■ 『政策海外ネットワーク “PRANJ”レポート』(2002年2月7日Newsletter配信)
        
  「自治体の通信簿」
  □ 中村美千代:フリーランス・ジャーナリスト
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 日本では「住みやすさ」や「教育」などで自治体のランク付けがさかんだ。米国で
もさまざまな分野でランク付け、格付けがあるが、日本と異なるのは、はっきりした目的、対象を持っていることだ。企業の格付けは投資家向け、大学のランキングは就職をにらんだ学生の指標に、「住みやすさ」は移動性の高い国民にとっての引越しの指標になっている。

 さて、米国では、自治体の行政経営そのものに成績をつける、ということも行われている。日本でも「地方分権の時代」と言われ辣腕をふるう知事や市長が出始めており、財政危機から地方自治体の行政経営のあり方への関心が高まっている。今回のニュースレターでは、米国の自治体の行政経営の成績付けについて紹介したい。

 米国の地方自治体関係者らに広く読まれている雑誌’Governing’では1999年から毎年二月に、州や市、カウンティ(郡)の行政経営の成績を発表している。1999年二月には五十州の成績、2000年には三十五の大都市の成績をつけた。2001年には五十州を再訪して改善があったかどうか調べ、もう一度成績を発表した。2002年の今年はカウンティの成績を発表した。

 財政経営、資本運用、人事、成果志向の行政経営、IT活用の五分野の観点から、州は三十五、市は二十二の基準を設けて評価している。各州や各市に基準に沿って質問事項を送りつけ回答を得、一方で会計検査官、人事やIT担当者、市民団体など一回の特集の調査で約千人にインタビューした大変なプロジェクトである。これだけの調査を雑誌の記者のみで行うことは不可能なので、シラキュース大学のマックスウエル公共政策学部の学生たちも協力した。メディアと大学の共同調査、というのもおもしろいが、もっと興味深いのは、この調査の資金援助をピュー・チャリタブル・トラストという慈善団体が行っていることである。米国ではこのように学者やメディアの意義のある調査の資金を慈善団体が出している場合が多い。ピュー・チャリタブル・トラストは行政経営の改善を追求する団体である。

 自治体の成績発表という今回の記事を担当した’Governing’の記者の一人、キャサリン・バレットさんは「従来のメディアは政治やスキャンダルが中心で、税金がどのように使われているか、という点で本来大変重要である行政経営にはあまり関心を向けてこなかった。今回の特集で成績発表という形をとることで、難しく思われがちな行政経営についてわかりやすく人々に紹介できたと思う」と言う。

 成績発表はAからFまで情け容赦のないものであり、低い成績をつけられた自治体からは当然文句が出た。しかし記事に対しての不満は予想よりも少なかったという。1999年の五十州の調査で総合成績Dという最下位の成績をつけられたアラバマ州の役人でさえ「もっと悪い成績をつけられてもいいくらいだ」といったそうだ。バレットさんは記事が出た後、アラバマ州のリーダーグループの会議に招かれたが、そこで多くの人から「記事のおかげで人々が目を覚まし現実を直視するようになった」と感謝されたと言う。当時新知事が就任したばかりで将来に向けて悪いところは改善しようという雰囲気があったそうだ。その改善の成果で、2001年の再評価では総合成績がC-に上がった。

   自治体の評価をする際に、州では三十五、市では二十二の基準を使っているが、この基準が非常に具体的でポイントを押さえ、かつ先進的なものになっている。例えば、五十州の「財政経営」の評価基準には「歳入と歳出の構造的なバランスがとれているか」という基本的なものがある一方で「ハイリターンが見込めリスクを回避する投資や金融政策を取っているか」と民間企業並みの水準を要求する項目もある。

また「複数年の視野で予算を組んでいるか」など着目すべき項目もある。

 日本でも自治体のランク付けはあるものの、「住みやすさ」や「行政サービス」な
ど単発で行われており、包括的な視野で行政経営を格付けしたものはあまりない。行政評価が普及し始め、本当の意味での地方自治が望まれる現在、同種の試みを日本で行う意義は高いのではないだろうか。

 また’Governing’は八万五千部発行されているが、行政経営を取り扱ったこのような硬い内容の雑誌がこれだけの発行部数を出していること自体驚くべきことである。米国国民の自治体の行政経営に対する高い関心の表れであろう。
 ‘Governing’のHP(http://www.governing.com/)には現在2002年のカウンティの成績を発表した最新号の記事が載っている。またサーチで1999年から2001年までの過去の記事も閲覧できるようになっている。興味のある方はご覧になっていただきたい。

 このニュースレターは、昨年、上山信一氏と中村が共同執筆して雑誌「地方行政(時事通信社出版)」に寄稿した記事の要約である。さらに詳しく内容を知りたい方は、上山信一著「日本の行政評価−総括と展望」(2002年1月刊、第一法規出版)にも収録されているのでそちらをご覧になってください。
 

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