よく行えるよう努めている場合が多
い。
第四は、マイクロクレジットの実施方法や実施機関が多種多様であるという点。実
施方法は大きく二つに分けることができ、政府や開発援助機関によるプログラムとし
て実施される場合と、マイクロクレジット専門機関によって独自に行なわれる場合と
がある。また実施機関としては、銀行や協同組合銀行などの金融機関とNGOなどがあ
る。
問題点
発展途上国の貧困緩和のために効果的な方策として世界的に広まったマイクロクレ
ジットだが、その有効性についてはまだまだ議論の余地がある。過大な期待感と共
に現実との落差からくる否定感もあって、その意義や方法、効果が議論され、望まし
い方向性が模索されている最中だ。
具体的に指摘されている問題点としては、第一に、激しい融資競争と返済率の低下
がある。グラミン銀行の成功が世界中に知られて以降、特に1990年代から先進国
政府や国際機関が貧困削減プログラムの一部としてマイクロクレジットを積極的に取
り込んで、実施機関に対して資金や技術協力を行ってきた。その結果、マイクロクレ
ジット機関が乱立して融資競争が起き、一部の機関では融資審査が甘くなり、返済
率の低下という事態が起きてしまった。
また「貧困層のためのマイクロクレジット」と言っても、最貧困層まで融資が行き
渡らないことが多いという現実がある。マイクロクレジット機関は自らの財政基盤を
考えると、寡婦や老人など最貧困層に属する人は「リスクが高い」として、融資を行
わないケースが見られる。
更に、農村部などの僻地へサービスを拡大するのには限界があるという問題もあ
る。 都市の人口密集地と異なり、農村部では家々が分散しているため、融資の回収コス
トがかさんで監視が行き渡らず、貸し倒れリスクが高くなる可能性も大きい。どの機
関も、回収コストと貸し倒れリスクを低く抑えるためのシステム作りに努めているが
充分とは言えず、またその努力自体が金利を押し上げるという構造にもなっているの
だ。
最後に根本的な問題として、開発援助プロジェクトとしてマイクロクレジットを行
なう場合、プライベートの金融機関と比べて監督が甘くなりがちであり、「贈与」と
「融資」を混同するケースがまだまだ多いということがある。つまり借り手が、
「借りたお金は返済するものだ」という意識を持ち続けられる仕組みが十分に出来上
がっていない場合が多く、プロジェクトが失敗に終わることが多々あるのだ。
今後の課題――真に意義ある援助法を目指して
マイクロクレジットは、貧困層の人々に金融へのアクセスを与えるという点で画期
的だったが、実施すれば即、貧困削減に結びつくほど万能ではない。例えば零細農家
の場合、土地生産性自体が低く、水や道路、橋の整備など農業生産インフラが整備さ
れていない場合も多い。また家具作り職人でも技術的な問題を抱えている場合もあ
り、更に物を作ったとしてもマーケティングができない場合もある。開発援助を行う
際、マイクロクレジットの導入だけでなく、こうした零細農家や家具作り職人の技術レ
ベルや彼らを取り囲むインフラに配慮し、包括的に行なうことが大切である。そし
て、 「何を目的に、どの層の人に対し、どの地域でどれくらいの規模のマイクロクレ
ジットを実施するのか」を常に明確にすることによって、本当に貧しい人々のニーズに
応え、彼らの経済的・社会的な地位の向上につながる形でマイクロクレジットを活用
できるよう再検討する必要がある。
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