■ 『政策海外ネットワーク "PRANJ"レポート』   第7回目
   「国会TV

  □ 池原 麻里子  :C−NET(国会TV)ワシントン事務所 代表

1.国会TVとの出会い
 私がジョージタウン大学院で国際関係と国際ビジネスを学ぶ為にそれまで勤務していたソニーを退社してワシントンDCに来たのは88年のことだった。たまたま90年春、卒業を控え、ソニー法務部時代の先輩、阿川尚之氏のご紹介で田中良紹氏というTBSのディレクターとお目にかかることになった。田中氏のお話を伺うとC−SPANというアメリカの公共政策専門ケーブル局の日本での独占配給権を獲得したので、日本でも国会審議の放送を中心としたC−SPANのようなTV局を設立したい。その為に90年2月にC−NETという会社を設立したので、そのワシントン代表を探しているということだった。

 田中氏はTBSで何度か日米摩擦の番組を制作したことがあったが、実際にアメリカで取材してみると、日本で見たり読んだりしている報道と異なることがしばしばあるということを体験しており、生情報の重要性を感じていた。また、政治記者としての体験から、アメリカでC−SPANというケーブル局がアメリカ連邦議会の審議内容をそのまま放映していることに驚き、日本の政治の閉鎖性を打開するには日本にも同様のTV局を設立し、国会を放映すべきだという考えに至った。

因みにアメリカ連邦議会は本会議も、公聴会も国家機密に関わる極一部を除いて全面的に公開されており、一般市民も傍聴することができるようになっている。しかし、日本は国会法52条で「委員会は議員の外傍聴を許さない」と規定しており、一般市民は議事録もアクセスし難く、国会審議の模様はマスメディアを通じてしか知ることができなかった。

 日本にいた時はノンポリだった私だが、ワシントンから日本の政治や政策形成プロセスを見ていると歯がゆいことばかり。国会テレビジョンは面白そうな話だと早速、お受けした。実を言うと学生時代にケーブルTVにアクセスがなかった私はこの時点ではC−SPANを見たこともなかったし、どういう局なのかもよく知らなかった。

 ワシントン事務所長に就任するとまず事務所設立の手続きから始まった。知人の弁護士達に相談し、連邦政府やワシントンDC政府に日本の株式会社のエージェントとして登録。公認会計士から納税申告について学んだ。C−SPANとの契約でその一室を事務所として貸りることになっていたが、机、書棚、事務用品など一から揃えねばならなかった。事務所が整うとC−SPANの番組内容とポリシーについて学んだ。ホワイトハウスや議会のプレスパスも入手した。

2.C−SPANとは
 C−SPANとは「ケーブル・サテライト・パブリック・アフェアーズ・ネットワーク」の頭文字で下院本会議にTVカメラが導入された79年にケーブル業界が支える非営利団体としてブライアン・ラムが設立した組織である。その後、下院に遅れること7年、上院本会議にも86年にカメラが導入され、C−SPAN2が設立された。放送内容も本会議以外に公聴会、ホワイトハウス、国務省、国防省の記者会見、米国内の様々なシンクタンクのシンポジウム、ナショナル・プレス・クラブでの要人のスピーチなど放送するようになった。

C−SPANでは視聴者が政治家、官僚、ジャーナリスト、専門家に直接、質問できるコールイン・ショーが人気が高い。数年前から始まったラジオ放送はマイカー通勤者に好評である。現在、ケーブル加盟者8千万世帯がベーシック・サービスの一部であるC−SPANにアクセスできる。C−SPANはケーブル会社からの一世帯当たり6セントの上納金と約250名の社員で運営されている。

3.国会TV設立までの経緯
 日本では89年7月の参議院選挙で自民党が大敗を喫し、8月に国会改革小委員会で田中氏が国民の政治不信の解消策としての国会テレビジョン構想を説明した。その結果、自民党は国会テレビジョンを国会改革の重点項目として取り上げ、90年3月に衆議院の議員運営委員会に国会審議テレビ中継小委員会が設置され、本格的な検討が始まった。

91年には国会自身が本会議場と予算委員会室にTVカメラを常設し、国会の中の実験的な中継が始まった。しかしその後、国営と民営のどちらにするかの議論に結論が出ず、頻繁な政権交替で審議メンバーが変わる度に一から検討し直し、その度にC−SPANに視察団が来るなど、国民向けの国会テレビ中継が始まるまで予想外に長い道のりとなってしまった。国会での凍結状態に反し、93年末には国会テレビジョンに賛同する「国会TVをつくる会」という市民の会ができた。同会はシンポジウムを開いたり、ワシントンでアメリカ議会やC−SPANを視察するなどの活動をしながら、国会に対して国会テレビジョンの実現を呼びかけて頂いた。

 その間、我々C−NETはC−SPANの素材からアメリカ政治、経済、外交問題など日本に興味のあるものを選び、毎週1時間にまとめ和訳をつけたビデオを作成し官庁や政党、民間企業などに配給した。また日米関係をテーマにした情報番組をTV東京やTBSで放送して、細かいアメリカ情報を伝えた。

 結局、97年に衆議院の国会審議テレビ中継小委員会が国会テレビジョンは「国営も民営も可。誰でも無料で映像は提供する」と決定。C−NETはCS放送の申請をし、98年1月10日に念願の「国会TV」の放送をパーフェクTV(当時)で始める。

4.国会TVとは
 現在、 国会TVはスカイパーフェクTV、 インターネットと一部ケーブルTVで国会本会議や委員会審議模様を中心に放送している。複数同時進行の委員会については予算委員会など優先度の高いものから生中継し、その他は録画放送をしている。コールイン・ショー「政治ホットライン」という番組では議員の方々を一人ずつゲストにお迎えし、議員になられたきっかけや現在、取り組んでおられる問題などについて伺い、視聴者からの質問に直接答えていただくという他の局にはない試みを行なっている。

時には新聞社論説委員の方々や評論家、元政治家にもゲスト出演していただいている。他局のタウンホールミーティング的な番組では質問が事前に準備されているが、国会TVでは視聴者の電話を受信した順番につないでおり、どんな質問が出るか全く予想できない。事前に質問内容が判からない番組など怖いと出演を断わられる議員の方もおられる。しかし、政治家が身近に感じられるし、素朴な疑問にも答えてもらえると視聴者には大評判である。因みにこの3月からインターネット放送をKOKKAITV.COMで始めたので世界中から質問できるようになった。

5.国会TVが抱える問題
 我々は当初C−SPANと同様にベーシック・サービスに入れば経営が成り立つと考えていた。しかし、スカイパーフェクTVは色々なサービス・パッケージが乱立しており、事実上は自由選択制でベーシックというシステムが成り立っていない。自由選択性なのでスポーツや漫画専門の娯楽性の高い局ばかりに視聴申し込みが集中する。

国会TVのような公共性の高い局はできるだけ国民全員が視聴できることが望ましいのだが、現在はそういう環境ができていないので悪戦苦闘しているのが現状である。年初、財政的苦境に陥った時には視聴者の方々が国会TVに出演して寄付金を呼びかけて下さったり、署名運動をして総務省に直訴して下さったり、駅前や団地で国会TV加入を呼びかけるビラを配付して下さったりと国会TVを支える様々な活動をして下さった。この方達は「国会TVこそ自分達のテレビだ」と市民運動を展開して下さったのである。私が日本を離れているうちに日本も随分、変わって市民意識が高まって来たのだと皆様の暖かいご支援にとても感動した。

 スカイパーフェクTVは2002年のサッカー・ワールドカップの独占でもない放映権料に135憶円と一社として最高額を支払い、無料放送する予定である。加盟者全員にサッカーが無料放送されるのに、国会TVにアクセスできるようなシステムが作られないという事態を皆さんはどう思われるだろうか。何かご意見があれば pranj@pranj.org 宛てにメールをください。

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